【奈良】「国宝 聖林寺十一面観音」を360度拝観できる新しい観音堂が完成

伏し目がちな観音様と目を合わせて参拝できる

「神々しい威厳と、人間のものならぬ美しさとが現わされている」と哲学者・和辻哲郎が著書『古寺巡礼』に記した聖林寺(奈良県桜井市)の国宝・十一面観音菩薩立像。約1300年前に造られた天平彫刻の至宝です。
昨年(2021年)6月~9月には、史上初めて奈良県を出て、東京国立博物館で展示されたことを、覚えている方も多いことでしょう。


聖林寺の旧観音堂は、2021年5月から耐震・改修工事が行われ、2022年8月1日からリニューアルした観音堂での拝観がスタートしました。総工費1億7000万円のうちの一部は、3回のクラウドファンディング(計約5600万円)で募りました。
観音堂リニューアル事業発願ほつがんからの約5年間、新型コロナウイルスや様々な困難があった中、倉本明佳住職は、「観音様の事業があったおかげで前を向くことができました。(リニューアルによって)安心安全になったお堂で、さらにご縁が繋がるように。この後の1300年、2000年も3000年も無事に。生まれ変わっても観音様に会えるのではと、ご縁が続くことを祈念しております」と思いを語ります。

国宝・十一面観音菩薩立像と倉本住職

360度拝観が可能に

南海トラフ級の大地震にも対応できる独立の免震展示台ケースを導入。今まで拝観できなかった背面まで360度参拝できるようになりました。透明度が高い高透化ガラスで低反射コーティングが施されているため、遠目から観るとケースが見えないようにすら感じます。
倉本住職は、ガラスケースを「ガラスのお厨子」と表現。博物館と同等の保存環境を保ちながらも、観音様がおわすお堂であり、祈りの場であることが分かります。

150年前の祈りの空間が再現

観音堂の入り口。釣燈籠には十一面観音の光背(残欠)が描かれている

風除室と前室が増築されました。前室と収蔵庫とは、約1メートルの高低差があり、参拝者が前室から仰ぎ見ると観音様と目が合うという、約150年前の大御輪寺だいごりんじと同じような祈りの関係性が再現されています。
十一面観音菩薩立像は、かつて同じ桜井市の三輪山みわやまをご神体とする大神おおみわ神社の神宮寺「大御輪寺」(旧大神寺)の本尊でした。明治期の神仏分離令による廃仏毀釈はいぶつきしゃくの影響で、聖林寺に運ばれ、以来、大切に守られてきました。当時の大御輪寺は、双堂ならびどう形式という前後に2棟のお堂を接続し,一つの空間を構成した造りでした。

伏し目がちな観音様と目を合わせて参拝できる
ドーム型の白い天蓋

「観音様は、伏し目がちで、少し前傾姿勢のお姿をしており、前堂から参拝者が仰ぎ見て目が合う形で安置されていたと言われています。今回の改修工事では、当時の参拝の関係を再現したいと考えました」と、設計を担当した北川・上田総合計画株式会社の上田一樹副所長は説明します。

収蔵庫の天井は、直径5.2メートルの半円球型のドーム状になっており、宇宙を表現した天蓋になっています。床や前室のベンチなども奈良県産の吉野杉を使用し、外壁も吉野杉の緻密な木目の型枠をコンクリートに転写する、こだわりのデザインです。
和辻哲郎、フェノロサ…多くの人々に感銘を与えてきた美しい姿を新たな祈りの空間で確かめてください。
(ライター・いずみゆか)

霊園山聖林寺
住所:奈良県桜井市下692
拝観時間:9:00~16:30
拝観料:大人600円
アクセス:近鉄・JR桜井駅より奈良交通バス談山神社行き「聖林寺」下車すぐ
桜井駅からは、徒歩で約40分
TEL:0744-43-0005
公式URL:http://www.shorinji-temple.jp/