【レビュー】水をテーマに涼やかに――特別展「水のかたち -《源平合戦図》から千住博の『滝』まで-」 山種美術館で9月25日まで

特別展「水のかたち -《源平合戦図》から千住博の『滝』まで-」
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会期
2022年7月9日(土)〜9月25日(日) -
会場
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観覧料金
一般1300円、高校・大学生500円、中学生以下無料ほか。
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休館日
月曜休館、ただし9月19日は開館し、9月20日が休館
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アクセス
JR恵比寿駅西口、東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口から徒歩約10分 - カレンダーへ登録
※詳細情報はホームページ(https://www.yamatane-museum.jp/)で確認を。
四季折々、豊かな自然に囲まれたニッポンは、水の豊かな国でもある。生命をたたえた海、小川のせせらぎ、神秘的な深山渓谷……。「水」のある風景は、数多くの芸術家たちの画題になってきた。そんな作品を集めたのが今回の特別展である。


夏でも冬でも、ニッポンの風景には、どこかウェットな空気が漂っている。それはどこか優しくもあり、何とも言えず幻想的でもある。長谷川等伯の《松林図屏風》(東京国立博物館蔵)を例に出すまでもないだろうが、我が国のアーティストは、そんな「水のかたち」を昔から描き続けてきた。川合玉堂の《雪志末久湖畔》、菱田春草の《雨後》。この展覧会でも、そういう「ニッポンの伝統」を継承した作品が数多く展示されている。静謐な中に自然の尊さがにじみ出る、この世のすべての事象に「八百万の神々」を見いだす美しい世界。ニッポンならではの「水のかたち」は、絵の中からマイナスイオンがあふれ出るようだ。

中でも印象に残るのは、千住博の《ウォーターフォール》だ。轟々とした水音が聞こえてきそうな勇壮な滝。人智では計り知れない存在がそこにおわしますような、堂々とした姿。近代の日本画を多数所蔵する山種美術館だが、だからこそニッポンならではの「水のかたち」を描いた現代作家の作品は趣深い。


島国ニッポンにとって、四方を囲む「海」も、なじみの深い「水のかたち」。海にちなんだ作品も、数多く展示されている。自然の勇壮さが画面からはじける横山大観の《夏の海》、リアルに「自然の神秘」を描写した奥村土牛の《鳴門》など、その海を描く大家たちのタッチは個性的でバリエーションに富んでいる。青い海の中をトビウオが群れている川端龍子の《黒潮》。生命が躍動しているさまが、二曲一双の屏風の中に閉じ込められている。


歌川広重の《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》は、広重ならではの細かい雨の描写が魅力。1年を通じて雨が多いニッポンだけに、降りしきる雨、むせぶような霧雨など、浮世絵版画には様々な雨が登場する。それだけでも多彩な技巧が楽しめるのだ。浮世絵、近代日本画、現代作家の作品……ニッポンの画家たちが描く数々の「水のかたち」。例年にも増して猛暑だという今年、せめてアートを鑑賞する眼だけでも涼を求めてはいかがだろうか。
同時に行われている特集展示は「日本画に描かれた源平の世界」。こちらは17世紀の六曲一双の屏風《源平合戦図》(山種美術館蔵)や前田青邨、小林古径の歴史画などで、「鎌倉殿の13人」の世界が堪能できる。
(事業局専門委員 田中聡)
