【レビュー】「ゲルハルト・リヒター展」東京国立近代美術館で10月2日まで 絵画の可能性とものを認識する原理を追求

6月7日から、東京国立近代美術館で「ゲルハルト・リヒター展」が開幕しました。現代アートの巨匠ゲルハルト・リヒターの哲学に触れる、2022年の注目度最大級の展覧会です。
ドイツ・ドレスデン出身の現代アートの巨匠、ゲルハルト・リヒター。彼は様々な手法を用いて絵画の可能性や、人がものを見て認識するという原理自体を表すことを追求してきました。
本展はその60年にわたる画業を、新旧の作品を交えて紐解いていきます。リヒターの個展が日本の美術館で開催されるのは実に16年ぶり、東京の美術館では初めての試みです。

会場は章立てや順路などは決められておらず、開放的な空間となっています。これはリヒター自身が日本側と直接ディスカッションを行い、構成を考えたもの。時系列といったルールもなく、新・旧の作品、具象・抽象が入り混じるかたちで会場が作られています。

本展で展示されているのは、リヒター自身が所蔵しているものと、ゲルハルト・リヒター財団のコレクション、いわば作家本人が手放さず、散逸させないように大切に手元に置いてきた作品が中心です。
リヒターの代名詞ともいえるフォト・ペインティングやアブストラクト・ペインティングから、肖像画やオイル・オン・フォト、そして最新のドローイングまで、その画業を通覧するにふさわしい内容となっています。

今回の大きなみどころのひとつとして挙げられるのが、日本初公開となる大作《ビルケナウ》です。ビルケナウとは、ホロコーストの中でも最大級の犠牲者を出した、アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所のこと。高さ2.6メートル、幅2メートルにもおよぶ巨大な4点の油彩画は、一見すると抽象画のように見えますが、この絵の下には、収容所内で密かに撮影された写真のイメージが描かれています。
鑑賞者は直接そのイメージを目にすることはできません。よって自ずと知識や記憶、想像力を働かせ、絵の具の下に隠れたイメージを思い描くことになります。

このようにリヒターは、「見るとはどういうことか」、「イメージが現れるとはどういうことか」という、認識の根源を一貫して追究してきました。それは絵画のみならず、ガラスや鏡を用いても表現されています。映し出されたものに何を見るか──鑑賞者自身の経験や習慣が作用したものが、リヒターの作品を媒介にして現れるのです。

テーマは一貫しつつも、様々な手法を使って常に新しい挑戦を続け、美術界を牽引してきたゲルハルト・リヒター。彼の作品は、しばしばオークションにおいて極めて高額な落札価格と紐づけて語られることがあります。しかしその額はいたずらに吊り上げられたわけではなく、彼が現存作家でありながら、美術史上重要な人物であるという裏付けがあるからに他なりません。

さて、東京国立近代美術館では1969年の「現代世界美術展 西と東の対話」展でリヒターの作品が紹介されました。そこから約半世紀を経て、今年画業60年を迎えるリヒターと、開館70周年を迎える東京国立近代美術館、それぞれにとっての節目の年にこうした大規模な個展が開催されるというのは、なにか運命的なものを感じます。

今年の2月に90歳を迎えたリヒター。絵画はもう描かないと宣言しましたが、それでも精力的にドローイングは描き続けています。本展は「見て認識すること」を探ると同時に、「絵画の可能性」についても探究を続けてきた作家の軌跡に迫る、大変貴重な機会です。東京展のあと、豊田市美術館へと巡回します。ぜひお見逃しなく。
(ライター・虹)
ゲルハルト・リヒター展 |
---|
会場:東京国立近代美術館 |
会期:2022年6月7日(火)~2022年10月2日(日) |
休館日:月曜日[ただし9月19日(月・祝)、26日(月)は開館]、9月27日(火) (当初休館とされていた9月20日(火)は開館し、開館とされていた27日(火)が休館) |
開館時間:10:00-17:00(金・土曜は10:00-20:00) ※ただし、9月25日(日)~10月1日(土)(27日をのぞく)は10:00-20:00 ※入館は閉館30分前まで |
アクセス:東京メトロ東西線「竹橋駅」1b 出口 徒歩3分 |
観覧料:一般 2,200円/大学生 1,200円/高校生 700円 |
詳しくはhttps://richter.exhibit.jp/へ。 |
音声ガイドは鈴木京香さん
開幕記事
グッズの紹介