【プレビュー】性の“越境”を可能にするもの 「男らしさ」「女らしさ」考える 「装いの力ー異性装の日本史」展 渋谷区立松濤美術館で9月3日から

多様な性のあり方、考える契機に

人間を「男性」「女性」のふたつの性別で区別する考え方は、私たちの中に深く根付いています。一方で、この性の境界を、身にまとう衣服によって越える試みも世の東西で古くから行われてきました。社会的・文化的に性別を区別するための記号である衣服をもって、生物学的に与えられた性とは異なる性になるという営みのことです。もちろん、異性装を実践した人物の性自認や性的指向は非常に多様なもので、それらが異性装とともに必ずしも自動的に変化するものではない、という認識は重要です。

日本でもヤマトタケルが少女の姿に変装し、敵の宴に忍び込むエピソードなど、異性装の人物が登場する物語や、能や歌舞伎など異性装の風俗・趣向を反映した芸能が古くから存在しています。本展では絵画、衣裳、写真、映像、マンガなど様々な作品を通じて、各時代の異性装の様相を見ていき、性の越境を可能とする「装いの力」について考察する内容です。展覧会は時代順に8章からなります。主な展示作品を紹介します。

◇1章 日本のいしにえの異性装

『古事記』のヤマトタケルをはじめ、『とりかへばや物語』、『新蔵人物語』など異性装を要素に持つ物語を紹介。さらには、こうした創作世界における異性装だけではなく、実社会においても役職や立場から異性装を実践していた人々についてもとりあげます。

三代・山川永徳斎 《日本武尊》昭和時代初期(20世紀)個人蔵
《新蔵人物語絵巻》(部分)室町時代(16世紀)サントリー美術館(前後期で場面替えあり)

◇2章 戦う女性ー女武者

戦場で戦うのは男性と考えられてた時代において、日本の神話や歴史には「戦う女性」が登場します。名高い神功皇后や巴御前らを題材にした作品を紹介します。

《朱漆塗色々威腹巻》 江戸時代 彦根市指定文化財 彦根城博物館【前期展示】
法橋関月《巴御前出陣図》江戸時代(18世紀) 東京国立博物館【後期展示】 Image: TNM Image Archives

◇3章 美しい男性ー若衆

江戸時代、元服前のまだ前髪のある少年を指したり、場合によっては男色の対象となった「陰間」と呼ばれる少年や役者を指したりすることもあった「若衆」。中性的な美しさを備えた若衆を描いた作品や、彼らが身に着けたと考えられる振袖などを展示します。

《振袖 白縮緬地梅樹衝立鷹模様》江戸時代(18世紀) 重要文化財 東京国立博物館 【後期展示】Image: TNM Image Archives

◇4章 江戸の異性装ー歌舞伎

出雲阿国が創始したとされる歌舞伎。様々な変遷を経て、成人男性の役者が筋立てのしっかりした芝居劇の中で、女役も演じるという形式を得て、現代へと続く芸能となりました。そうした歩みを振り返ります。

《阿国歌舞伎草紙》(部分)桃山時代(17世紀初期)重要美術品 大和文華館 【前期展示】

◇5章 江戸の異性装 物語の登場人物・祭礼

江戸時代に人気のあった小説などの読み物には、異性装の登場人物が活躍するものが少なくない。『南総里見八犬伝』では八犬士のうち2人が女装の剣士。女性の盗賊の活躍を描いた『青砥稿花紅彩画』(あおとぞうしはなのにしきえ)など人気を博したものも多いのです。その他、本章では山王祭や神田祭などの祭礼での異性装の芸人による出し物についても紹介します。

◇6章 近代における異性装

明治になり、文明開化の名のもと、異性装に対して抑圧的な文化的背景を持つ西洋諸国に合わせて、異性装は一時、刑事罰の対象に。そうした法令がなくなったあとも、人々の間に嫌悪する感情が残される結果となりました。一方でそうした抑圧の中を生き抜いた異性装者は存在したほか、少女歌劇における男役が人気を博するなど、異性装の芸能に対する需要は失われることはありませんでした。

落合芳幾(画)《東京日々新聞 969号 》 明治8(1875)年 3月 東京都江戸東京博物館 【前期展示】
昇斎一景《東京名所三十六戯撰 隅田川白ひげ辺》 明治5(1872)年 東京都江戸東京博物館 【前期展示】

◇7章 現代における異性装

少女歌劇や舞踊などの舞台芸術のほか、漫画や映画など幅広い分野で異性装のキャラクターや表現が登場。人気を集めています。一方で、こうした作品の中には、ある性別でなければ果たせないとされる役割や身分といった「らしさ」の規定への問題提起となるものも多いのです。

濱谷 浩《東京浅草 国際劇場 男装の麗人ターキー リハーサルの夜》1938年 東京都写真美術館

◇8章 現代から未来へと続く異性装

森村泰昌の「女優シリーズ」やダムタイプの《S/N》記録映像などを紹介。異性装と密接に結びつくジェンダーやセクシャリティの関する諸問題について考えていきます。さらに日本におけるドラァグクイーンの黎明期に、グロリアス(古橋悌二)、DJ  Lala(山中透)、シモーヌ深雪らによって始められたダンスパーティー“DIAMONDS ARE FOREVER”メンバーによる、本展のためのスペシャルなインスタレーションも展開。独自の美意識に基づく彼らの表現は、社会的・文化的に定められたジェンダー規範を打破したものです。

森村泰昌《光るセルフポートレイト(女優)/白いマリリン》 1996年 作家蔵(豊田市美術館寄託)
シモーヌ深雪&D.K.ウラヂ《DIAMONDS ARE FOREVER ROYALWIG》 2018年 DIAMONDS ARE FOREVER

近年では「男性/女性」という二項対立ではなく、多様な性のあり方を認め合う動きが広まってきているものの、2つの性別を固定的に捉える考え方には依然として強固なものがあり、軋轢も目立ちます。長い歴史を持つ異性装の系譜をたどることで、そうした問題を考えるベースのひとつになるでしょう。会期中、講演会やトークセッション、メイク講座のワークショップなど様々なリアルイベントも展開されます。

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

装いの力ー異性装の日本史 The power of Clothing: History of Cross-dressing in Japan

  • 会期

    2022年9月3日(土)10月30日(日) ※会期中、一部展示替えあり
  • 会場

  • 観覧料金

    一般1000円(800円)、大学生800円(640円)、高校生・60歳以上500円(400円)、小中学生100円(80円)

    ※リピーター割引:観覧日翌日以降の本展期間中、有料の入館券の半券と引き換えに、通常料金から2割引きで入館できます。

    ※()内は渋谷区民の入館料

    ※土・日曜日・祝休日は小中学生無料

    ※毎週金曜日は渋谷区民無料

    ※障がい者及び付添の方1名は無料

  • 休館日

    月曜日(ただし、9/19及び10/10は開館)、9/20(火)、10/11(火)

  • 開館時間

    10:00〜18:00 (毎週金曜日は午後8時まで) ※入館は閉館の30分前まで
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  • アクセス

    京王井の頭線「神泉」駅下車徒歩5分
    JR・東京メトロ・東急「渋谷」駅下車徒歩15分
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