「音楽、絵画、それぞれの可能性広げる試み」 ピアニスト・福間洸太朗さんに聞く 「自然と人のダイアローグ」展、音声ガイドに選曲

モンドリアンの《コンポジション X》と向き合う福間さん。「実際の作品をみると、立体感と作品の持つ迫力に驚きました。編成の大きいオーケストラ作品も合いそうですね」。

国立西洋美術館で開催中の「自然と人のダイアローグ」展では、音声ガイドのBGMに人気ピアニストの福間洸太朗さんが選曲・演奏したピアノ曲が流れ、ひと味違った展覧会の楽しみ方を鑑賞者に提供しています。国立西洋美術館を訪れ、会場で音声ガイドを聴きながら作品を鑑賞した福間さんからお話を伺いました。西洋絵画も大好きという福間さん。絵画と音楽のコラボレーションに新しい可能性を見出していました。(聞き手・読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

音声ガイドは声優の駒田航さんがナビゲーター、音楽の選曲を福間さんが担当(国立西洋美術館で)

パリ留学で絵画の魅力を知る

Q もともと西洋絵画を見るのがお好きだそうですね。

A 十代でパリに留学したのがきっかけになりました。フォーレやドビュッシー、ラヴェルなどのフランス音楽がとても好きで、彼らは美術の世界とも密接に繋がり、影響を受けながら創作をしていたので、作品を深く理解する上で自然とフランスの絵画にも関心を持つようになりました。ルーブルやオルセーといった有名どころだけでなく、パリには至るところに美術館があり、小さな美術館でも魅力的な作品を見ることができます。

以来、行く先々で美術館に足を運ぶようになりました。今回の展示作品でも、ゴーガンの『扇を持つ娘』はヨーロッパの美術館で鑑賞したことがあります。『サン=トロぺの港』が出展されているシニャックも昨年、パリで開かれていたシニャック展でまとめて彼の作品を見る機会がありました。同じ作品や同じ作家の作品に触れると、かつての楽しい記憶が蘇りますね。これも絵画鑑賞の醍醐味かもしれません。

シニャックの《サン=トロペの港》と。「昨年、パリでシニャックを見たときのことを思い出します」と福間さん

コンサートと展覧会に通じるもの

Q 音声ガイドのBGMを選曲してほしい、というオファーを受けた時は。

A 日本とドイツを代表する美術館のコレクションに、自分の演奏した録音の中から相応しい音楽を考えるということで、とても光栄に思いました。かなり悩んだものもありますが、実に楽しい作業でした。今回の展覧会は「自然」というテーマに基づいて、ストーリー性が実によく考えられた構成です。自分もコンサートのプログラムを作る際、一貫したテーマを考えて選曲をする方なので、そうした点でもワクワクしました。

ピート・モンドリアン 《コンポジションX》1912-1913年 油彩・カンヴァス フォルクヴァング美術館 © Museum Folkwang, Essen

モンドリアンとバッハ、共通する構築力

Q 抽象絵画の偉大な先駆者、ピート・モンドリアンの『コンポジション X』には、こちらも偉大なバッハから名高い「シャコンヌ」を選びました。もともとは無伴奏ヴァイオリン曲ですが、ブラームスがピアノ用に編曲したものですね。絵と音楽、共通する厳格な雰囲気を感じて、とても印象的でしたが、どういう狙いだったのでしょう。

A モンドリアンの作品は小さなモチーフを積み重ねて、ひとつの大きな世界を構築しています。バッハの「シャコンヌ」も同様で、8小節からなる一定の和声進行が何度も繰り返される一種の変奏曲ですが、徐々に積み重なって巨大な世界が形づくられます。相通じるものを感じて比較的、すんなり選べました。

ゴッホの《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》にはラヴェルを合わせた福間さん。「直感的に選びましたが、実際に見てもよかったと思います」とホッとした表情で。

天才には天才を

Q ゴッホには一転してフランス音楽で。ラヴェルの有名な「亡き王女のためのパヴァーヌ」でした。晩年のゴッホが「死」を意識して描いたという作品と、音楽の静謐な美しさがよく合っていました。

A ゴッホはいうまでもなくフランスと深くつながっていますし、フランスの生んだ大作曲家であるラヴェルはゴッホのような天才肌。ラヴェルの「パヴァーヌ」は直接、自然を連想させる楽曲ではないのですが、どこか切なさを感じる雰囲気がゴッホの作品世界に繋がっているように思いました。

Q ナビゲーターを担当した駒田航さん録音の際、「ゴッホとラヴェルの組み合わせがあまりに素晴らしくて泣けた」と話していました。

A 私は今回、駒田さんの語りに感動しました。「こうやって話すと、人に伝わるのか」という驚きでした。

カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ《夕日の前に立つ女性》 1818年頃 フォルクヴァング美術館蔵

楽聖、にも大胆にアプローチ

Q ベートーヴェンも選びましたね。

A 同じくドイツのフリードリヒの作品です。ドイツロマン主義を代表する作家で、ベートーヴェン(1770-1827)とは制作年代(1818年頃)といい、ベートーヴェンが音楽でロマン派への道を開いたという点といい、自然な結びつきなのですが、音楽家にとってベートーヴェンはやはり特別な存在。「BGMに使っていいのか」とちょっと恐れ多い気持ちもありましたが(笑)、やはりよかったです。絵画と音楽が結びついた時の可能性を強く感じました。

フィンランドとの縁、改めてかみしめる

国立西洋美術館の新規収蔵作品で、国内初お目見えのアクセリ・ガッレン=カッレラ《ケイテレ湖》 「ひと目で魅せられました」と福間さん。

Q 今回の展覧会の目玉のひとつであるアクセリ・ガッレン=カッレラの「ケイテレ湖」は、かなり時間を取って見ていましたね。

A 曲は付けなかったのですが、写真で見るより実物は一層、印象的でした。初めてみる作家の作品なのですが、フィンランドの作家と聞いてとても納得。フィンランドに住んだことはないのですが、何かと縁が深い国なのです。19歳で初めて大人の国際コンクールに挑戦したのがヘルシンキで、初めてオーケストラと共演して協奏曲を弾きました。その後も何度もフィンランドには呼ばれてコンサートをしたり、レッスンを受けたりしています。この作品の独特の光の表現はまさにフィンランドの風土から生まれたもの。他の作品も見たくなりました。

絵画と音楽の出会いが生み出す新しい世界

Q これから「自然と人のダイアローグ」展に足を運ぶ人の中には、福間さんのピアノを楽しみにしている方も多いかと思います。「こう聴いたら」というおすすめがあれば教えてください。

A それぞれの自由でよいのですが、まず何も耳に入れずに作品と向かい合って、そのあとに音楽を聴くのがよいかも、と思いました。音楽と合わせることで絵画の違う面が見えてくるように思えます。音楽も絵画と同時に感じることで、それまで持っている楽曲のイメージが変わってくるかも。こうした取り組みに、とても大きな可能性を感じました。ぜひ多くの方に味わってほしいと思います。

国立西洋美術館のショップには福間さんのCDも並んでいます。音声ガイドで気に入ったかた、手にとってみてはいかがでしょう。

福間洸太朗(ふくま・こうたろう):パリ国立高等音楽院、ベルリン芸術大学にて学ぶ。20歳でクリーヴランド国際コンクール優勝。これまでにカーネギーホール、リンカーンセンター、ウィグモアホール、ベルリン・コンツェルトハウス、サントリーホールなどでリサイタルを開催する他、クリーヴランド管、モスクワ・フィル、イスラエル・フィル、フィンランド放送響、ドレスデン・フィル、NHK交響楽団などの著名オーケストラと共演。CDは「バッハ・ピアノ・トランスクリプションズ」(ナクソス)など、これまでに17枚をリリース。テレビ朝日系「徹子の部屋」や「題名のない音楽会」、NHK テレビ「クラシック音楽館」などにも出演。第39回日本ショパン協会賞受賞。

国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで
会期:2022年6月4日(土)~9月11日(日)
会場:国立西洋美術館(東京・上野)
開館時間:午前9時30分~午後5時30分(金・土曜日は午後8時まで)
休館日:月曜日、7月19日(火)(※ただし、7月18日(月・祝)、8月15日(月)は開館)
日時指定制
観覧料:一般2,000円/大学生1,200円/高校生800円
詳しくは展覧会公式サイト(https://nature2022.jp
問い合わせはハローダイヤル(050-5541-8600)へ

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