洗練を極めた美、新時代を創造した唯一無二のスタイル 「ガブリエル・シャネル展 Manifeste de mode」 三菱一号館美術館

シャネルの創業者、ガブリエル・シャネル(1883-1971)の業績を振り返る大規模な展覧会です。ガリエラ宮パリ市立モード美術館で2020年に開催された「Gabrielle Chanel. Manifeste de mode展」の国際巡回展。ガブリエル・シャネルの仕事に焦点を当てた回顧展としては、日本では32年ぶりの開催になります。洗練された美しさ、そして現代社会に与えた影響の大きさに圧倒される展示品の数々です。会場は、日本を代表するオフィスワーカーの街である「丸の内」にある三菱一号館美術館。その落ち着いた舞台も、新時代の女性たちに社会進出を促したシャネルのシンプルで実用的なデザインに相応しいといえましょう。展示の順番に主な作品を紹介していきます。

<スタイルの誕生>

帽子のデザインから出発し、すぐに服へと仕事を広げた1910年代以降、30年代までの初期の作品を紹介します。キャリア前半から「シャネルらしさ」が満ち溢れています。クリエイターとして迷いのない、意志の強さが見てとれます。

ドレスとジャケットのアンサンブル 1922-1928年 絹ジャージー パリ、パトリモアンヌ・シャネル

<現代性とシック>

1920年代から30年代にかけて、ツーピースのスーツや単色のドレスが登場。過剰な飾り気がなく、柔らかでシンプルな造形は「リトル・ブラック・ドレス」など、シャネルの「マニフェスト」の重要な要素として定着していきます。

デイ・アンサンブル 1927年頃 カシミヤウールのクレープ、絹ジャージー 神戸ファッション美術館蔵
イヴニング・ドレス 1920年代後半 シャンティイレース、サテンのリボン、クレープ・デシン 島根県立石見美術館

N°5:現代女性の目に見えないアクセサリー>

誰もが知る香水。マリリン・モンローは「マリリン、寝るときは何を着ていきますか?」と尋ねられ、「シャネルN°5だけ、と答えたの」と語ったことは、今は一つの伝説になっています。謎めいた調合だけでなく、シンプルで直線的なボトル、情緒を排した抽象的なネーミングと、シャネルの哲学そのもののフレグランス。持ち運びに便利なパッケージなども開発され、どんな場所でも女性が化粧直しをできるように工夫しました。実用性を重んじるシャネルのモノづくりの姿勢がよく表れています。

香水「シャネルN°5」1921年 ガラス、木綿糸、封蝋、紙 パリ、パトリモアンヌ・シャネル

<抑制されたラグジュアリーの表現>

展示前半のクライマックスといってよいコーナー。シャネルのドレスをぞんぶんに堪能できます。その洗練の極み、まさにアートです。

媚びたところのないデザインは、古さを全く感じさせません。遠目にはとてもシンプルに見えますが、細部に至るまで繊細な縫製が施されており、正確な仕事がシャネルの「美」を支えていたことが分かります。展覧会で実物をじっくり見る醍醐味が味わえます。

鮮やかな赤も好んで使いました。

イブニング・ドレス 1932年 綿ヴェルヴェット パリ、パトリモアンヌ・シャネル

日本や東欧のモチーフ、歴史的な要素なども自由に取り入れたシャネル。そうしたテイストの作品も目を引きます。まずは日本の織物を手本にしたと思われるコート。

コート 1927年頃 紋織の絹クレープ、ラメ、ぼかし染め加工 公益財団法人 京都服飾文化財団

ディアギレフ、ストラヴィンスキーらロシアのアーティストや、ニコライ2世に連なる旧ロマノフ朝の公女とも縁が深かったシャネル。ロシアのモチーフを取り入れた作品も。

コート 1922-23年秋冬 絹クレープ、チェーンステッチ刺繍、金糸、毛皮 パリ・パトリモアンヌ・シャネル

こうした外来のモチーフを用いても、シャネルの世界観から外れた印象は与えません。自己のものとして消化し尽くした上で表現するその手腕、審美眼に敬服します。

<スーツ、あるいは自由の形>

ドレスと並ぶシャネルの象徴であるスーツ。こちらも歴史的な作品が並び、さらに熱中する方続出かもしれません。第二次大戦中から戦後にかけて活動を休止していました。15年の空白ののち、1954年、71歳にして新しいコレクションを発表しました。現代的な女性像を象徴する作品が次々に生み出されました。

テーラードのジャケットとスカート 1963-64年秋冬 斑織りのツイードとブレード、メタル、絹ポンジー パリ、パトリモアンヌ・シャネル
テーラードのジャケット、スカート、ブラウスとベルト 1965年春夏 ウールツイードと絹シェニール、手彩色のガラリット、絹ガーゼ パリ・ガリエラ宮

<シャネルの規範>

シャネルにとって服飾品も欠かせぬ要素でした。「2.55」バッグはひと目見て誰もがシャネル、と分かる代表的な作品に。これも使いやすさを追求した実用性の高いものでした。

<ジュエリーセット礼賛>

飾り気のない服との対比で、宝石は華々しく、過剰なテイストのものが目立ちます。こうしたバランスのとり方にもシャネルの鋭い感性が発揮されました。

シャネルのクリエイション、グリポワ製作 ブローチ 1937年 メタル、パート・ド・ヴェール  パリ、パトリモアンヌ・シャネル

こちらのコーナーには、あのジュリエット・グレコが持っていたというドレスも展示されており、ステージで着用したものもあります。

ドレス、ジャケットのアンサンブル(ジュリエット・グレコ旧蔵) 1965年春夏 亜麻布、シークイン刺繍、絹サテン、光沢のあるパール、メタル パリ、ガリエラ宮 ロッシーニ夫人より寄贈

<蘇った気品>

終幕はふたたびドレスです。戦後はスーツがコレクションの中心となったものの、気品あふれるドレスも引き続き発表されました。これまでの美学を貫いたうえでモダンに発展。完成度の高さに圧倒されます。ロミー・シュナイダーらスターの旧蔵品もあり、彼女たちのイメージと二重映しにしながら楽しむこともできます。

ドレス(ロミー・シュナイダー旧蔵)1966年春夏 シークイン刺繍、シークインのレース、絹ポンジー パリ、パトリモアンヌ・シャネル

「シャネル」と聞くだけで、彼女の伝説に圧倒される方もいらっしゃると思いますが、ドレスといい、スーツといい、第一級のアート作品としての魅力と驚きに満ちています。最初期から晩年までの作品をこのスケールで見られるのは貴重な機会。ファッションや美術の世界はもちろん、現代の社会を考える上で外すことのできない比類なきデザイナーでクリエイター。その業績はぜひ体感しておきたいものです。

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志、写真・増田教三)

ガブリエル・シャネル展 Manifeste de mode
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
会期:2022年6月18日(土)~2022年9月25日(日)
休館日:月曜日(※但し、祝日の場合、8月15日、トークフリーデーの6月27日、7月25日、8月29日は開館)
開館時間:10時~18時(祝日を除く金曜日と会期最終週の平日、第2水曜日は21時まで)※入場は閉館の30分前まで
アクセス:JR東京駅丸の内南口から徒歩5分、JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩6分、丸ノ内線東京駅=地下道直結=から徒歩6分など
入館料:一般2,300円、高校・大学生1,200円、小、中学生無料
お得なチケット:マジックアワーチケット(毎月第2水曜日17時以降に限り適用):1,600円 ※マジックアワーチケットは、実施月の1日に「Webket」内で発売開始
詳しくは同館のホームページ

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