【レビュー】「芸術の都 パリ」を彩った画家たちを紹介――SOMPO美術館で「スイス プチ・パレ美術館展 印象派からエコール・ド・パリへ」

実業家オスカー・ゲーズ氏(1905-1998)のコレクション公開を目的に、1968年にスイス・ジュネーヴに設立されたプチ・パレ美術館。その所蔵品を紹介する展覧会である。プチ・パレ美術館は1998年以来休館しており、日本でのコレクション展は約30年ぶりという。今回の展覧会では38人の画家による油彩画65点を展示、19世紀後半から20世紀前半にかけて「芸術の都 パリ」が華やかだった時代の作品がコレクションの中心になっているだけに、フランス近代絵画の流れが幅広く理解できる展覧会になっている。

この時代、パリでは多くの画家が実験的な表現方法を探究し、さまざまな美術運動が展開された。「印象派」、「新印象派」、「ナビ派」、「フォーヴィスム」、「キュビスム」、「エコール・ド・パリ」・・・・・・。この展覧会はこの分類に従って全体を6章に分け、それぞれの絵画動向を分かりやすく紹介する。鮮やかな色彩と軽やかなタッチで自然や日常を描いた「印象派」、色彩の点描表現が特徴的な「新印象派」。19世紀後半、因習的なサロン(官展)に不満を抱いて自主的に展覧会を開いた若い画家たちの運動をまとめたのが「第1章」と「第2章」。ルノワールやカイユボット、クロスらの作品が幅広く紹介される。

第3章は「ナビ派とポン=タヴァン派」、第4章は「新印象派からフォーヴィスムまで」。預言者を意味する「ナビ」という言葉を冠されただけあって、「ナビ派」の作品は、どこか象徴的であり、神秘主義的である。下のドニの絵、当時の海水浴場の風景を描いているのだろうが、どこか神話的な自然の人間の戯れを表しているようでもある。大胆なタッチと鮮やかな色彩で「フォーヴ(野獣)」と批評された「フォーヴィスム」の画家たち。ルイ・ヴァルタやヴラマンクらの作品は、作家の感情が画面に叩きつけられたような、今風にいえば「エモい」感じが漂ってくる。


第5章は「フォーヴィスムからキュビスムまで」、第6章は「ポスト印象派とエコール・ド・パリ」。複数の視点から空間を捉え、イメージを組み合わせることで現実を再構築しようとしたのが「キュビスム」。そういった前衛的な運動から距離を置き、特定の芸術運動に属さず活動したのが「エコール・ド・パリ」の画家たち。こうやって系統的に並べられると、それぞれの「流派」にどういう特徴があるのか、それぞれが何を追求したのかが、素人目にも分かった気になってくる。先鋭化した運動の後には、比較的穏やかな表現に揺り戻しが来るのはどこの世界でもありがちなことであり、「エコール・ド・パリ」の絵を見ていると、「当時の人はホッとしたんだろうなあ」と微苦笑してしまう。


改めて実感させられるのは、当時のパリ画壇の多彩さ、豊かさだ。この後、アートの世界は「ローリング・トゥエンティーズ」(フランス的にはレザネフォルかな)の狂騒を経て、第二次世界大戦になると、中心がアメリカ、ニューヨークへと移っていく。そう考えると、ここで切り取られているのは、藤田嗣治もピカソもダリも、世界中の画家たちがパリを目指した時代。なるほど、魅力的な作品がそろっているわけである。
(事業局専門委員 田中聡)

スイス プチ・パレ美術館展 印象派からエコール・ド・パリへ
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会期
2022年7月13日(水)〜10月10日(月) -
会場
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観覧料金
一般1600円、大学生1100円、高校生以下無料。
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休館日
月曜休館、ただし7月18日、9月19日、10月10日は開館
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