【レビュー】「美をつくし―大阪市立美術館コレクション」サントリー美術館で11月13日まで 大阪から美の限りを尽くしたコレクションが集結

美をつくし―大阪市立美術館コレクション |
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会期:2022年9月14日(水)~ 11月13日(日)※作品保護のため、会期中展示替えを行います。 |
会場:サントリー美術館(東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階) |
開館時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00) ※9月22日(木)、10月9日(日)、11月2日(水)は20時まで開館 ※いずれも入館は閉館の30分前まで |
観覧料:一般1,500円 高大生1,000円 中学生以下無料 |
休館日:火曜日(11月8日は開館) |
アクセス:都営地下鉄大江戸線・六本木駅出口8より直結 |
詳しくは同館の展覧会HPへ。 |
2023年3月21日から5月21日までは福島県立美術館、2023年9月16日から11月12日までは熊本県立美術館に巡回します。 |
大阪市立美術館は大規模な改修工事が行われることになり、長期休館するのを機に、コレクションの優品がサントリー美術館にやってきました。
東京・京都に次ぐ日本で3番目の公立美術館として1936年に開館した大阪市立美術館、敷地は住友家から大阪市に本邸跡地が寄贈され、また関西の財界人から寄贈されたコレクションを多数所蔵しています。日本・中国の絵画や書蹟、彫刻、工芸など8500件を超える中から、今回は重要文化財14件を含む143件、同館でもそろって展示されることが滅多にない素晴らしい作品の数々を一堂に鑑賞できます。
展覧会名「美をつくし」は、大阪市章でもある「澪標(みをつくし)」から。難波津の海の標識である「澪標」が美の世界へといざないます。※画像の作品はすべて大阪市立美術館蔵
《小袖屏風虫干図巻》 重なりあう屏風と小袖の多重唱

この図巻の前に来た時、目だけでなく心も強く引き寄せられました。屏風と小袖を虫干ししている様子が描かれていますが、なんと美しいのでしょう!所狭しと重なり合うように屏風が置かれ、まるでオペラの多重唱のように響きあっています。通常このように飾るはずもないので、虫干しの状況ならではの素晴らしい構図です。色彩豊かな祭祀の屏風の後ろに山水画、その奥には鮮やかな牡丹、透け感のある朝顔の屏風の後には2羽の飛ぶ鳥、中国風の水墨画も見えます。そしてその合間を縫うように紐が渡され、色とりどりの小袖がかけられています。御簾越しに透けて見える様も絶妙です。しばし見とれてしまいました。


10月19日から場面替えとなりますので、隠れている部分も見逃せません。勝部如春斎は18世紀に活躍した西宮出身の狩野派絵師。ほかの作品も観てみたくなりました。
破天荒な兄と堅実な弟、天才は借金さえも芸の肥やし

京都の有名な呉服商・雁金屋の次男に生まれた尾形光琳(1658-1716)。乾山(1663-1743)は6歳下の弟です。
今回、貴重な小西家伝来・尾形光琳関係資料(武藤金太氏寄贈)が展示されています。《図案小品集》(展示期間:9/14~10/3)と《円形図案集》(展示期間11/2-11/13)などのほか、光琳や乾山の書簡も出展されます。これらはまとめて「小西家伝来・尾形光琳関係資料」という名で重要文化財に指定されています。


乾山から光琳に宛てられた書状は、光琳が38歳のときのもので、内容は貸し金の督促状です。光琳は放蕩生活で父の遺産を湯水のように使い果たした挙句、借金を重ねます。光琳が生活のために本格的に絵を描き始める前のものと思われます。その後、生活のために本格的に絵を描き始め、数々の素晴らしい作品を遺すわけですから、借金生活を重ねるような生活も天才にとっては芸の肥やしであったと言えます。それにしても、弟からの借金の督促状まで重要文化財に指定されて、美術館に展示されるとは、光琳もさすがに想像していなかったでしょうね。
《唐犬》から始まった近代美術コレクション

橋本関雪による《唐犬》は、大阪市立美術館の近代美術コレクション第1号です。昭和11年(1936)の落成記念に開催された、帝展出品作を買い上げたものです。ただでさえ大きなサイズ、2曲1隻と折り曲げる箇所が少ないのが特徴です。そのため展示ケースに入れるのも一苦労だったそうです。
\絶賛展示作業中/
橋本関雪「唐犬」は、展示ケースに入れてからでは開けない、二曲一隻の巨大屏風!ケースに入るか……ドキドキ💓#美をつくし展 https://t.co/gPoZWpFXxo pic.twitter.com/mVIrUsKAHv— サントリー美術館 (@sun_SMA) September 12, 2022
(サントリー美術館のTwitterで展示ケースに入れる様子が公開されています)
本物のボリゾイ犬も大きいですが、こちらの方が本物より大きいかもしれません。3匹の犬の毛並みの描き分けや色遣い、表情などじっくりご覧ください、いとしさがあふれてきます。
同じ一角に、上村松園《晩秋》と 北野恒富の《星》も展示され近代絵画のハイライトコーナーとなっています。

北野恒富は妖艶な女性を描くイメージが強いかもしれませんが、《星》は清楚な女性が星を見つめているさまが発光するように描かれています。背景が大変深みのある色合いのグラデーションで描かれているのも見どころです。帯締めの組目や模様まで細やかに描かれているのが、きもの好きの心をくすぐります。
細やかに豪華絢爛に描かれる《四季花鳥図屏風》の魅力

今回、2種類の《四季花鳥図屏風》が展示されます。まず9/14~10/10に展示されるのは、狩野元信が奈良・興福寺の注文で天文19年(1550)に描いた作品(白鶴美術館蔵)を狩野派がほぼ忠実に模写したもの。いったい何種類の花と木が、何種類の鳥が描かれているのでしょうか? 観ているうちに屏風の世界に取り込まれてしまいそうです。隅から隅までじっくりと鑑賞したいところです。
11月2日~11月13日には重要文化財に指定されている狩野宗秀の《四季花鳥図屏風》が展示されます。こちらも見逃せません。


さて、このように素晴らしい花鳥図屏風を観ると、私はついこの花鳥図屏風をきもの意匠にしたら…と考えてしまいます。背中から左肩を通って左胸のところはこの花を配して、裾周りにはこのあたりを、この鳥をどこかにとばしたいな…などと考えているとあっという間に時間がたってしまいます。美術鑑賞のひそかな楽しみ方のひとつです。きものを着て、花鳥図屏風の前で長い時間にやにやしながら展示ケースにぴったり張り付いて観ている人がいたら私かもしれません。
あなたもいかがですか? えっ? きものに興味がない? そんな方はミュージアムグッズのデザインとして考えるのはいかがでしょうか。最近様々なデザインの魅力的なグッズがあふれています。お気に入りの作品をグッズにしたら…そんなことを考えるのもきっと楽しいですよ。
技巧を凝らし贅を尽くした豪華な振袖

「きもの好きライター」なので、染織品に触れさせてください。豪華な振袖2領が展示されています。2領とも大変技巧を凝らしたものです。《萌黄縮緬地御所解模様振袖》は、江戸時代に武家女性が用いた御所解模様で、風景の中に和歌や文学を象徴するモチーフが配されています。

《藍綸子地南天扇面散模様振袖》は藍地に赤や金色が大変色鮮やかで、南天に扇面、文字を散らした意匠です。南天は「難を転じて福となす」に通じ、扇は末広がりと両方大変おめでたい模様です。「鶴・亀・と・祝・ふ・気・色・も・君・代・寿・の・い・く」の文字の刺繍が散らされています。江戸時代には、詩歌などの一部を模様とした小袖が大変流行しました。着る者の文学的素養を誇示するためにも用いられました。(参考文献:長崎巌『きものと裂のことば案内』(小学館)、 2005年)
素晴らしい作品の数々
このほか国内屈指の所蔵を誇る中国美術のコレクションや、大阪で弁護士・政治家として活躍した田万清臣氏と夫人の明子氏が寄贈した田万コレクションを中心とした仏教美術、カザールコレクションを中心に、華麗にして精緻な工芸品の数々など見どころ満載です。芸術の秋、作品数が多いのでたっぷり時間を取って、ぜひお出かけくださいね。
(ライター・akemi)
きものでミュージアムめぐりがライフワークのきもの好きライター。きもの文化検定1級。Instagramできものコーディネートや展覧会情報を発信中。コラム『きものでミュージアム』連載中(Webマガジン「きものと」)。
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