「キース・ヴァン・ドンゲン展」パナソニック汐留美術館で9月25日まで エコール・ド・パリを代表する画家が描いた社会に生きる女性たち

20世紀前半のパリを中心に世界的に高い評価を受けたオランダ生まれの画家、キース・ヴァン・ドンゲン。その最も輝かしい時代に光を当てた「キース・ヴァン・ドンゲン展 フォーヴィスムからレザネフォル」が、東京・汐留のパナソニック汐留美術館で9月25日(日)まで開催されている。日本の美術館においては44年ぶりとなる彼の個展。その見どころを本展の担当学芸員である宮内真理子さんの声も交えながらお伝えしよう。

黄金期のパリを魅了したオランダ出身画家の作品67点

1877年にオランダのロッテルダム郊外で生まれ、1968年に91歳で没したキース・ヴァン・ドンゲン。本展ではその生涯のうち、パリに拠点を起き、最も輝かしい時間を過ごした1900年頃から1920年代の画業に着目している。計67点の展示を通じて「新印象派からフォーヴィスムへ」「フォーヴィスムの余波」「レザネフォル」という3章立てで、この時代の足跡と興味の変遷を追う構成だ。

会場入り口

ロッテルダム美術アカデミーで絵を学んだヴァン・ドンゲンは、20歳を迎えた1897年に初めてパリを訪れたが、この街に居を構えて本格的に活動を始めるのはそれから3年後のことになる。1900年にモンマルトルに最初の拠点を置いた彼は、当初は雑誌や新聞のための風刺画を描いて生計を立てていた。

一方で絵画作品にも情熱を傾けた。ロッテルダム時代の頃からアナーキスト(無政府主義者)と繋がりのあった彼にとって、この時代は路上にある貧しい光景や売春婦の姿など、どちらかといえば社会の“裏側”にある人や場面が関心の中心になった。

「新印象派からフォーヴィスムへ」の展示風景

画風もパリに来た当初は新印象派に強い関心を抱いていたが、しばらくして筆触分割の技法を捨て、力強い筆致と鮮烈な色彩が特徴的なフォーヴィスムの画家の一員となる。短期間の流行に過ぎなかったフォーヴィスムだが、仲間たちが別の道へ進んでいく中でもヴァン・ドンゲンは強い色彩への追求を続け、ピカソやドイツ表現主義の画家らとも交流を深めながら独自の画風で評価を高めていった。

上流階級に溶け込んだ画家

描く対象に転機が訪れたのは1910年代に入ってからのことだ。モンパルナスに住まいを移し、社交界の面々と結びつきを持った彼には上流階級からの肖像画の注文が舞い込むようになる。

「フォーヴィスムの余波」の展示風景

「ヴァン・ドンゲンには今で言う“パリピ”みたいなところがあって、パーティーで人間関係を作ることがとても上手な人でした。画家として駆け出しの頃は決して裕福ではありませんでしたが、そういう性格もあって、うまく上流階級の中に入り込んでいけたのでしょう」

本展を担当した学芸員の宮内真理子さんはそう語る。そしてパリで広く名を知られるようになった彼は、第一次世界大戦後の「レザネフォル(狂騒の20年代)」と呼ばれる好景気の時代に、パリで最も名声を得た画家の一人になった。そうした彼の変遷は、本展の展示を見ていけばはっきり認識できるはずだ。

“美しく描く”ことに集中し、表現力を極めた

“貧しさ”を描く画家から社交界を生きる華やかなパリの上流階級を描く画家に。作風も題材も色を変えてきたヴァン・ドンゲンだが、社会に生きる女性像を描き続けてきたところは一貫している。

「レザネフォル」の展示風景

彼の女性画の特徴は、モデルをややデフォルメし、すらりとした細身の姿を強烈な色彩で描いている点だ。共通して目が大きく、官能的な甘さを放っている。その中で個人的に気になったのは、同じような構図の女性画であっても作品ごとにデフォルメ感や筆使いが異なる点だ。例えば細いタッチで優雅な淑女を描いた《婦人の肖像》と、少女漫画のように瞳の大きな《トニ・チェイス嬢》とでは印象がかなり異なる。

これについて、宮内さんは「肌の質感であったり、化粧や装身具であったり、そうしたものを複合して一人として同じ女性はいませんから、彼にとって女性像というのは特権的で常に飽きない素材を提供してくれる存在でした。よって、たくさんの女性たちを描く中で、一人一人をどう美しく描いていくか。注文主の希望に応えながら、そうした作業の繰り返しを通じて表現力を極めていったのだと思います。また、彼は1910年にスペインやモロッコへ旅に出ていて、南方の強い光が描き方や色遣いに影響を与えたところもあるのでは」と解説する。

照明へのこだわりにも注目!

いずれも長辺が2メートル近い大作《ドゥルイイー指揮官夫人の肖像》《女曲馬師(または、エドメ・デイヴィス嬢)》《フォンテーヌ夫人の肖像、またはコモード(飾りダンス)の横に立つ上流階級の女性》の3点には等身大に近い女性像が描かれ、特に見応えがある。また、女性像以外にもパリやドーヴィル、短期間滞在したヴェネツィアなどの風景画も多数展示。60歳を過ぎて生まれた息子を描いた《画家の息子、ジャン=マリー・ヴァン・ドンゲン》の愛らしい少年像にも注目だ。

「レザネフォル」の展示風景

「女性像の唇や頬の赤みを美しく見せるため、今回は特別に美光色のスポットライトを使っています。また、彼の作品は金色の額を使っているものが多く、普通に光を当てると額の金が反射して顔がしっかり見えない場合があります。そこで本展では画面だけに光をあてる事が出来るカッタースポットライトという照明器具を用いて額の反射を抑えています。美しい女性画を間近で集中して見られる環境を整えていますので、ぜひ多くの方にお越しいただきたいです」と照明に並ならぬ力を入れる同館ならではの展示空間へのこだわりも語ってくれた宮内さん。
熱狂に沸いた時代のパリ、そしてパリジェンヌたちの肖像は現代の我々の気分も明るくしてくれる力がある。絵画を通じて華やかな時代のヨーロッパへ時空旅行を楽しんでみては。(ライター・鈴木翔)

キース・ヴァン・ドンゲン展 フォーヴィスムからレザネフォル
会期:2022年7月9日(土)~9月25日(日)
会場:パナソニック汐留美術館(東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4F)
開館時間:午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
休館日:水曜日と8月12日~17日は休館
観覧料金:一般1000円、65歳以上900円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料
アクセス:JR新橋駅より徒歩約8分、東京メトロ銀座線新橋駅・都営浅草線新橋駅・ゆりかもめ新橋駅より徒歩約6分、都営大江戸線汐留駅より徒歩約5分
詳しくは同館の公式サイト(https://panasonic.co.jp/ew/museum/)で。問い合わせはハローダイヤル(050-5541-8600)へ

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