【レビュー】「いにしへ そして 現在(いま) 岩波昭彦の世界」千葉・鋸山美術館で、11月6日まで

《摩天楼》部分

日本画の伝統を受け継ぎながら、ニューヨークの摩天楼をテーマにしたり、神話の世界に新たな可能性を求めたり、意欲的な挑戦を続ける岩波昭彦さん(55)の個展「いにしへ そして 現在いま 岩波昭彦の世界」が、千葉県富津市の鋸山美術館で開かれています。

 岩波さんは長野県茅野市の生まれ。多摩美大絵画科日本画専攻を卒業後は、牡丹など優美な花鳥画を描き、文化勲章を受章した松尾敏男(故人)に師事し、院展への出品、入選を重ねてきました。2016年には美術院の特待に推挙されています。

 確かな画力をベースに、「目に見えない、手で触れないものを描くのが日本画の伝統」という師の言葉を胸に、被写体を写生するのにとどまらず、空気感やにおいまで感じさせる深みのある表現を追求してきました。今回の展覧会では、これまで描いてきたなかから「光」をテーマに展示しています。

《摩天楼》2022年 六曲屏風一隻

《摩天楼》は、ロックフェラー・センターの展望台からニューヨークを描いた「都市の肖像」シリーズの最新作です。岩波さんは2001年の9.11同時多発テロ事件の当日、マンハッタンのギャラリーで始まる個展のため現地に滞在していました。大都市を作り上げてきた人類のエネルギーとともに、貿易センタービルが一瞬で崩れ去る瞬間を目の当たりにして、はかなさも感じたと言います。「物語絵巻のように後世に残っていけば、何百年、何千年前はこんな街だったと分かります。形あるものはなくなる。そのはかなさを記録として残していきたい」という壮大な意欲が伝わるシリーズ作です。

《Tokyo》2021年 四曲屏風一隻

Tokyo》ではコロナ禍の東京を描きました。静謐さが感じられます。

《源(水眼)》2021年と、岩波さん

 《源(水眼)》は、生まれ育った諏訪の名水が湧く原生林を訪れ、神聖な空気感や幻想的な風景を表現しました。

《雷神タケミカヅチ》2019年

 神話も大きなテーマです。1994年に諏訪大社上社「天正古地図」の模写に従事してから、神への畏敬の念が高まり、話を知らない人でも見れば理解できるような「誰も描いたことがない神話」を目指しています。タケミカヅチは雷神、剣の神であり、ここでも「光」がテーマとして通底しています。

《国譲り》2019年

《国譲り》では、斬新な抽象画の手法を用いて、神話の世界を描きました。

岩波さんは、これからも様々な挑戦を続けていくでしょう。これまでの歩みを振り返るのに最適な展覧会と言えそうです。(読売新聞美術展ナビ編集班 若水浩)

特別展「いにしへ そして 現在いま 岩波昭彦の世界」
会場:鋸山美術館(千葉県富津市金谷2146-1)
会期:【3期】2022年7月13日(水)~11月6日(日)
休館日:火曜日
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
入場料:一般800円、中高生500円、小学生以下無料
詳しくは美術館公式サイト

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