【レビュー】繊細、ほのぼの、時々豪快――五島美術館で「夏の優品展 動物の饗宴」 7月31日まで

前衛書の先達、宇野雪村の筆による「野獣」である。なるほど、よくみると右側が確かに「野」で左側が「獣」、古代中国の文字・金文を素材にしたという書なのである。獣が咆哮しているようなフォルムでありながら、どことなくかわいらしい線。一緒に並べられている同じ書家の「龍のポーズ」も、他にどんなタイトルが付けられるのだろうかというフォルムで、かわいい。初心者でもなじみやすい、楽しい前衛書なのである。

五島美術館で開催されている「夏の優品展 動物の饗宴」。同館が所有する書画や工芸の中から、動物を題材にした作品を選んで展示するものである。展示は、「陸組」「空組」「海川組」「?組」の4パートで構成。それぞれに見どころのある作品が並んでいる。ちなみに「?組」では、あやかしの類いをテーマにしたものが並んでおり、前述、雪村の「野獣」もここで紹介されている。

橋本雅邦や今尾景年が描いたツル、斉白石のエビなど、絵画では近代の作品が目立ち、それはそれで見応えがあるのだが、個人的に目が惹かれたのは「考古」に属する展示品。水鳥がモチーフになっている埴輪はシンプルだけど愛嬌があるし、細かい細工がなされた馬具の数々を見ていると、約1500年前の工芸技術の高さに感心させられる。水鳥の隣にある景徳鎮窯の水注。緻密な造りで、500年近く前の作品とは思えないぐらい瑞々しい。


サラッと描いているようで、何だか不思議な味がある鎌倉時代の《駿牛図断簡》。室町時代に描かれた僊可の《猿図》。併設されている大東急記念文庫の所蔵品である黄表紙本の数々……。展示品のバリエーションが豊富で、見ていて飽きない。もうすぐ夏休み。親子で楽しめそうな展覧会である。


同時開催の特集展示は「江戸時代の言葉遊び」。大東急記念文庫新収資料のなぞなぞ・茶番・判じ物などが紹介されている。「○○とかけて、××ととく、そのこころは――」でおなじみ「三段謎」などを扱った刊本が展示されているのだが、よく調べてみると、当時の世相、風俗、文化的流行などがしっかりと反映されていそう。何がどんなふうに書かれているのか。個人的には興味がわいた。
(事業局専門委員 田中聡)

夏の優品展 動物の饗宴
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会期
2022年6月25日(土)〜7月31日(日) -
会場
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観覧料金
一般1000円、高・大学生700円、中学生以下無料。
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休館日
月曜休館、ただし7月18日は開館し、翌19日が休館
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アクセス
東急大井町線上野毛駅から徒歩約5分 - カレンダーへ登録
※会期中、一部展示替えあり