【インタビュー】「少しでも美術館に訪れる人が増えるきっかけが作れれば」――山種美術館の山﨑妙子館長に聞く㊤

山種美術館の展示室の風景

東京・恵比寿から広尾方面へ。閑静な住宅街を歩いて行くとたどり着くのが山種美術館だ。日本画専門の美術館として独自の存在感を示している同館、これまでの歩みはどんなものだったのか、今後は何を目指していくのか。山﨑妙子館長に聞いた。(掲載作品は全て山種美術館所蔵)

(聞き手は事業局専門委員 田中聡)

山﨑妙子館長

――日本画専門の美術館として名高い山種美術館ですが、そもそもの成り立ちを教えて下さい。

山﨑 祖父の山﨑種二が個人で集めたコレクションをもとに、1966年7月、東京・日本橋兜町に日本初の日本画専門美術館として開館したのが、山種美術館です。祖父は「絵は人柄である」という信念のもと、横山大観や川合玉堂、上村松園、東山魁夷ら、当時活躍していた画家と直接交流を深めながら作品を蒐集しました。美術館をつくる大きなきっかけになったのは、特に親しく交際していた大観から「金儲けも結構だが、このへんでひとつ世の中のためになるようなことをやったらどうですか」と言われたことにあるようです。戦前から美術館を作りたいという考えはあったようですが、この一言が背中を押したように思います。

山﨑種二氏(1893~1983)は、山種証券(現SMBC日興証券)の創業者。群馬県高崎市(旧吉井町)生まれの山﨑氏は、米相場と株式相場で成功し、「売りの山種」の異名をとった。1966年に開館した山種美術館は1998年、東京都千代田区三番町への仮移転を経て、2009年、現在地(東京都渋谷区広尾3―12―36)に移転。近代・現代の日本画を中心に約1800点余りの作品を所蔵。特に速水御舟、川合玉堂、奥村土牛のコレクションで知られる。

速水御舟《炎舞》【重要文化財】1925(大正14)年

――山種美術館は、近代・現代の日本画が蒐集の中心ですが、そもそも館長は、何を日本画ととらえていらっしゃるのでしょうか。

山崎 菱田春草(明治期の日本画家、18741911)は「日本人の頭で構想し、日本人の手で製作したものとして、すべて一様に日本画として見らるる時代が確かに来ることを信じている」(「画界漫言」『絵画叢誌』1910)」と記しています。現状はその予言の通りにはなっていないでしょう。山種美術館では開館50周年の2016年から「Seed 山種美術館日本画アワード」を開催しているのですが、そこでは「基本的には日本画の画材である墨、岩絵具、胡粉、膠などを主に使用する」ことと「多様な画材を使用しながらも、従来の日本画の技法に立脚した作品」を応募の条件にしています。逆に言えば、国際化が進んだ現代社会では、こういう条件を満たしていれば作家の国籍は問わなくてもいいのではないか、と思っています。

山種美術館は1971年から97年にかけて、隔年で14回、新人の登竜門として「山種美術館賞展 今日の日本画」を開催していた。開館50周年を迎えた2016年、その趣旨を継承して開催した公募展が「Seed 山種美術館 日本画アワード」だ。3年に1度のトリエンナーレ形式で、2019年に第2回を開催、本来であれば2022年に第3回が予定されていたが、新型コロナウィルスの感染拡大により、開催が見送られていた。現在、美術館では第3回の公募展を2024年春開催に向けて準備中。詳細は2022年10月頃を目途に公式ホームページで発表する予定という。

岩佐又兵衛《官女観菊図》【重要文化財】17世紀(江戸時代)

――主な所蔵品にはどんなものがあるのでしょうか。 

山﨑 岩佐⼜兵衛《官⼥観菊図》、椿椿⼭《久能⼭真景図》、⽵内栖鳳《班猫》、村上華岳《裸婦図》、速⽔御⾈《炎舞》《名樹散椿》の6点が重要⽂化財です。酒井抱⼀《秋草鶉図》などの重要美術品も所蔵しています。120点の速水御⾈コレクションに加え、川合⽟堂の作品は71点、奥村⼟⽜コレクションは135点あります。横⼭⼤観や⽵内栖鳳、上村松園、東⼭魁夷など、近代⽇本画を語る上で重要な画家たちの作品も数多く所蔵しています。

酒井抱一《秋草鶉図》【重要美術品】 19世紀(江戸時代)

――山﨑種二さんの蒐集コンセプトはどういうものだったのでしょうか。

山﨑 祖父は最初、丁稚奉公先の主⼈の影響で江⼾時代の酒井抱⼀の掛け軸を購⼊しましたが、後に真っ⾚な偽物であることが判明し、大変に落胆したそうです。それからは美術展に⾜を運び、⾃らの⽬を養ったのですが、そういう中で同時代の画家の作品を蒐集したいと考えるようになったそうです。例えば、戦時中には住居や食料を提供するなど、家族ぐるみで親しくお付き合いしながら画業を応援したことが、名品蒐集につながっています。特に奥村土牛とは画業初期の頃から親交が深く、約半世紀にわたり交流を続けたおかげで、当館は屈指の⼟⽜コレクションを有しています。

山﨑妙子館長

――現在でも所蔵品を増やす活動は続けているのでしょうか。

山﨑 コロナ禍の前は、数年に1点ずつ、コレクションに必要な作品を購入していました。「Seed展」の大賞、優秀賞受賞作品も新たな収蔵品として買い上げて、大家の作品と並べて展示していたりもしています。そうすることで、来館して下さる方に現代の若手画家の作品を鑑賞していただくいい機会になりますから。今後の公募展でもこのことは続けていく予定です。

展覧会ごとに作られるオリジナルの和菓子も人気

――作品蒐集以外に、美術館運営について考えていらっしゃることはありますか。

山﨑 創⽴者の「美術を通じて社会、特に⽂化のために貢献する」という理念を継承し、⽇本画の魅⼒を⼀⼈でも多くの⽅にお伝えし、⽇本画を未来に引き継いでいこうと思っています。「上質なおもてなし」で「また戻ってきたくなる、とっておきの場所としての美術館」を⼼がけていますね。展覧会だけでなく、グッズや和菓⼦などをオリジナルで作って、いろいろな角度から楽しんでいただければ、とも思っています。一般的に言って日本人って、欧米の方々と比べて日常的に美術館に触れることが少ないですよね。和菓子やグッズも、きっかけのひとつになっていただければ。そんなことも考えています。現在は、特別展「水のかたち -《源平合戦図》から千住博の『滝』まで-」を開催中です。大学生、高校生には「夏の学割」として通常1000円の入館料を500円に割引きしています。

特別展「水のかたち」に展示中の菱田春草《雨後》 1907(明治40)年頃

特別展「水のかたち -《源平合戦図》から千住博の『滝』まで-」
会場:山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)
会期:2022年7月9日(土)~9月25日(日)
休館日:月曜休館、ただし9月19日は開館し、9月20日が休館
アクセス:JR恵比寿駅西口、東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口から徒歩約10分
入館料:一般1300円、高校・大学生500円、中学生以下無料ほか。
※詳細情報は公式HP(https://www.yamatane-museum.jp/)で確認を。
特別展「水のかたち」の展示風景

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