「社会の脆弱さ、一層深刻に。自分の足元から世界を見つめたい」 大震災を経て、コロナと向き合う青野文昭さんに聞く 森美術館「地球がまわる音を聴く」展から

自作を前に青野文昭さん(森美術館で)後ろに見える鳥居の一部は廃社になった「越路山神社」のものを使っている。

ポストコロナの時代をいかに生きるのか、「ウェルビーイング(よく生きること)」とは何か、を国内外の16人のアーティストの作品を通して考える展覧会「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」展。東京・六本木の森美術館の会場で、ひときわ異彩を放つのが、壊れかけたタンスや家具などを組み合わせて砦のような空間を形成する青野文昭さん(1968-)のインスタレーションです。1990年代から一貫して空き地や海岸などで拾った廃棄物を「なおす」という手法で制作。仙台在住で東日本大震災後は津波によって壊れ、傷ついたものに集中的に取り組み、注目を集めてきました。その青野さんは震災被害を経て、現在のコロナ禍をどう受け止めているのか。会場で伺いました。(聞き手・読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

手前が「八木山橋」(2019年)、奥が「僕の町にあったシンデン―八木山越路山神社の復元から2000~2019」(2019年)。家具や廃材、小物、古新聞、おもちゃなどが独特の世界を構成している。

震災を経験、「今の社会は破綻している」

Q インスタレーションは「僕の町にあったシンデンー八木山越路山神社の復元から2000~2019」「八木山橋」という長いタイトルがついています。

A コロナ禍が本格化する直前に制作したものです。自分が生まれ育ったのは仙台の新興住宅地で、その裏にある八木山は子供のころから遊び場として親しんできました。何の変哲もない平凡な裏山のようでいて、小さな神社があったり、ベーブルースがホームランを打った野球場があったり、動物園があったり、朝鮮学校があったり、など豊かな歴史や記憶を抱えた場所だったのです。ところが1990年代後半、神社が突然壊され、鳥居がバラバラにされていたのを見つけ、憤りを感じました。作品を構成している鳥居は、その時に拾ったものです。

震災翌日、この山に避難して、市内にサイレンが無数に鳴り響き、ヘリコプターが飛び交う非現実的な光景をなすすべもなく眺めました。そうした経過もあって、かつては共同体の行く末を記憶し、人々の魂を迎え入れる場所だったであろうこの山や神社を改めて「シンデン(神殿)」として立ち上げた、という作品です。自分の子供の頃の記憶を掘り起こし、再現しました。

インスタレーションの中央部には「この土地にねむる全ての者の魂」として人型がある。

「八木山橋」はこの地域と外を結ぶ橋で「3.11」の時、壊れてズレたのです。すぐに復旧したのですが、私は「本当に復旧したのだろか。ズレたまま、この世から遮断されてしまったのではないか。私たちは得体の知れない領域に取り囲まれ、危うい脆弱なところに立たされているのではないか」という思いが頭から離れませんでした。

東日本大震災で被災し、それまで一見、きちんと機能しているように思えた社会の仕組みがいかにいい加減なものだったのかを思い知らされました。自治体や町内会から紙一枚届くわけでもなく、文字通りほったらかしです。私は親戚が近くにいて助けてもらえましたが、独り暮らしのお年寄りなど酷いものでした。「今の社会は破綻しているんだな」というのが正直な思いでした。

おどが森の巨人(ダイダラボッチ)。仙台平野の中心部にある「オドガ森」(現・太白山)には巨人伝説があった。

社会の脆弱さ、世界が思い知ったコロナ禍

Q その思いはコロナを経て、どうなりましたか。

A 地続きですね。震災の時は放射能のことにせよ、マスコミの報道にせよ、私たち被災者は社会的規範の外側に突き放されたようでした。コロナ禍によって、社会の脆弱さや破綻ぶりが世界的に共有されたのではないでしょうか。社会や経済の枠組みも実はギリギリで成り立っていたに過ぎなかった、と。震災の時のようにモノが壊れたわけではないですが、目に見えない制度も傷んでいることが明白になりました。

「どうやって生きていくのか」を考える アートの存在意義

Q そうした経験を経て今、コロナ禍の時代にアーティストはどうすべきだと思いますか。

A 人間が作ったものに囚われていてはいけない、自分が大切だと思うものに集中しなくていけない、と考えています。コロナ禍前までは海外のギャラリーともやり取りがあって、展示の機会にも恵まれていました。この2年あまり、次々にキャンセルされて暮らしは大変なのですが、家族と過ごす時間は増えました。実際、東北地方の被災地のアーティストは今も色々な意味で余裕がなく、自分を取り巻く外の世界を取材するのは難しいのです。

私のアプローチはオーソドックスなものです。自分の足元にある、ささいな違和感を掘り下げていくことで、ローカルなものから日本や世界へと広がっていく感覚。作品を通じて日本の近現代の歴史や現在の人々、自然、海、山などに繋がっていければ。こうした厳しい時代だからこそ、「どうやって生きていくのか」を考えることや、「創造性が求められるもの」という領域に関わることは、アートの存在意義だと思います。今回の「地球がまわる音を聴く」展とも、そうした問題意識とつながっています。(おわり)

青野文昭(あおの・ふみあき):1968年、仙台生まれ。1992年、宮城教育大学大学院美術教育科修了。2005年、宮城県芸術選奨(彫刻)。2013年、ヴァーモントスタジオセンターフェローシップ。2015年、公益信託タカシマヤ文化基金・第26回タカシマヤ美術賞受賞。

2022年「どこから来てどこへ向かうのか」(上野の森美術館)、2020年「ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW-光の破片をつかまえる」(横浜美術館他)、2019-2020年「青野文昭 ものの,ねむり,越路山,こえ」(せんだいメディアテーク)など。

(読売新聞美術展ナビ編集班)

地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング

  • 会期

    2022年6月29日(水)11月6日(日) 会期中無休
  • 会場

    森美術館
    https://www.mori.art.museum
    港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F
  • 観覧料金

    ※専用のオンラインサイトでチケットを購入すると()内の料金が適用されます。

    [平日]一般  1,800円(1,600円) 学生(高校・大学生) 1,200円(1,100円) 子供(4歳~中学生)600円(500円) シニア(65歳以上)1,500円(1,300円)

    [土・日・休日]一般2,000円(1,800円) 学生(高校・大学生)1,300円(1,200円) 子供700円(600円) シニア(65歳以上) 1,700円(1,500円)

    ※本展は事前予約制(日時指定券)を導入しています。専用オンラインサイトから「日時指定券」を購入ください。

    ※当日、日時指定枠に空きがある場合は、事前予約なしで入館できます。

  • 開館時間

    10:00〜22:00 (最終入館 21:30) ※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)
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