谷崎の世界観を最先端の照明で表現 展覧会『LIVE+LIGHT In praise of Shadows 「陰翳礼讃」現代の光技術と』 東京・京橋で9月25日まで

LIVE+LIGHT In praise of Shadows 「陰翳礼讃」現代の光技術と |
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会場:BAG-Brillia Art Gallery-(東京都中央区京橋 3 丁目6-18 東京建物京橋ビル) |
会期:8月26日(金)~9月25日(日) |
開館時間:11:00-19:00 |
定休日:月曜日 ※祝日の9月19日(月)は営業(翌日振替休) |
主催:東京建物株式会社 |
企画監修:公益財団法人 彫刻の森芸術文化財団 |
企画制作:株式会社LIGHT & DISHES |
演出ディレクション:遠藤豊(ルフトツーク) |
サウンドスケープ:畑中正人 |
グラフィックデザイン:林琢真 |
詳しくは(https://lightanddishes.com/news/article/426)へ。 |
文豪・谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』といえば、誰もがその名を聞いたことのある名エッセイでしょう。谷崎が理想として思い描いた世界を近年、急激に進化している光の技術で再現した展覧会です。「光」と「翳り」が形作る繊細な空間を味わうことができます。作品とモチーフになった『陰翳礼讃』の一節を合わせて紹介します。


1.こちらは和紙を通した柔らかな光の魅力です。
既に行燈式の電燈が流行り出してきたのは、われわれが一時忘れていた「紙」と云うものの持つ柔らかみと温かみに再び目覚めた結果であり、それの方がガラスよりも日本家屋に適することを認めてきた証拠である。

2.特殊なフィルムを貼ったガラスを通した濁りのある光
われわれは一概に光るものが嫌いと云う訳ではないが、浅く冴えたものよりも、沈んだ翳りのあるものを好む。それは天然の石であろうと、人工の器物であろうと、必ず時代のつやを連想させるような、濁りを帯びた光りなのである。

3.器に浮かぶ闇と淡い光。「輪島キリモト」の漆器です。
日本の漆器の美しさは、そう云うぼんやりした薄明かりの中に置いてこそ、始めてほんとうに発揮されると云うことであった。(中略)漆器と云うと、野暮くさい、雅味のないものにされてしまっているが、それは一つには、採光や照明の設備がもたらした「明るさ」のせいではないであろうか。事実、「闇」を条件に入れなければ漆器の美しさは考えられないと云っていい。

4.食材を魅力的に見せる光と翳
日本料理は食うものでなくて見るものだと云われるが、こう云う場合、私は見るものである以上に瞑想するものであると云おう。そうしてそれは、闇にまたたく蝋燭の灯りと漆の器とが合奏する無言の音楽の作用なのである。

5.暗い空間でこそ生きる「黄金」の輝き
その照り返しは、夕暮れの地平線のように、あたりの闇へ実に弱々しい金色の明かりを投げているのであるが、私は黄金と云うものがあれほど沈痛な美しさを見せる時はないと思う。(中略)たった今まで眠っていたような鈍い反射をしていた梨地の金が、側面に廻ると、燃え上がるように輝いているのを発見して、こんなに暗い所でどうしてこれだけの光線を集めることが出来たのかと、不思議に思う。(中略)現代の人は明るい家に住んでいるので、こう云う黄金の美しさを知らない。が、暗い家に住んでいた昔の人は、その美しい色に魅せられたばかりではなく、かねて実用的価値をも知っていたのであろう。なぜなら光線の乏しい屋内では、あれがレフレクターの役目をしたに違いないから。

6.光のかたまりが明暗を行き来し、陰翳のあやを表現します
美は物体にあるのではなく、物体と物体との作り出す陰翳のあや、明暗にあると考える。

本展を企画制作した谷田宏江さん(株式会社 LIGHT&DISHES 代表取締役)は照明メーカーに勤務後、食の世界と照明をリンクさせ、照明エディターの視線でデザインからモノづくりなど様々な分野を行き来しながら活動しています。「照明に携わるものにとって、谷崎の『陰翳礼讃』は原点なのです。迷うとこれを読んで考えを整理します。谷崎が理想とした光と翳りの繊細な世界を、日々の私たちの暮らしに取り込んでみてはいかがでしょうか」と話していました。
照明やインテリアに関心がある方はもちろん、谷崎を愛する方にもおすすめの空間美です。(美術展ナビ編集班 岡部匡志)

演出ディレクションを担当した遠藤豊さん

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)