【レビュー】「鎌倉殿の13人」の時代、浮世絵はどう描いた?――「源平合戦から鎌倉へ ―清盛・義経・頼朝」展 太田記念美術館で7月24日まで

展示風景

「源平の戦い」は「幕末」「戦国」と並ぶ日本史有数の人気コンテンツだ。〈祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり〉の名フレーズで始まる『平家物語』。源氏と平家の栄光と挫折は、昔も今も多くの人々の心を捉えて放さない。折しもこの時代を舞台にした大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が放送中。さらにこの時代への注目度が高まっている。その「人気の時代」を描いた浮世絵、特に武者絵を集めたのが、今回の展覧会なのである。

歌川国芳《牛若鞍馬修行図》

「源平の戦い」が人気を集める理由のひとつは、源氏、平家ともにキャラクターが「立っている」ことにあるだろう。平家の棟梁、平清盛はまさに「ラスボス」にぴったりのカリスマ性と悪の魅力を振りまいているし、その息子、知盛はまさに悲劇の貴公子。「見るべきほどのものは見つ」のセリフは、あまりにも有名である。源氏でいえば、古今人気ナンバー1が、白面の貴公子・源義経。カラス天狗に武芸を教わったという『義経記』の挿話を題材にしたのが、上掲、歌川国芳の《牛若鞍馬修行図》。国芳らしい「泥絵のような」タッチの作品、暗めの画面から凝縮された「フォースの力」が感じられる。

歌川芳員《大物浦難風之図》

話戻って知盛関連で有名なのは、平家滅亡の後の「大物浦」のエピソードだ。兄・頼朝に疎まれ、西国に落ちる義経。摂津国・大物浦から出したその船に、知盛の怨霊が襲いかかる。能や歌舞伎の人気曲『船弁慶』の物語。今回、展示されているのは国芳の一門、歌川芳員の作品だが、例えば、すみだ北斎美術館で開催中の「北斎 百鬼見参」展では葛飾北斎の弟子、北為が描いた《摂州大物浦平家怨霊顕る図》が後期(7月26日~)に展示されるなど、数多くの武者絵の題材になっている。見比べてみるのも一興だろうか。

水野年方《寂光院》
月岡芳年《俊寛僧都於鬼界嶋遇々康頼之赦免羨慕帰都之図》

『平家物語』に登場するのは、勇壮な武将ばかりではない。水野年方の《寂光院》に描かれているのは、平清盛の娘で「壇ノ浦の戦い」で水中に沈んだ安徳天皇の母、建礼門院徳子。平家滅亡を見届け、京都・大原の寂光院で一門の菩提を弔った悲運のファーストレディー、その想いはいかなるものか。月岡芳年門下の年方は、日本画の巨匠・鏑木清方の師匠でもある。そんな豆知識を頭に入れながら鑑賞するのも楽しいだろう。年方の師匠・芳年の俊寛僧都の絵。鬼界ヶ島に流された俊寛は、他の流刑者が赦免されて都に帰還する中、ひとり孤島に残される。その船が島を離れる様子を見ながら嘆く姿を描いたものだ。歌舞伎や能でも有名な場面。運命の冷酷さ、俊寛の悲しみが迫力満点に表現されている。

歌川広重《童戯武者尽 源三位・熊谷》
歌川芳虎《西海蜑女水底ニ入テ平家ノ一族ニ見》

物語が有名であればあるほど、それをパロディー化した作品も登場する。歌川広重の《童戯武者尽 源三位・熊谷》もそんな作品。上下2分割された上の方の絵は、源頼政の鵺退治が題材になっているようで、かわいそうに鵺は、猿回しのサルのように武将らに「回されて」いる。怪物「鵺」は、「サルの顔」「タヌキの胴体」「トラの手足」を持つ、とされているのだが、よく見ると、「回されて」いるヤツはちゃんとその姿をしている。もう一枚、国芳門下の芳虎の《西海蜑女水底ニ入テ平家ノ一族ニ見》は、壇ノ浦で平家一門とともに水の中に沈んだ「三種の神器」を探すために、海女たちが水の中を探索したという設定。平家の面々は海の中で怨霊(?)となり、新たな人生(?)を送っている。「異界」に「転生」している平家の公達。ちょっと現代のファンタジーっぽい感覚ではないだろうか。武者絵と言えばこの人、国芳の作品も有名な《和田合戦 義秀惣門押破》をはじめとして数多く展示してある。

歌川国芳《木曽街道六十九次之内 御嶽 悪七兵衛景清》

月岡芳年、小林清親、楊洲周延、落合芳幾……今回の展示は、幕末から明治にかけての浮世絵師の作品が中心だ。「無惨絵」で有名な芳年は、西洋的な技法を取り入れた即物的な描写が印象的だし、周延の明治初期の作品は「鮮やかな赤」が特徴的である。光と影の「光線画」で有名な清親だが、ここで紹介されているのは、ひと味違った武者絵。幕末・明治の浮世絵が再評価されている昨今、彼らの作品が一覧できるのは貴重だ。「鎌倉殿の13人」ファンの方々のために話を戻すと、「源平の戦い」の後の鎌倉幕府草創期のエピソード、例えば「曾我の仇討」などを扱った作品も豊富に展示されている。浮世絵好きにも歴史好きにも、見どころが多い展覧会なのである。

(事業局専門委員 田中聡)

展示風景

源平合戦から鎌倉へ ―清盛・義経・頼朝

  • 会期

    2022年7月1日(金)7月24日(日) 
  • 会場

  • 観覧料金

    一般800円、高校生・大学生600円、中学生以下無料

  • 休館日

    月曜休館、ただし7月18日は開館し、19日が休館

  • アクセス

    JR山手線原宿駅から徒歩5分、東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅から徒歩3分
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※最新情報は、公式HP(http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/)で確認を。問い合わせはハローダイヤル(050-5541-8600)へ。

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