「ボストン美術館展 芸術×力」声優・鈴村健一と櫻井孝宏が語る<権力と芸術>を聞きながら鑑賞してみた

ボストン美術館展 芸術×力(げいじゅつとちから)

  • 会期

    2022年7月23日(土)10月2日(日) 
  • 会場

    東京都美術館
    https://www.tobikan.jp
    台東区上野公園8-36
  • お問い合わせ

  • 休室日

    月曜日、9月20日(火)

    ※ただし8月22日(月)、8月29日(月)、9月12日(月)、 9月19日(月・祝)、9月26日(月)は開室
  • 開室時間

    9:30~17:30 金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
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展覧会公式HP https://www.ntv.co.jp/boston2022/
※日時指定予約制、巡回展なし
※当日券あり(来場時に予定枚数が終了している場合あり)

展覧会の鑑賞体験を充実させるひとつに音声ガイドがあります。7月23日から東京都美術館で開催中の「ボストン美術館展 芸術×力」を、ライターの虹さんが思い切り音声ガイドに寄りかかって鑑賞してみました。音声ガイドってどうなの? 聞くと見方が変わるの? まだ音声ガイドを未体験の人もぜひ追体験してみてください。
*すべてボストン美術館蔵

会場風景

本展ではボストン美術館に所蔵される約60点の優品を展示し、その芸術作品が「何のために作られたか」という本来の存在理由にスポットを当てて紹介。2020年に開催される予定の展覧会でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止に。この度2年の歳月を経て、ついに開催されることになりました。

音声ガイド あなたは借りる派? 借りない派?

ところで皆さんは、展覧会の会場で「音声ガイド」を利用したことはありますか?
よく利用するという方と、全く利用したことがないという方、2つに分かれそうな気がします。利用したことがないという方は、「自分のペースで鑑賞したい」「静かに鑑賞したい」という理由が多いでしょうか。
もちろん鑑賞のスタイルは人それぞれ、自分に合った方法で観るのが一番です。
ただ、少しでも興味があったら一度は試してみてほしい……! そんな魅力を音声ガイドは持っています。

本展覧会公式サイトより。このように音声ガイドは、特集ページが組まれるほど充実したコンテンツになっています。※四角の囲みは筆者記入による

近年工夫を凝らした音声ガイドが増えていますが、一番のメリットはやはり「情報の多さ」でしょう。会場にある解説ではカバーしきれない作家の逸話から、その作品が生まれた社会背景まで、思わずメモを取りたくなる情報を音声ガイドが補填してくれます。
特に本展のような「オモテ」と「ウラ」の事情がカギとなる展覧会では、音声ガイドは大きな力を発揮します。

ボストン美術館展の音声ガイドを借りてみました

前置きが長くなりましたが、さっそくボストン美術館展の音声ガイドのレポートをしていきましょう。
既にご存知の方も多いと思われますが、今回音声ガイドナレーターを務められるのは、人気声優の鈴村健一さんと櫻井孝宏さんです。本展は権力者たちが求めた芸術の力が持つ「オモテ」と「ウラ」の顔を紹介する展覧会。鈴村さんが「オモテガイド=作品の見どころや技法の解説」を、櫻井さんが「ウラガイド=権力者たちのエピソードや、作品に隠された裏話」を解説するという、少し変わった構成になっています。

本展の音声ガイドリスト

音声ガイドは合計で約35分間。金額は1台600円(税込)となっており、全部で18点の作品について解説を聴くことができます。また、展覧会オフィシャルサポーターを務めている、俳優の要潤さんによるスペシャルコンテンツも組み込まれています。


会場で機器を借りるほかに、自身のスマートフォンでも利用することができます。その場合は「聴く美術」というアプリを入れて、アプリからこのプログラムをダウンロードしてください(アプリで購入した場合、金額は730円(税込)ですが、10月2日までなら何度でも聴くことができます)。

誰が、何のために作らせた作品か?

会場風景 ロベール・ルフェーヴルと工房《戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像》1812年 

会場に入ってまず登場するのが、ナポレオンの巨大な肖像画。豪華な衣服に身を包み、威厳たっぷりな様子は、まさに皇帝そのものですね。威風堂々とした大きな絵を前に、我々鑑賞者は圧倒されます。
──さて、ここからが本題です。そもそもこの絵は、「誰が」「何のために」描かせたのでしょう?

ナポレオンはもともと、コルシカ島に生まれたイタリア人でした。家柄も取り立てて良いわけではない彼が、フランスという異国でローマ帝国の正統な君主であることを示すためには、人々に圧倒的なイメージを植え付ける必要があったのです。そこで画中の彼はあらゆる効果的なシンボルをちりばめ、ローマ皇帝ゆかりの品々を身につけて、自分こそが皇帝に相応しいのだというメッセージを肖像画の力を使って伝えました。
音声ガイドでは、描き込まれたシンボルの意味などが紹介されています。

主役が描かれていないのはなぜ?

《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》(部分)鎌倉時代、13世紀後半

こちらはおよそ10年ぶりの里帰りとなる《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》。日本に残っていれば国宝に指定されていたであろう、「幻の国宝」とも呼ばれる作品です。
時は平治元年(1159)、後白河院とその姉上西門院が、藤原信頼と源義朝の企てによって拉致された事件が描かれています。そんなわけで後白河院はこの絵巻の中で主役級の人物となるのですが、どこを見てもそれらしき人物が描かれていません。
これは一体どういうことだ……? と思ったところで音声ガイドの解説が。

《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》(部分)鎌倉時代、13世紀後半

実は当時、天皇や上皇を直接描くことは禁止されていました。よってこの絵巻では後白河院を乗せた「車」を本人に見立てて描写しています。ひとつ前に紹介したナポレオンの肖像画は、本人が堂々と描かれていますが、対照的に描かないことで身分を示すという日本独自の表現が印象的ですね。

隠れた龍はどこ?

会場風景 写真手前:《龍袍》清、乾隆帝時代 1736-1796年 

絹糸と金糸をふんだんに使ったこの《龍袍》は、清の乾隆帝のためにつくられた宮廷服。皇帝を象徴する12の紋章や、皇帝のみが纏うことを許される色が用いられています。袍は重要な儀礼の席で出席者全員が着用することになっており、階級が色で示されていました。

《龍袍》(部分)清、乾隆帝時代 1736-1796年

龍の刺繍が施されているのが見えますか? よく見ると爪は5本。当時「五爪龍」は皇帝のみに許されたモチーフでした(日本の障壁画などに描かれている龍は、ある時代まで爪が3本のものばかりです)。さて、龍の数を数えてみると全部で8匹いるように見えますが、実はこの袍には9匹の龍が住んでいるのだとか。あと1匹はどこに隠れているのでしょう? ──答えは音声ガイドにて解説されています。

美術品が持つ、本来の存在理由を紐解く展覧会

《吉備大臣入唐絵巻》(部分)平安時代後期-鎌倉時代初期 12世紀末

そのほか会場では、遣唐使である吉備真備と、鬼になった阿倍仲麻呂のバディが様々なクエストに立ち向かうユニークな絵巻《吉備大臣入唐絵巻》や、ボストン美術館に収蔵されて以来日本初公開となる狩野山雪の《老子・西王母図屏風》、そして同じく収蔵後日本初公開であり、本展のために修復が行われた増山雪斎の《孔雀図》など、見どころもエピソードも満載の作品が紹介されています。

会場風景 増山雪斎《孔雀図》江戸時代、享和元年(1801) 音声ガイドでは、会場近くにある雪斎ゆかりの地についても語られています

美しかったり迫力があったりと、私たちが美術品から受け取る印象は様々です。では、それらは一体「誰が」「何のために」作らせ、「いつ」「どのように」人々に見られてきたのでしょう? 作品が生まれた理由を紐解き、新たな視座を獲得することで、鑑賞体験はさらに深みを増すはずです。ぜひプラスアルファのエピソードを、音声ガイドを使って聴いてみてください。目の前の作品が新たな顔を見せてくれるかもしれません。
(ライター・虹)
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