誰にでもひらかれた 理想のランドスケープ・ミュージアム「長野県立美術館」

およそ1400年前に創建されて以来、人々の信仰を集めてきた長野市の国宝・善光寺。長野県立美術館は、隣接する城山公園の中に位置する。
広々と開けた公園には多数のベンチが用意されており、旅行者だけでなく、地元の人がふらりと立ち寄って読書を楽しんだりひと休みしたりと、「ランドスケープ・ミュージアム」というコンセプトの通り、地域と風景に溶け込んだ施設となっているのが印象的だ。

長野県信濃美術館のコレクションを引き継ぎ、2021年に新築オープン

2021年4月に新築オープンしたばかりのこの施設は、敷地内に本館と東山魁夷館の2つの美術館を擁している。
長野県立美術館の前身となる長野県信濃美術館は、1966年に開館。郷土に基づいた作品を大切に、約4,600点もの収集を行った。同館はこのコレクションを引き継ぎながら、新たな収集方針を固め、近現代において重要な作品や、長野県ゆかりの作家の作品を積極的に収集することを掲げている。

本館と東山魁夷館を繋ぐ連絡ブリッジ

本館の設計者は宮崎浩、東山魁夷館の設計者は谷口吉生と、異なる2人の建築家による建物が隣接して建っているが、連絡ブリッジで繋がれたそれらは、違和感がないほど調和している。

本館には企画展示の会場が3つ、コレクション展示の会場が1つ、アートラボが1つに加え、ホールと貸し出しも行っているしなのギャラリー。さらにアートライブラリー、交流スペース、そして、レストランにカフェと美術館として充実した機能性を誇る。

アートラボでは、視覚のみにとらわれず、さまざまな感覚を使っての鑑賞を試みる。こちらは「西村陽平展 彫刻を見るとき、耳を澄ます」2022年7月26日(火)まで

同館の核とも言えるコレクション展のスペースは、前身のコレクションを上手く編みながら信州ゆかりの作家を紹介するダイジェスト的な役割を担っており、まず洋画と彫刻、続いて日本画と工芸、そして現代美術へと続く構成になっている。

コンパクトにまとめられている分、年に6回ほどの展示替えを行うそうで、いつ訪れても新鮮な気持ちで鑑賞できるのが嬉しい。現代美術も絵画から版画、写真、映像までがバランスよく組まれ、「この作家は信州の人だったのか」という発見とあわせて楽しめるのは、キュレーションの妙と言えるだろう。

画家所蔵の作品からその芸術に触れる「東山魁夷館」


東山魁夷のアトリエは千葉県市川市にあるが、魁夷が得た旅行中のとある縁から、長野県にも多くの作品を寄贈している。

長野県信濃美術館に併設するかたちで1990年に開館した東山魁夷館は、画家から寄贈された作品970余点と関係図書を収蔵。2階の展示室ではおよそ2ヶ月に1度展示替えが行われ、1階“創作の部屋”では年譜とともにエピソードを交えた作家の紹介と、資料が陳列されている。画材などは紹介されることも多いが、愛聴していたレコードの展示は珍しく、作家の人柄が垣間見えるようで楽しい。

東山魁夷館のもうひとつの醍醐味と言えるのが、このラウンジからの眺めだろう。

金沢の鈴木大拙館然り、東京国立博物館法隆寺宝物館然り、これぞ谷口建築と言いたくなるような空間演出は、何時間でも座っていられるほど素晴らしい。東山芸術の余韻を味わえる、最適な時間を過ごせるはずだ。

ぜひ体験したい《霧の彫刻》

中谷芙二子《霧の彫刻 #47610 -Dynamic Earth Series Ⅰ-》

長野県立美術館の魅力はこれに留まらない。

アート好きの人々から「長野県立美術館と言えば」という質問に挙がるのが、中谷芙二子の《霧の彫刻 #47610 -Dynamic Earth Series Ⅰ-》だ。1日に数回、瞬く間に辺りを真っ白に埋め尽くす霧が出現する。

霧はその日その時、空気の流れや風の向きで変幻自在に姿を変え、水面を走り、私たちを翻弄する。霧の中から一瞬覗く青空も、隣りにいた人がふっと消えてしまう瞬間も、とても儚いのに鮮烈で、まるで白昼夢を見た後のようなふしぎな感覚に包まれる。

なお、霧の出る時間や回数は季節や時期等によって都度変更となるため、詳しい情報は美術館のサイトで確認を。

ここでしか出会えない信州の新たな風景[風テラス]

[風テラス] 正面には善光寺が

さて、同館にはもうひとつ大きな見どころがある。国宝・善光寺と信州の山々を見渡す、展望広場[風テラス]である。

「信州の新たな風景」を楽しめるよう作られたスペースだそうで、これが大変素晴らしい。

テラスの傍にある「しなのアートカフェ」にて、ご当地ものを注文できるというのも素敵だ。オーソドックスなメニューに加え、信州豚ソーセージのホットドッグや、信州牛コロッケ、もちろん志賀高原ビールなどもあって、ついつい迷ってしまう。

青空の下で名刹を臨み、美味しいものを頬張る贅沢。地元の人と思しきグループが、カフェで飲み物を買って気持ちよさそうに休憩していたのも良かった。地域に根差した施設というものは、その土地の人に愛されてこそだろう。

なお、[風テラス]の1つ下のフロアにはレストラン「ミュゼ レストラン 善」があり、こちらも善光寺を眺めながら食事をとることができるようになっている。

美術館から城山公園を臨む

展示のほかにも様々な学習プログラムや、館外交流活動など、美術家・学芸員・来館者などが互いに学び合える場となるような取り組みは、同館が提唱する「インクルーシブ・プロジェクト(だれにでもひらかれた美術館へ)」という考えをよく体現している。

「善光寺のついでにちょっと立ち寄る」というにはあまりにももったいない充実した美術館なので、しつこいようだけれど(とくに天気の良い日は)時間に余裕をもって訪れることをおすすめしたい。(ライター・虹)

長野県立美術館
開館時間:美術館 開館9:00 閉館17:00(展示室入場は16:30まで)
休館日:毎週水曜日(原則、水曜日が祝日の場合は翌平日)、年末年始(12/28-1/3)
※その他休館日については公式ホームページをご確認ください。
観覧料   企画展は展覧会により異なります。
コレクション展(本館NAMコレクション・東山魁夷館コレクション 共通)
一 般:700円 大学生及び75歳以上:500円 高校生以下または18歳未満:無料
公式サイト https://nagano.art.museum/

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