【レビュー】権力者たちが愛した美――東京都美術館で「ボストン美術館展 芸術×力」が開幕

展示風景

ボストン美術館展 芸術×力

  • 会期

    2022年7月23日(土)10月2日(日) 
  • 会場

    東京都美術館
    https://www.tobikan.jp
    台東区上野公園8-36
  • 観覧料金

    一般2000円、大学生・専門学校生1300円、65歳以上1400円、高校生以下無料

    ※日時指定予約制

  • 休館日

    月曜休室、ただし8月22、29日、9月12、19日、26は開室。9月20日は休室

  • アクセス

    JR上野駅公園口から徒歩7分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口から徒歩10分、京成電鉄京成上野駅から徒歩10分
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※作品はすべてボストン美術館所蔵

※詳細情報は展覧会公式HP(https://www.ntv.co.jp/boston2022/)で確認を。

古今東西、「美」は「権力」の象徴でもあった。権威を視覚化するため、統治の理由を正当化するため、財力を誇示するため……様々な理由で権力者たちは自らの周りを「美」で彩ったのである。では、権力者たちはどんな「美」を愛し、育み、後世へと残していったのか――。ボストン美術館のコレクションを基にしたこの展覧会は、そんな視点をベースにして、絵画から工芸品まで様々な作品を展示している。

アンソニー・ヴァン・ダイク 《メアリー王女、チャールズ 1世の娘》 1637年頃 Given in memory of Governor Alvan T. Fuller by the Fuller Foundation Photograph@Museum of Fine Arts, Boston

「権力者」と「絵画」といえば、まず思いつくのが「肖像画」だろう。中世から近世の欧州で、有名画家に家族の肖像画を依頼することは、上流階級にとってステータスだったわけだから。数多残された肖像画には、着飾ってポーズを取った老若男女の姿が写し出されているのだが、背景や表情、衣服のニュアンスから、後世の人々はそこに描かれた人々がどんな人生を送っていったのかを思い起こすことができる。1枚の絵から様々な「物語」が読み取れるのである。さらにその「物語」を進めて、宮廷における「人物」の「関係性」を描いているのが、ジェロームの《灰色の枢機卿》。この絵を見れば、「枢機卿」がどれだけ人々に畏怖されていのか、よく分かる。政界の「黒幕」という感じなのである。

ジャン=レオン・ジェローム 《灰色の枢機卿》 1873年 Bequest of Susan Cornelia Warren Photograph@Museum of Fine Arts, Boston
《モンスーンを楽しむマハーラージャ、サングラーム・シング》 インド北部(メーワール、ラージャスターン地方)、ムガル帝国時代、1720-1725 年頃 Gift of John Goelet  Photograph@Museum of Fine Arts, Boston

「上流階級」の「生活」を優雅に描く。それは、他国に「権力」をアピールすることであり、統治民たちに憧れの気持ちを持たせることにもなる。上掲のインド絵画を見ていただきたい。「高貴さ」と「財力」に満ちた王侯貴族たちを整然と描いた1枚。洋の東西を問わず、権力者たちが庶民に「見せたい」姿はこういうものだったのだろう。西欧だけでなく、日中韓、インドなど様々な国の芸術品を展示するこの展覧会。「権力」と「美」の関係が普遍的なものだったことがよく分かる。

《ギター(キタラ・バッテンテ)》ヤコポ・モスカ・カヴェッリ イタリア、1725年 Frank B. Bemis Fund and funds donated by William and Deborah Elfers, an anonymous donor, Weston Associates, Leo and Gabriella Beranek, Catherine and Paul Buttenwieser, Richard S. Milstein, Esq., Mrs. Robert B. Newman, and Marlowe and Elise Sigal Photograph@Museum of Fine Arts, Boston
《能面 阿古父尉》(左)と《厚板 萌黄地牡丹立涌模様》(右)の展示風景

そういう「権力」と「美」の関係は、絵画だけには留まらない。身の回りの嗜好品、あるいは自分たちが庇護する芸術家の道具なども、豪華かつ重厚に作り上げる。楽器というよりももはや工芸品といえそうなギター、「今作ったらいくらするのだろうな」と思ってしまう能楽装束。こちらも洋の東西を問わず、権力者の美意識は共通しているようだ。「武家のたしなみ」として江戸時代の「ハイカルチャー」の代表だった「能楽」に関していうと、有力大名は力のある能楽師を抱えていたわけなので、どんな装束を用意するかは大名の識見、教養に関わるものだったのだろう。「美」を通じて自らの「才」を示す。それもまた、どんな時代、どんな世界でも「権力者」に必要な資質だったようである。

《吉備大臣入唐絵巻》(部分)平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末 William Sturgis Bigelow Collection, by exchange Photograph@Museum of Fine Arts, Boston
《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》の展示風景

今回の展覧会、もう一つの見どころは、ボストン美術館が所有する2本の絵巻物、《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》と《吉備大臣入唐絵巻》の展示だ。吉備真備が不思議なキャラクターに仕立てられていて、オフビート感覚あふれるゆるーいユーモアが漂っているのが、《吉備大臣入唐絵巻》。現代で言えば、「団地ともお」や「聖☆おにいさん」といったマンガを連想してしまった。そういえば、江戸時代の「黄表紙」にもゆるーいキャラクタリズムが横溢しているわけで、昔から日本人はそういうものが好きだったんだなあ、と実感。これに対して、「いかにも戦記物」なのが《平治物語絵巻》で、こちらは燃えさかる炎の描写などが迫力十分。どちらも「日本にあれば国宝」といわれる好一対の絵巻物、これだけで「おいしくご飯が食べられる」のである。

(事業局専門委員 田中聡)

ジョン・シンガー・サージェント《1902年8月のエドワード7世の戴冠式にて国家の剣を持つ、第6代ロンドンデリー侯爵チャールズ・スチュワートと従者を務めるW・C・ボーモント》の展示風景

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