【京のミュージアム #7】嵯峨嵐山文華館 可愛く、凛々しく、美しく「どうぶつ美術館」展 10月10日まで

120畳の大広間に絵が展示された第2章。竹内栖鳳《春郊放牛図》1904年頃 通期展示

日本人にとって動物はどんな存在なのか。そんな問いに応えてくれるかのような、日本人が描いた動物の絵の展覧会が、嵐山にある嵯峨嵐山文華館で開かれています。鹿や狸といった野生動物、牛や馬などの家畜、そして犬や猫。日本画には古来多くの動物が描かれて来ました。その背景や動物の魅力を、円山応挙や大橋翠石、奥村土牛、池田遙邨、川合玉堂、速水御舟、前田青邨といった巨匠の作品、前後期合わせて約60点で紹介します。可愛い、凜々しい、迫力のある、美しいと様々な動物たちが、見る者を楽しませてくれます。また、近くにあり協力関係にある福田美術館では、「開館3周年記念 福美の名品展~まだまだあります未公開作品~」が開かれており、2館の共通券もあります。

「どうぶつ美術館」展

  • 会期

    2022年7月16日(土)10月10日(月) 
  • 会場

    嵯峨嵐山文華館
    https://www.samac.jp/
    京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町11
  • 観覧料金

    一般・大学生900円、高校生500円、小中学生300円、障がい者手帳をお持ちの方と介護者1人は500

    福田美術館との2館共通券:一般・大学生2000円、高校生1000円、小中学生550円、障がい者手帳をお持ちの方と介護者1人は1000

  • 休館日

    火曜日、819日~22

  • 開館時間

    10:00〜17:00 入館は午後16時30分まで
  • アクセス

    JR「嵯峨嵐山」駅下車徒歩14分、阪急「嵐山」駅下車同13分、嵐電「嵐山」駅下車同5分
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前期 716()829()

後期 831()1010(月・祝)

詳しくは嵐山嵯峨文華館ホームページ

第1章 動物に込められた意味

近世以前、動物は長寿や子孫繁栄の象徴、神の使いのような神聖な存在として描かれて来ました。それが近世に入り、動物を間近に観察できるようになり、写実的な絵が描かれるようになります。そこに感じられるのは、身近な動物への愛情のような気がします。

(左の双幅) 円山応挙 《竹に狗子図》 1779年  前期展示 福田美術館蔵(以下同) (右)森狙仙 《親子猿図》 江戸時代 前期展示

この章最初のキーワードは「可愛い」でしょう。応挙描く兄弟と思われる5匹の仔犬。垂れた耳や背中側に曲る尻尾から、紀州犬と言われています。円山応挙は円山派の祖で写生を重視した画風を確立した人です。大の犬好きで30点以上の犬の絵を残しているそうです。どの絵も可愛いのですが、一瞬の動きを見事に捉えたところは、写生を重視した応挙らしさだと言えそうです。応挙の動物の絵は犬だけでなく、虎も可愛らしく見えてしまうのですが、私だけでしょうか。

森狙仙は猿の絵の名手と言われた人です。山に棲む猿は山の神や魔除けの象徴として崇拝されて来ました。狙仙の描く猿は、柔らかそうな体毛や生き生きとした表情が特徴です。親猿が子猿の毛繕いをしています。親子の愛情がにじみ出ているようです。

西村五雲《高原之鷲》 明治・大正時代 通期展示

続いて「猛獣」です。西村五雲の動物の絵に感じる、生き生きと生態を捉える描写は師の竹内栖鳳譲りでしょうか。左隻は翼を広げた姿。右隻は岩に留まった群れ。神話にも登場する鷲の荒々しい姿が大画面で迫って来ます。五雲は病気がちで作品数は少ないのですが、この屏風には彼の力量が示されていると言っていいのではないでしょうか。

(左)大橋翠石《月下猛虎図》1899年頃 前期展示 (右)同《獣王図》 昭和時代 通期展示

虎やライオンの絵は本物を見たことのなかった時代、中国や遠くシルクロードから伝わった話や絵を基に描いていました。実物を見ることができるようになると一変します。大橋翠石は明治中期から昭和初期にかけて活躍した日本画家で、動物、特に虎をたくさん描き「虎の翠石」と呼ばれたそうです。1900年のパリ万博、1904年のセントルイス万博と連続して金牌を受賞し、世界でも高く評価されました。堂々とした体躯や細かな毛の描写、鋭い眼光など迫力に満ちています。画壇と交わらず国内の展覧会にも出品しなかったため、今では知る人も少なくなりつつあるようです。改めて見直してみる絵かも知れません。

池田遙邨《すすきのひかりさえぎるものなし山頭火》 1988年 通期展示

1章の最後は身近な動物です。「すすきのひかりさえぎるものなし」という、種田山頭火の句をそのままタイトルとしています。白い穂の光るススキの原。よく見ると左上のあたりに狐が可愛い顔を見せています。昔から田の神の使いとして崇められてきましたお狐さんは、私たちになじみの深い動物です。池田遙邨は竹内栖鳳に師事し、後に西欧の象徴主義や大和絵の影響を受けたそうです。晩年は山頭火に心酔したのですが、この絵も文字通り山頭火の句に通じる、飄々としたおかしみやさみしさが感じられます。

(左から)木島櫻谷《竹雨》 大正時代 通期展示、  林十江《熊図》 江戸時代 通期展示、 森祖雪《親子猿図》 江戸時代 前期展示

狸もなじみの深い動物です。襲われると死んだふりをして逃げることから、人を化かすと考えられて来ました。でも、どこか愛嬌があります。木島櫻谷は多くの狸の絵を描いたことから「狸の櫻谷」と呼ばれたそうです。

熊も神聖な動物で、アイヌの人々は山の神がヒグマの姿となって人間界にやって来ると考えてきました。林十江は大胆な構図で評価されていますが、38歳で亡くなってしまいます。この絵も大きな目と尖った顔など、他の熊の絵とは異なっています。

第2章 人と動物の関わり

ペットや家畜など、人と関わりの深い動物たちの章です。会場は和室。120畳の大広間の壁の低い位置に絵は展示されています。本来、日本画は和室に掛けられて座って楽しむものだ、という話を聞いたことがあります。座ってじっくりというのは難しいかもしれませんが、普段とは違った鑑賞の仕方が出来そうです。

尾竹國観  《文姫帰漢》   1916年  前期展示

中国の後漢時代、遊牧騎馬民族である匈奴の王妻となった女性が、子供との別れを惜しむ場面です。匈奴の移動手段だった馬とラクダが描かれています。涙を流す人物の姿も心に残りますが、六曲一双の大きな画面に動物と人が一体になった姿が印象に残ります。

(左から)今村紫紅《春暖》大正時代 通期展示、 同《緑蔭酒亭》1913年 通期展示、 西山翠嶂《悉達發心図》1900年 前期展示、 呉春《草屋洗馬図》江戸時代 前期展示

《悉達發心図》は王子だった釈迦が家族を捨て、城を出ようとする場面です。愛馬のカンタカと従者が描かれています。釈迦が出家するきっかけとなった「四門出遊」の時も一緒だったかも知れません。釈迦はこの後、川の畔でカンタカとも従者とも別れ、一人修行に入ります。そんなことを思い出しながら絵を見ると、釈迦と愛馬との一体感のようなものも感じられます。

(左から)川合玉堂 《鵜飼》 1955年頃 前期展示、 菊池契月 《松明牛》 1935年 前期展示

玉堂は幼い頃に岐阜に住み、鵜飼は身近なものだったのでしょう。画家になってから何度も鵜飼に訪れたようです。生涯で500点以上の鵜飼の作品を描いたと言われています。この作品は晩年のもので、薄墨で表された暗闇の中で篝火とその煙が幻想的な雰囲気を醸し出しています。鵜は墨でシルエットのようなのですが、何度も見て描いているからでしょう、一瞬の動きを捉えています。

(左から)木島櫻谷 《春園閑興図》 明治時代 通期展示、大橋翠石 《双犬図》 昭和時代 前期展示、 速水御舟 《洋犬》 1919年 通期展示

《春園閑興図》は木島が実際に飼っていたイングリッシュ・ポインターをモデルにした絵です。この犬は猟犬で運動能力が高く、優美な体形をしています。一緒に並んだ《双犬図》や《洋犬》とともに、円山応挙が描く紀州犬の絵と比べるのも面白いかも。

江戸時代から昭和まで、様々な画家が描いた動物の絵だけを集めた展覧会。時代によって、画家によってどんな描き方をしているのか興味深く見ることができます。2階の120畳の大広間での展示も迫力があります。竹内栖鳳の《春郊放牛図》は等身大の牛と足もとの雀、そして遠近法を使って遠くに見える牛の風景が、実際にそこにあるかのように見えました。

◆嵯峨嵐山文華館

もともとは2006年、藤原定家が優れた和歌を撰んだゆかりの地に、百人一首の専門ミュージアムとして設立された。2018年に「嵯峨嵐山文華館」としてリニューアルオープン。百人一首ゆかりの小倉山を背に、昔から景勝の地である嵐山や大堰川を展望できる地にある。1階の常設展示には江戸時代の「百人一首かるた」や「古今和歌集かるた」、「源氏物語かるた」、木で作られた「いたかるた」、定家の日記「明月記断簡」(複製)など、百人一首に関する資料が展示されている。また、歌人を表した100体の歌仙人形(フィギュア)と英訳付き歌も壮観だ。年4回の企画展では京都にちなんだ芸術、文化を紹介している。2階の大広間では、競技かるたのトップクラスが対戦する大会も開かれる。

★ ちょっと一休み ★

庭に面したテラスにあるカフェ「嵐山OMOKAGEテラス」。渡月橋から少し奥まった所の隠れ家的な場所で、春は桜、秋は紅葉が目の前に広がる。国産のもち米「くちどけもちこ」を使い、お餅のような食感が楽しめるトーストやうどんが人気。もちろんコーヒーや紅茶、ほうじ茶ラテ、柚子茶など飲み物もたくさん。桜や紅葉を眺めてゆっくりしたい向きにはビールも。ちなみに筆者は猛暑の日だったこともあり、かき氷(700)を。山もりの氷に抹茶とトッピングのあずき、目の前の緑にしばし暑さを忘れました。営業時間は午前10時から午後5(ラストオーダーは430)。火曜定休。美術館に入らなくても、単独でも入れる。

(ライター・秋山公哉)

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