【レビュー】怖い? かわいい? 江戸っ子たちも動物が好き――太田記念美術館で「浮世絵動物園」展

展示風景

「浮世絵動物園」展

※前期(~8月28日)、後期(9月2日~)で全点展示替え

※最新情報は、公式HP(http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/)で確認を。

浮世絵にはさまざまな動物が登場する。ネコやイヌのようなペットはもちろん、日々の労働の友となったウマやウシからヌエなどの想像上の怪物まで、ありとあらゆる動物たちが登場するのである。かわいらしかったり恐ろしかったり、時には自然の神秘を体現してみたり、その描かれ方は多種多様。「浮世絵動物園」と題された今回の展覧会では、そんな動物に関する多彩な作品約160 点が、前期後期に分けて紹介される。

歌川広重「名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣」(前期)

「動物の絵」と言われてまずアタマに浮かぶのは、イヌやネコなどのペット。江戸時代も現代もペットを愛でるヒトの心は変わらないようだ。歌川国芳のネコ好きは愛好家には知られるところだが、他にも「心に残るネコ」は多数浮世絵の中に存在する。歌川広重の「名所江戸百景」の「浅草田圃酉の町詣」で描かれているシロさんは、いかにもネコらしいフォルムが愛おしい。窓際で何となく外を眺めているその姿は、現代でもネコ好きには見慣れたものではないだろうか。

葛飾北斎「狆」(後期)

一方のイヌ。江戸時代、大奥をはじめとする上流階級で珍重されたのが、中国からわたってきた狆なのだそうだ。そんな眼で見ると、何だかセレブな雰囲気が漂ってくるから不思議だ。下の展示風景にある一枚は、歌舞伎芝居でおなじみ「お富与三郎」で、お富の家に「押し借り」に行こうとする蝙蝠安と与三郎を描いたものだが、与三郎の足元にいるノライヌ(?)が、なかなかの風情。「生きている街」の雰囲気が漂ってくる。

展示風景

江戸の文化の特徴というと、「見立て」「うがち」「やつし」である。下の一枚、歌川国芳の弟子、芳藤の作品は、相撲取りをウサギに見立てて、番付まで作っている。こういう戯画は国芳一門が得意だったようで、吉原遊郭をスズメの世界にしてみたり、カエルに芝居をやらせてみたり、様々な趣向の絵が今回の展覧会でも見られる。人間のように振る舞う動物たちの姿を見ていると、当時人々が何を考えてどんな暮らしをしていたかも分かってくる。絵師たちの想像力、現実に対する批評精神が、ユーモラスな描写の中から見えてくる。

歌川芳藤「兎の相撲」(前期)

絵師たちの想像力は、時に「訳の分からない」ものを生み出したりもする。その代表が、虎と石が合体した「虎子石」だろう。虎と石を合体させて何の意味があるのか、そもそも此奴はどんな性質の生き物なのか、さっぱり分かりはしないのだが、何だか面白いのは確かである。江戸時代のマンガにあたる黄表紙本を眺めていると、この時代、ヒトも動物も妖怪も、様々なモノがキャラクター化されて人々に親しまれていたのがよく分かる。その例のひとつが「虎子石」なのだろうか。考えてみれば、現代のニッポンだって、「せんとくん」のような「変化球」のキャラクターが人気を集めているのである。日本人の感性は今も昔もそんなに変わらないのだなあ、とも思う。

歌川芳員「東海道五十三次内 大磯をだハらへ四リ」(前期)

今よりも自然が身近だった時代、動物たちの見せる「野性」への畏敬の念、それに対する憧憬は、現代よりも強かったことだろう。菊川英山の「虎図」で描かれているのは、ニッポンには生息していなかったにも関わらず、古くから親しまれてきたトラ。何ともいえない愛嬌と力強さがあり、「生命のきらめき」が感じられるのである。

菊川英山「虎図」(前期)

安政の大地震の後に大流行した「鯰絵」、ツチグモやガマの化け物が跋扈する「武者絵」など、様々なジャンルが紹介される今回の展覧会。作品を手がけている絵師は40 人にのぼるという。「美人画」のアクセントになり、「風景画」の世界に溶け込んでいる動物たち。絵師たちがどんな工夫を凝らし、その姿を描くことで何を表現しようとしたのか。そんなことを考えながら見ると、なかなか趣深い展示である。

(事業局専門委員 田中聡)

展示風景

新着情報をもっと見る