【図録開封の儀】特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」図録の魅力を4つのテーマと3つのキーワードでナビゲート!

皇室にゆかりのある珠玉の名品と、東京藝術大学のコレクションにフォーカスした特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」が9月25日まで東京藝術大学大学美術館で開催中です。
会場展示と同様の構成で編集された図録は、〈美の玉手箱〉にふさわしい充実した内容。加えて日本美術の入門ガイド的な機能も見逃せません。4つのテーマと3つのキーワードを中心に、本図録のポイントを紹介します。(ライター・佐藤拓夫)

文字、人と物語、生き物、風景。4つのテーマでいざなう日本美術の世界

本展覧会および図録の主たるコンテンツは、日本美術の四大元素とも言うべき「文字」「人と物語」「生き物」「風景」という4つのテーマで進行します。いずれも日本美術のモチーフとして欠かせないものばかりです。

1章は「文字からはじまる日本の美」。日本美術において文字が独特な立ち位置にあることを示唆しています。

図録 32-33ページより

漢文、仮名交じり文という2つの表記法を使い分ける懐の深さ。篆書から隷書、草書、行書、そして楷書へと華麗に枝分かれした書体。美術作品に綴られる日本語の文字はまさにアートそのものです。

現代アートとしての書や西洋のカリグラフィーも素敵ですが、ただ文字を綴るだけでアートになってしまう日本語のポテンシャルは、やはり格別ですよね。

続く2章の「人と物語の共演」では、源氏物語や蒙古襲来、鬼退治など、日本人なら誰もが知る物語が登場します。

図録 42-43ページより

往時の日本人が夢想した物語を、美麗かつ精緻な筆致で、ときに重厚にときに軽やかに描く名品・佳品の数々。図録の縮刷されたビジュアルを眺めているだけでも、典雅な味わいがじんわりと伝わってきます。

図録 60-61ページより

3章は「生き物わくわく」。日本人の動物コンテンツ好きは、美術の世界でも同じです。SNSでもかわいいペットの投稿に大量の「イイね!」が寄せられますよね。

図録 94-95ページより

息を呑むような大作の国宝《唐獅子図屏風》から、こぼれ落ちそうな垂れ耳が愛らしい《羽箒と子犬》まで。生き物を題材とする大小硬軟さまざまな美品が展開されます。

図録 147ページより

トリを飾る4章は「風景に心を寄せる」。四季折々の自然に恵まれた日本で、風景があらゆる美術作品のモチーフとされてきたのは当然と言えます。

図録 172-173ページより

3つのキーワード「ひも解く」「皇室」「玉手箱」に込められた意味とは?

本展覧会の主題である「日本美術」はあまりにも深遠かつ広大です。数千年にわたる歴史を、一度の展覧会と一冊の図録で総覧することは不可能。だからこそ本展のタイトルに、「ひも解く」「皇室」「玉手箱」という3つのキーワードが盛り込まれているのでしょう。この3つのキーワードから、再度図録を読み直してみましょう。

1つ目のキーワード「ひも解く」とは「書物を開く」という意味。
初めて日本美術の扉を叩く人が道に迷わないよう、「文字」「人と物語」「生き物」「風景」というわかりやすい4つの道しるべをもうけ、それぞれの魅力をコンパクトに紹介する内容になっています。

2つ目のキーワードの「皇室」は、言うまでもなく今回の出品作の大半が宮内庁三の丸尚蔵館の収蔵作品であることを意味します。皇室が買い上げたり寄贈を受けたりした膨大な美術品の数々。
新施設への移行準備中の三の丸尚蔵館が再開館する2023年秋以降、皇室にゆかりのある貴重な美術品の数々を、真新しい広々とした展示室で観覧できるようになります。この図録を眺めて、その日を待つとしましょう。

3つ目のキーワードは「玉手箱」。「玉」とは大切なものを表す言葉です。本展および図録にも、大切な宝物のような美術作品がぎっしり。まさに美の玉手箱と呼ぶにふさわしい内容です。
浦島太郎は、うっかり玉手箱を開けたことで白髪頭の老人となりましたよね。日本人にとって玉手箱という言葉は、宝物を表すだけでなく「過ぎ去りし悠久の時」の象徴でもあると思います。
今回の展示作品の制作年代で、最も古いものは奈良時代、最も新しいものは昭和初期です。時空の振り幅はゆうに1200年。会場でも図録でも、美のタイムトリップを楽しむことができるでしょう。

「図録に展示替えなし」

国宝や重要文化財が出品される展覧会では、展示替えが行われることが多く、本展も、目玉の展示品である国宝《唐獅子図屏風》は前期のみ、国宝《動植綵絵》や国宝《屏風土代》は後期のみの展示です。他にも国宝《蒙古襲来絵詞》、国宝《春日権現験記絵》、国宝《絵因果経》のように場面替えや巻替えをする重要な作品がいくつかあります。

展示替えの問題は美術展ファンの永遠の悩み。でも図録に展示替えはありません。本展のように入門ガイド的な展覧会では、全ての作品を解説した図録を手元に置くことで、コンテンツ全体の価値が最大化します。

図録で学んだ知識は鑑賞を重ねることで教養に変わる

巻末に用意された作品解説(図録 182-205ページ)・作家解説(図録 206-215ページ)・レファレンス解説(図録 216-222ページ)の3つの解説文は、個々の作品解説でカバーしきれない情報を網羅しており、日本美術の入門書たる本図録の効果をいっそう高めています。

解説文はいずれも平易な文章ばかり。日本美術の入門者を意識して作成したことがうかがえます。

 

この図録を繰り返し読み、日本美術の基礎知識を固めて、各地の美術館が開催する日本美術の展覧会へどんどん足を運んでみませんか?
鑑賞体験を重ねることで、知識は教養になり、やがてたしかな物差しとなります。そうなればもう大丈夫。美術館で未見の作品に出くわしても、素通りすることなくじっくり楽しめるようになるでしょう。

日本美術の入門書として最適な本図録の価格は2500円です。会場内特設ショップなどで購入できます。

さとう・たくお=1972年生まれ、宇都宮市在住のライター。美術好きで図録コレクターだった亡父の影響で、“図録道”の沼にはまる。展覧会会場では必ず図録を購入し、これまでに2000冊以上を読破。購入した図録を眺めては悦に入る時間をこよなく愛する、自称「超図録おたく」。
特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」
会場:東京藝術大学大学美術館
会期:2022年8月6日(土)~9月25日(日)
休館日:月曜日(ただし、9月19日(月・祝)は開館)
開館時間:午前10時~午後5時、9月の金・土曜日は午後7時30分まで開館
※入館は閉館の30分前まで
※本展は日時指定予約の必要はありませんが、今後の状況により入場制限等を実施する可能性があります。
※最新情報は展覧会公式HPをご確認ください。
観覧料:一般2,000円、高・大学生1,200円、中学生以下無料
詳しくは展覧会公式HP:https://tsumugu.yomiuri.co.jp/tamatebako2022/

レビューからグッズまで本展についての記事はこちらにまとめています。

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