【京のミュージアム#10】清水三年坂美術館 繊細で深淵な輝き 「近代尾張七宝の名工とその時代」展 12月11日まで

金属の下地にガラス質の釉薬を焼き付けて装飾する七宝焼は、繊細で透明感のある色合いと深淵な輝きで人々を魅了して来ました。日本の七宝焼の技術は、明治時代にピークに達したと言われています。その日本近代の七宝焼の名品を展示した「近代尾張七宝の名工とその時代」展が、清水三年坂美術館で開かれています。現代ではアクセサリーなど比較的小さなものが多い七宝焼ですが、そんなイメージが一変する展覧会です。
「近代尾張七宝の名工とその時代」展
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会期
2022年9月17日(土)〜12月11日(日) -
会場
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観覧料金
一般800円、高大中学生500円、障がい者手帳をお持ちの方と付き添い者1人は50%引き
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休館日
月・火曜日
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開館時間
10:00〜17:00 (入館は午後16時30分まで) -
アクセス
市バス「清水道」下車徒歩7分 - カレンダーへ登録
詳しくは清水三年坂美術館ホームページへ

会場に入るといきなり、高さが80~90センチもある花瓶や香炉が迎えてくれます。特に足の長い香炉は伝統的な香炉にはあまり見ない形です。薄く青みがかったグレーの地に大柄のカモが描かれています。花瓶は茄子紺地に菊の花が散りばめられて、深い光沢を放っています。どこかアール・ヌーヴォーを感じさせる印象的な作品です。


七宝焼は焼き物ですが、ろくろを使う陶磁器とは異なります。金や銀、銅などの金属の地に、ガラス質の釉薬を高温で焼き付けて装飾した工芸品です。100年経っても変わらないと言われるほど、色が褪せず深淵で幻想的な輝きを保ち続けます。実際、展示された作品はほとんどが明治20~40年代の作なのですが、その輝きは今生まれたかと思わせるほどです。


担当学芸員の朝山衣恵さんは、七宝焼の見所について「圧倒的と言っていいほどの手間のかけ方を見てほしい」と言います。簡単に製法を説明すると、まず銅板など金属の下地を木槌で叩いて形を作ります。そこに金属線を貼り付けて模様の形を作り、その枠の中に釉薬を差していきます。これを高温で焼成するのですが、金属線の高さまで釉薬を埋めるため、何度も釉薬を差しては焼成します。焼き上がったら表面を磨きます。焼く前に銀線を抜く「無線七宝」というものもあります。境界線が無くなり、やさしい印象になるそうです。また「


花や蝶などの細かな文様を見ると、金属線で形を作ったとは信じられないほどです。作品全体に文様を施すには、よほど根気がいったでしょう。また、老眼ではとても出来ません。実際に若い職人が担当したようです。朝山さんは「特に植線を施すのが難しいカーブや角の部分を見てほしい」と言います。職人たちの究めた技術の高さが分かります。じっくり見るにはルーペがあるといいでしょう。有料にはなりますが、美術館で借りることもできます。


七宝焼の名前は仏典に由来します。仏典の金、銀、

展示を見ていくと「無銘」という表示が多いのに気が付きます。当時は作品を見れば誰が作ったかが分かったので、「銘」を付ける必要がなかったという理由もあるそうです。職人たちのプライドを感じます。
表面を埋め尽くす細かな絵柄や模様、植物や動物の繊細な線を見ると、とても銀線で枠取りをして描いたものとは思えません。100年経っても褪せない美しい色と、神業のような技術を堪能できる展覧会です。
◆清水三年坂美術館
2000年に幕末から明治の金工や七宝、蒔絵、薩摩焼などを常設展示する、日本で初の私設美術館として開館した。京都の観光地である清水寺の門前、産寧坂にある。所蔵品は約1万点に及び、1階の常設展示室で特に優れた名品を展示している。七宝や蒔絵の実物を使った制作工程の展示もあり、どのようにして美しい色ができるかよく分かる。年4回2階の特別展示室で開かれる企画展では、常設で展示仕切れない所蔵品を公開している。
★ ちょっと一休み ★
清水三年坂美術館の斜め向いにある甘味処「甘党茶屋梅園 清水店」。甘すぎない上品な味と観光客にも人気の店だ。注文したのは「みたらし団子と抹茶わらび餅」(810円)。団子は丸くなくて俵型。この形にすることで火が通りやすく、タレに漬かる面積も大きくなるのだそうだ。食べてみるとちょうど良い焼き加減で香ばしい。タレもよく染みている。わらび餅も弾力があり、抹茶の微かな苦みや渋みが口いっぱいに広がる。ぜんざいやお汁粉、あんみつなどメニューも豊富。抹茶、ほうじ茶、グリーンティーなどの飲み物もあり、セットメニューにもできる。営業時間午前11時~午後6時30分(ラストオーダー午後6時)。休みは年末と年始の振替え休日。
(ライター・秋山公哉)