【レビュー】半世紀の光と影を振り返る 「復帰50年 特別展 沖縄、復帰後。展 -いちまでぃん かなさ オキナワ-」 沖縄県立博物館・美術館で9月19日まで

1972年5月15日、日本に復帰した沖縄。式典とデモの日でした。

復帰50年 特別展 沖縄、復帰後。展 -いちまでぃん かなさ オキナワー

  • 会期

    2022年7月20日(水)9月19日(月) 
  • 会場

  • 観覧料金

    一般1,000円(800円)、高校・大学生500円(400円)、小・中学生200円(160円)
    ※()内の金額は20人以下の団体料金
    ※障がい者手帳をお持ちの方および介助者1名は当日料金の半額

  • 開館時間

    09:00〜18:00 (金・土は20:00まで)
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沖縄県を代表する博物館・美術館で、本土復帰50年を節目とした大掛かりな展示です。県民も本土の人もそれぞれに懐かしく、また考えさせる内容です。タイトルの「いちまでぃん かなさ オキナワ」は「いつまでも 愛おしい 沖縄」の意味です。

会場の入り口わきには、過去の沖縄の観光キャンペーンポスターが掲示され、気分を盛り上げてくれます。

冒頭の「第1章 復帰の日ー葛藤をかかえてー」では、本土に復帰した1972年5月15日の模様を紹介しています。

整然とした「新沖縄県発足式典」とは対照的に、街では大規模な米軍基地を残したままの復帰に抗議する大規模デモが展開されていました。50年後まで続く新たな困難の始まりの日でもありました。

当時の屋良朝苗知事による「沖縄県庁表札の建立にあたり」の文章。「郷土の自然と文化を愛し、平和をねがうわたくしたち沖縄県民の自治と自主創造の姿を示し、かつすすみゆく沖縄県の地理的・自然的特質をあらわすものであります。」と、当時の県民の思いを現した、平易なメッセージが印象に残ります。

「第2章 新生沖縄県の誕生」では、復帰後の沖縄を語る上で不可欠な歴史的な事業が紹介されていきます。

1975年に開幕した沖縄国際海洋博覧会(海洋博)。博覧会の象徴的施設となった人工島、アクアポリスは大いに耳目を集めました。450万人の入場者目標に対して実際は349万人にとどまり、期待されたほどの経済効果は上がらず、環境破壊などの問題も起きました。一方で、沖縄の豊かな自然や歴史に対する国民の関心が高まり、のちの「沖縄ブーム」の呼び水ともなりました。

復帰から6年後の1978年7月30日、自動車の対面交通がそれまでの右側通行から一気に左側通行に改められました。県民に周知するための「730(ナナ・サン・マル)キャンペーン」が盛んに展開されました。

「第3章 沖縄ブーム、到来」。この展覧会の大きな見どころのひとつといってよい華やかなセクションです。当時を思い起こして、ワクワクする方も多いでしょう。まずはスポーツ。

石垣島出身で、「カンムリワシ」で知られたボクシングの元世界チャンピオン、具志堅用高さんのチャンピオンベルトやグローブ、シューズなどが展示されています。世界王座の13度の防衛に成功し、日本ボクシング史に燦然と輝く大スターです。1976年10月10日、ファン・ホセ・グスマンを破り、世界タイトルを奪取した対戦は今でも語り草になる名試合でした。

高校野球では1970年代後半に旋風を巻き起こした豊見城高校、1990年夏の沖縄水産高校準優勝などが印象的でした。そして1999年春、ついに沖縄尚学高校が春夏通じて県勢として甲子園初優勝。2010年には興南高校が春夏連覇と年々、存在感を高めました。スポーツ界全体でみても、女子プロゴルファーの宮里藍さんの活躍や、B・LEAGUEの琉球ゴールデンキングスの躍進、2021年の東京五輪で県出身者初の金メダリストとなった喜友名諒さん(空手・型)など枚挙にいとまがありません。今や「スポーツ大国・沖縄」というイメージは国民全体に定着しています。

温暖な気候でプロ野球やJリーグのキャンプ地としてもすっかりおなじみです。キャンプシーズンともなると、大勢のファンが各地から詰めかけます。

テレビや映画、舞台、音楽など今や沖縄出身のスターを見ない日はないでしょう。大河ドラマ「琉球の風」(1993年)は沖縄の歴史への理解を深めるきっかけになりました。朝の連続テレビ小説ドラマ「ちゅらさん」(2001年)は今も多くの人から愛される国民的番組に。

そして沖縄出身の大スターといえばやはりこの人。戦後日本のエンターテインメントを代表する存在、といっても過言ではないでしょう。

1990年代から2010年代にかけて時代をリードし、まさに社会現象となった安室奈美恵さん。引退した今も伝説的存在です。九州・沖縄サミット(2000年)を紹介するコーナーでは、各国首脳を前に安室さんが歌を披露した場面の映像の展示もありました。

「第4章 変化・変容と沖縄」では、自然史、人類、考古、歴史、民俗などの視点から沖縄の移り変わりを紹介します。

沖縄の固有種や、外来生物の問題なども見られます。

締めくくりの「第5章 不変・継承・課題」では伝統工芸や伝統文化を紹介する一方で、今も重く負担がのしかかる米軍基地の存在や沖縄の課題についても展示しています。

米軍による事故などを表現したインスタレーションもあります。

平和祈念公園(糸満市)の一角、展示室の壁にあることばが掲示されています。「あまりにも大きすぎた代償を払って得た/ゆずることができない/私たちの信条なのです」というむすびの一節が心に残ります。そして最終の第6章は「希う、未来」。県民参加型の公募写真コンテストなどを通じて、現在の沖縄の姿と、人々がねがう未来の沖縄の姿を紹介しています。

「希(こいねが)う、未来」という言葉の重みを、改めてかみしめたい展示です。

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

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