【インタビュー】「一方的に発信するのではなく、『双方向』の美術館を」――山種美術館の山﨑妙子館長に聞く㊦

山種美術館の外観 ⓒKoike Noriko 2009

日本発の日本画専門の私立美術館として独自の地位を築いている山種美術館だが、昨今のコロナ禍ではどんな影響を受けたのか。アフター・コロナの美術館運営について、今、どんなことを考えているのか。山﨑妙子館長に聞いた。

(聞き手は事業局専門委員 田中聡)

山﨑妙子館長

――コロナ禍が収束しない昨今、どこの美術館も運営には苦労しています。特に私立美術館は影響が大きいようですが、山種美術館はいかがでしょうか。

山﨑 2020年4~7月にかけての3か月半と2021年の4~5月の半月は休館せざるを得ませんでしたし、大幅な来館者減、収入減だったのは確かですね。これからは、入館料だけに頼るわけにはいきません。ではどうすれば良いのか。中長期的な視野に立って、今後も考えていかなければいけません。

山﨑妙子館長は、山種美術館の創業者・山﨑種二氏(1893~1983)の孫娘。慶應義塾大学経済学部卒業後に「美術と関わっていきたい」という考えを持つようになり、二浪して東京藝術大学大学院に進み、美術史と日本画の実技を学んだという。2007年から財団法人山種美術財団(12年から公益財団法人)の理事長兼山種美術館館長を務めている。

速水御舟《名樹散椿》【重要文化財】1929(昭和4)年

――展覧会以外の活動という点では、どこの美術館でもツイッターなどのSNSに力を入れています。

山﨑 当館の取り組みは2011年3月からなので、美術館の中では早かったと思います。現在、フォロワーは約16万4千人。全国の美術館の中でも認知度はかなり高い方でしょう。SNSを使って「より深い」発信をするために、2020年9~11月の特別展 「竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス 併設展示:ローマ教皇献呈画 守屋多々志《西教伝来絵巻》試作 特別公開」では、展示した竹内栖鳳の《班猫》(重要文化財)にちなんで、「斑猫チャレンジ」のイベントを実施。「毛づくろいをする猫の写真」を募集しました。また最近では、「#tokyomuseums」を使って他の美術館さんと連携した発信をアーティゾン美術館さんと共同で呼びかけたり、太田記念美術館さんなどとコラボしてYouTubeのコンテンツを作ったり、いろいろな試みをしています。SNSでは、美術館からの一方的な発信ではなく、利用される方も巻き込んだ双方向的な発信ができます。今後は、そういう「参加型」の運営を目指していきたいですね。

上村松園《砧》1938(昭和13)年

――これからは他の美術館との連携なども重要になってくるわけですね。

山﨑 全国で約1000館あると思われる博物館・美術館の「横のつながり」って今まであまりなかったんですよ。例えば、海外からお客さんが来られても、東京エリアでさえ「どこで」「何が」開催されているのか、まとめたものがなかった。今、ようやく都内の文化施設の入場と地下鉄の乗り放題チケットを組み合わせた「THE TOKYO PASS」という外国人向けのサービスが始まりつつあるところです。このほかにも例えば、渋谷近辺の美術館と連携した相互割引サービスなども始めています。グッズのオンライン販売サイトの充実、オンライン展覧会の開催など、オンラインを活用した新しい取り組みも数多い。やるべきことは、たくさんありますね。

椿椿山《久能山真景図》【重要文化財】1837(天保8)年

――お客さんの質的変化のようなものは感じますか。

山﨑 コロナ禍の影響は別として、アニメやゲームの影響は強く感じますね。特に『明治東亰恋伽めいじとうきょうれんか』の人気はすごい。イベントを開催すると沢山の方がいらっしゃいますし、この作品をきっかけに日本画に興味を持たれる20代、30代の女性も多い。今の若い方は、いろいろなチャンネルがあって、美術館に足を運ばれる方がいらっしゃいます。「ミレニアル世代」や「Z世代」ですね。こうした方々の親の世代にも美術館に足を向けて欲しいと思っています。これから日本全体、人口減の傾向が続くでしょうし、子ども世代から親世代へ、という広がりもあれば、と思っています。

速水御舟展の展示風景

『明治東亰恋伽』はMAGES./LOVE&ARTによるメディアミックス作品。明治時代にタイムスリップした主人公が歴史上の偉人たちと出会って恋に落ちる、という内容で、「めいこい」の通称で知られる。2011年に携帯アプリの配信版からスタートし、ゲーム・アニメ・実写映画、ミュージカル舞台など、幅広く作品を展開させている。主要な登場人物に横山大観、菱田春草がいる。

山﨑妙子館長(山種美術館の前で)

――欧米のように、「生活に密着した美術館」でありたい、という気持ちがおありになるわけですね。

山﨑 そうですね。コロナ禍でちょっと中断していますが、広尾小学校の児童を招いて鑑賞会を開くなど、地域に密着した活動もしています。多くの人に作品に触れてもらうことが、まずは大事だと思っています。マンガやアニメ経由でも、ドラマや映画に触発されてでも、どんなきっかけでもいいから美術館に来ていただいて、日本画の実作品を見ていただきたい。どんなにデジタル化が進んでも、やはりホンモノを見ることでしか伝わらないことがあります。日本画を通して、日本の文化や歴史、自然などを感じていただきたい。古くから受け継がれている日本人ならではの美意識に触れていただければ嬉しいです。それが「自分の人生を豊かにする」ことにつながると、私は思っています。

竹内栖鳳 《斑猫》 【重要文化財】 1924(大正13)年

【次回の展覧会開催情報】

特別展「没後80年記念 竹内栖鳳」
会場:山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)
会期:2022年10月6日(木)~12月4日(日)
休館日:月曜休館、ただし10月10日は開館し、11日が休館
アクセス:JR恵比寿駅西口、東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口から徒歩約10分
入館料:一般1300円、高校・大学生1000円、中学生以下無料ほか。
※前期(~11月6日)、後期(11月8日~)で一部展示替えあり
※詳細情報は公式HP(https://www.yamatane-museum.jp/)で確認を。
Image:TNM Image Archives 竹内栖鳳 《松虎》 1897(明治30)年頃 東京国立博物館蔵[前期(10月6日~11月6日)展示]