【レビュー】カラフルに、豪奢に、艶やかに 装束と衣裳からみる『ボストン美術館展 芸術×力』 きもの好きライターakemi

増山雪斎《孔雀図》江戸時代、享保元年(1801年)

ボストン美術館展 芸術×力(げいじゅつとちから)

  • 会期

    2022年7月23日(土)10月2日(日) 
  • 会場

    東京都美術館
    https://www.tobikan.jp
    台東区上野公園8-36
  • 観覧料金

    一般 2,000円/大学生・専門学校生 1,300円/65歳以上 1,400円 ※日時指定予約制。当日券あり(来場時に予定枚数が終了している場合あり)
    高校生以下無料(日時指定予約必要)。未就学児は日時指定予約不要。

  • お問い合わせ

  • 休室日

    月曜日、9月20日(火) ※ただし8月22日(月)、29日(月)、9月12日(月)、19日(月・祝)、26日(月)は開室
  • アクセス

    JR上野駅公園口から徒歩7分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅から徒歩10分、京成電鉄京成上野駅から徒歩10分
  • 開室時間

    9:30~17:30 金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
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※本展は日時指定予約制です。詳細は展覧会公式HPをご覧ください。(https://www.ntv.co.jp/boston2022/

ボストン美術館は、世界でも有数のコレクションを所蔵し、そのコレクションの質の高さと百科事典的な幅の広さで知られています。モース、フェノロサ、ビゲローらが蒐集した日本美術も多数所蔵しています。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年に中止となった本展、いよいよ待望の開催です。開催前日の内覧会に伺いました。

今回はエジプト、ヨーロッパ、インド、中国、日本などさまざまな地域で生み出されたおよそ60点の作品がやってきました。「力をつかんだ者たちが愛した美」とキャッチコピーが付く本展、装束と衣裳に注目して観ていきます。

※画像の作品はすべてボストン美術館蔵

2年待った「ボストン美術館展 芸術×力」、いよいよ待望の開催

思い起こせば20204月、「ボストン美術館展 芸術×力」の中止が発表された時の落胆を今でも覚えています。緊急事態宣言解除後、会期を延期して開催となる展覧会も多い中、本展は早々に中止が決定しました。

そんな中、図録や一部グッズはネット販売されましたので、早々に購入しステイホーム時間が長くなるなか、図録を眺めてはいつの日か開催されることを祈っていました。そんなわけで、私は人一倍開催を心待ちにしていたのです。

《吉備大臣入唐絵巻》―唐人の衣裳に目が釘付

《吉備大臣入唐絵巻》平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末 展示風景

日本にあれば国宝に指定されていたともいわれる《吉備大臣入唐絵巻》、今回は4巻すべて同時に展示されています。24mにもおよぶ絵巻を、一度にすべて鑑賞できるのはめったにない貴重な機会です。

こちらの絵巻は奈良時代に活躍した学者・政治家である吉備真備(きびのまきび)(695-775)の活躍が描かれています。遣唐使として海を渡った真備が、唐の皇帝の使者によって高楼に幽閉されるも、阿倍仲麻呂(かつて、遣唐使として海を渡ったが当地で亡くなった)の亡霊が現れ、彼の力を借りながら難題を次々に解決していきます。二人で空を飛んで皇帝の宮殿に忍び込んだり、囲碁の勝負で唐人の石を飲み込み、下剤を飲まされても腹にとどめて勝利したりと奇想天外、痛快なストーリーが繰り広げられます。

《吉備大臣入唐絵巻》(部分)平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末

さて、事前に図録を観る中で一番気になっていたのが《吉備大臣入唐絵巻》の唐人たちの衣裳です。吉備真備と阿倍仲麻呂は、ごく普通の黒い装束ですが、唐人たちはとてもカラフルで柄フル!柄on柄のコーディネートがすごいのです!!実物を早く見たいととても楽しみにしていました。

《吉備大臣入唐絵巻》(部分)平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末

【巻第一】の真備を乗せた遣唐使船を迎えるシーンです。中央にいる弓矢を持った皇帝の使者に注目。いったい何種類の柄を身に着けているでしょうか? 唐草onドット1 onヒョウ柄onドット2 on 魚鱗甲…これだけ多くの柄を組み合わせても全体の調和がとれているなんて、コーディネート術が素晴らしすぎます!それにしても、この唐人のくどい性格を象徴しているように思え、真備がこの後執拗に難題を突き付けられる予兆のように思えます。ほかの唐人たちの衣裳もかなり描き込まれており、誰一人として同じコーディネートはありません。玉座や馬の鞍の文様も細かく描かれています。

《吉備大臣入唐絵巻》(部分)平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末

また、衣裳だけでなく表情や仕草もそれぞれ細かく描き分けられていますので、そちらもじっくりご覧ください。真備と仲麻呂が空を飛ぶシーンも楽しいです。座った姿勢で空を飛ぶのが新鮮でした。

《吉備大臣入唐絵巻》(部分)平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末

《吉備大臣入唐絵巻》は、頬を緩ませながら24m飽きることなく鑑賞できます。文様好きは食い入るように観て柄合わせの妙をたっぷり堪能してください。

《吉備大臣入唐絵巻》(部分)平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末

1932年に《吉備大臣入唐絵巻》がボストンに渡ってから、翌年には美術品の国外流出を防ぐ「重要美術品等ノ保存ニ関スル法律」が施行されたそうです。この絵巻の流出はそれほどの事件だったのです。

メアリー王女の気品とドレスの豪華さ

右:ロベール・ルフェーヴルと工房《戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像》1812年 左:アンソニー・ヴァン・ダイク《メアリー王女、チャールズ1世の娘》1637年頃

順番が前後しますが、展示室に入りまず目に入るのは、《メアリー王女、チャールズ1世の娘》と《戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像》。2枚ともサイズが大きく、迫力があります。宮廷画家ヴァン・ダイクは、肖像画で人気を博しました。豪華なドレスを着るメアリー(1631-1660)は、当時6歳頃。淡いブルーにふんだんにレースをあしらったドレスと大粒の真珠のネックレスと髪飾りがゴージャスです。透明感と輝きのあるレースの衿や前掛けが非常に細密に描かれています。当時の王侯貴族の肖像画は、王族同士の婚姻を進めるためのツールでもありました。6歳にしては気品にあふれ大人びた表情に見えるのは、そんな背景が影響しているのかもしれません。

アンソニー・ヴァン・ダイク(部分)《メアリー王女、チャールズ1世の娘》1637年頃

《厚板 萌黄地牡丹立涌模》絵緯の美しさ色鮮やかさ

左:《能面 阿古父尉》室町時代 15-16世紀、右:《厚板 萌黄地牡丹立涌模様》江戸時代 17世紀末-18世紀初頭

ボストン美術館のウィリアム・スタージス・ビゲロー・コレクションには200点にものぼる日本の染織品コレクションがあります。かなり保存状態も良いものがそろっていると聞きますので、楽しみにしていました。

こちらの能装束は、一見刺繍にも見えますが唐織で、地組織に絵緯(えぬき:模様を織り出すための色糸)を織り込んで模様を表現しています。この立涌の白い絵緯がきれいにそろって残っていて、汚れやすい白が美しいままなのが感動的です。牡丹の花は色鮮やかでとても保存状態がよく、さすがボストン美術館の所蔵品と感嘆しました。この装束は福岡藩黒田家の所蔵品でした。

《厚板 萌黄地牡丹立涌模様》(部分)江戸時代 17世紀末-18世紀初頭

ただ今回、染織品は1点しか来日していないのが非常に残念です。いつの日か、ボストン美術館から染織品がまとめて来日しますようにと染織品Loverとしては願わずにいられません。

修復でよみがえった増山雪斎《孔雀図》

増山雪斎《孔雀図》江戸時代、享保元年(1801年)

江戸時代に伊勢長島藩の藩主だった増山雪斎の代表作《孔雀図》が本展のために修復され、日本で初公開されています。表装も新しくなりました。

美しい羽は孔雀の衣裳であるといったらこじつけでしょうか。こちらの孔雀は羽も美しいのですが、背景に描かれている花も孔雀を豪華に彩っています。左幅では海棠と大輪の牡丹が、右幅には木蓮があたかも孔雀の衣裳の一部のように描かれています。小鳥たちも従者のように描かれ、孔雀は鳥の王者の風格を醸し出しています。

江戸時代には伊藤若冲の《動植綵絵 老松孔雀図》や円山応挙の《牡丹孔雀図》など有名な孔雀の絵がたくさんあります。増山雪斎は今まであまり知られていませんでしたが《孔雀図》は、それらと並び称されるに値するかもしれません。「第2の若冲」という人もおり、これからブレイクするでしょうか。

《孔雀図》は『ボストン美術館展 芸術×力』の最後を飾るのにふさわしい作品でした。

最後に

2年の時を経て復活した『ボストン美術館展 芸術×力』。そのほかの作品も見どころ満載で、堪能いたしました。楽しみにしていた《吉備大臣入唐絵巻》は、期待に違わず、衣裳の細かい部分までじっくりと鑑賞できました。じっくり見過ぎて、絵巻物鑑賞の流れをせき止めてしまったかもしれません。

ひとつ失敗したのは、単眼鏡を持って行ったのに、バッグに入れたままロッカーに預けてしまったことです。単眼鏡をお持ちの方は忘れずに。時間も余裕をもってぜひ細部までじっくりご鑑賞ください。

◇参考文献

石崎 忠司  (著), 石崎 功 (編集)和の文様辞典 きもの模様の歴史』 (講談社学術文庫) , 2021

長崎 巌 (著)『きものと裂のことば案内』(小学館), 2005年


【ライター・akemi
きものでミュージアムめぐりがライフワークのきもの好きライター。
きもの文化検定1級。Instagramできものコーディネートや展覧会情報を発信中。コラム『きものでミュージアム』連載中(Webマガジン「きものと」)。

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