【レビュー】「光陰礼讃―モネからはじまる住友洋画コレクション」泉屋博古館東京で7月31日まで 光と陰の交錯を堪能する

泉屋博古館東京リニューアルオープン記念展Ⅱ光陰礼讃 ―モネからはじまる住友洋画コレクション
会場:泉屋博古館東京(東京都港区六本木1丁目5番地1号)
会期:2022年5月21日(土)~ 7月31日(日)
開館時間:午前11時 ~ 午後6時(入館は午後5時30分まで)
※金曜日は午後7時まで開館(入館は午後6時30分まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日休館)
入館料:一般1,000円/高大生600円/中学生以下無料
アクセス:東京メトロ南北線「六本木一丁目」駅下車 泉ガーデン1F出口より屋外エスカレーターで徒歩3分
詳しくは泉屋博古館東京のホームページ
問い合わせはハローダイヤル050-5541-8600

泉屋博古館東京のリニューアルオープン記念展の第2弾「光陰礼讃―モネからはじまる住友洋画コレクション」が7月31日(日)まで開催されています。
同館および泉屋博古館(京都・鹿ヶ谷)が所蔵する住友コレクションは、中国青銅器や陶磁器、茶道具や香道具など多岐にわたります。そのコレクションの一角を占めるのが近代洋画です。本展では、第15代当主の住友吉左衞門友純きちざえもんともいと(号・春翠しゅんすい:1865〜1926年)やその子息によって収集された住友洋画コレクションを紹介します。

住友洋画コレクションには、大きな特徴があります。それは、同時代に活動した印象派と古典派の作品が揃っていること。展覧会名である「光陰礼讃」の「光」は光の表現にこだわった印象派を、「陰」は陰影表現を駆使した古典派を示しているのです。

本展では、光と影が交錯する住友洋画コレクションを近代絵画史の流れに沿って5章構成で展示。展示室を進むごとに、住友家に集った作品が歳月を経て今に伝えられてきたことを実感することができるでしょう。

光 vs 影 19世紀フランス絵画コレクション

住友洋画コレクションの始まりは、1897年、欧米視察中の春翠がパリでモネの風景画を2点購入したことに遡ります。その2点とは、第1章「光と陰の時代―印象派と古典派」の序盤で紹介されている《サン=シメオン農場の道》《モンソー公園》です。

クロ-ド・モネ《サン=シメオン農場の道》1864年 泉屋博古館東京蔵

《サン=シメオン農場の道》は、モネの最初期の作品。印象派第1回展(1874年)が開催される前、まだ「印象派」という名が存在しなかった頃に描かれました。控えめな光に、ノスタルジーを掻き立てられます。ちなみに、道の先にほんのりと現れる屋根は、青年時代のモネが友人や師と共に活動の拠点とした母屋とも言われているそうです。

クロ-ド・モネ《モンソ-公園》1876年 泉屋博古館東京蔵

隣に並ぶ《モンソー公園》は、印象派第1回展の直後に描かれた作品です。明るい色を用いた「筆触分割」など印象派おなじみの表現が見られます。《サン=シメオン農場の道》と見比べると、作品全体からあふれる光の量、力強さが増しているようでした。

春翠がこの2点を購入した1897年は、モネが睡蓮などの連作を描いていた時期にあたります。このタイミングにパリでモネの作品を購入するとしたら、選択肢は少なくないはずですが、なぜ春翠はこの2点を選んだのでしょうか。興味深いものです。

ジャン=ポ-ル・ロ-ランス《マルソー将軍の遺体の前のオーストリアの参謀たち》1877年 泉屋博古館東京蔵

モネの作品に”対抗”するように並ぶのが、ジャン=ポ-ル・ロ-ランスの作品。代表作のひとつ《マルソー将軍の遺体の前のオーストリアの参謀たち》には、フランスの英雄・マルソー将軍の死が描かれています。横たわる将軍の肌色、弔意を捧げる敵将の表情が生々しいほどリアルに描きこまれています。

ローランスの代表作が住友コレクションに加えられたのは、洋画家の鹿子木かのこぎ孟郎たけしろう(1874~1941年)の尽力があったからです。
春翠は鹿子木に対して、パリ留学の資金を援助する代わりに西洋絵画の収集を依頼しました。そこには、住友家の須磨別邸(兵庫県神戸市)の内部に飾る西洋画を充実させたいという意図があったといいます。パリでロ-ランスに師事した鹿子木は、《マルソー将軍の遺体の前のオーストリアの参謀たち》《年代記》などを春翠の元に送り届けました。

陰影表現を駆使した日本の洋画家

では、鹿子木はどんな作品を描いたのでしょうか。第2章「関西美術院と太平洋画会の画家たち」では、鹿子木の作品や、鹿子木の協力で収集された作品を中心に、明治後期の洋画界で活躍した画家たちの作品を紹介します。

鹿子木孟郎《加茂の競馬》1913(大正2)年 株式会社三井住友銀行蔵(泉屋博古館東京寄託)

ローランスのもとで写実表現を習得した鹿子木は、帰国後は関西の洋画界で中心的な存在になります。鹿子木の作品の中で印象的だったのが、《加茂の競馬》。京都の上賀茂神社で5月に行われる行事が描かれています。地面にくっきり映る影と白光りする装束のコントラストは、京都の日差しの強さを物語っているよう。臨場感、緊迫感が伝わってきます。

また鹿子木は、展覧会出品作の中から春翠好みの作品を仲介したり、春翠と関わりが深かった浅井忠の遺作を届けたりと、住友洋画コレクションの収集において重要な役割を担いました。

鹿子木が日本に持ち込んだ「フランス古典派絵画の写実表現」は、明治後期の洋画界においてひとつの潮流を築きます。その例が太平洋画会などの美術団体。太平洋画会の会員だった画家たちは、陰影表現を巧みに扱い、個性的な作品を描きました。

特に惹きつけられたのが、吉田ふじをの《神の森》です。繊細な陰影で表されるあたたかな木漏れ日は、神秘的。ドラマチックな演出、緊迫感の強調だけではない、陰影表現の奥深さを実感しました。

そのほか、竹久夢二と人気を分けたと言われる渡辺與平や、初公開の仙波均平など、第2章の見どころはまだまだ続きます。

渡辺與平《ネルのきもの》1910(明治43)年 泉屋博古館東京蔵

光の表現を追究した「外光派」

展示風景

明治期の美術界では、鹿子木たちによる陰影表現のほかにもうひとつ、潮流が生まれました。その潮流とは、印象派の影響を受けた黒田清輝くろだせいき(1866~1924年)がもたらした「外光表現」です。

山下新太郎《読書の後》1908(明治41)年 泉屋博古館東京蔵。ルノワールに傾倒した山下は、この作品を描いた後にルノワールに会いに行っている

光の表現を追究した外光派の画家たちは、陰影表現を重視する鹿子木たちとは対照的な存在。ところが春翠は、鹿子木たちを支援すると同時に、岡田三郎助や山下新太郎など、外光派の作品も収集しました。モネとローランスの作品をともに収集したように、日本の洋画においても光陰のコレクションを築いたのです。

岸田劉生やピカソ 息子世代が収集したコレクションも

春翠が選び抜いた作品は、神戸の須磨別邸に飾られました。充実したコレクションで彩られた須磨別邸は、まるで邸宅美術館のようだったと言われています。その別邸で育った春翠の息子たちが、芸術に関心を深めていったことは想像に難くありません。春翠の収集活動は、息子の代へと受け継がれていくのです。

左:岸田劉生《自画像》1921(大正10)年、右: 岸田劉生《麗子六歳之像》1919(大正8)年  ともに泉屋博古館東京蔵

春翠の長男・寛一は大正中期頃から芸術に関心を持ち、とりわけ岸田劉生きしだりゅうせい(1891~1929年)と親交を深めました。第4章「岸田劉生とその周辺」では、劉生や劉生と共に活動した画家に焦点を当てます。寛一が劉生のもとを訪れ、いくつか見せられた麗子像の中から選んだ《二人麗子図(童女飾髪図)》などが並びます。

岸田劉生《二人麗子図(童女飾髪図)》1922(大正11)年 泉屋博古館東京蔵

一方で春翠の次男・友成は、1930年代から1940年代前半にかけて本格的に洋画を収集しました。このころ日本では、ピカソやシャガールなどに影響を受けた画家たちが活躍しました。第5章「20世紀のパリと日本」では友成が愛蔵した作品を紹介。ピカソやシャガールなどの20世紀フランスの画家たちと、彼らから影響を受けた日本の洋画家たちの作品が一堂に介します。

コレクションが彩った邸宅

須磨別邸の再現模型

特集展示「住友建築と洋画―洋館には洋画がよく似合う」も見逃せません。コレクションが飾られた須磨別邸は、残念ながら1945年6月の空襲で約60点の作品とともに全焼してしまいました。
ここでは、1903年に建築された須磨別邸の再現模型や、どの部屋にどの作品が飾られたかを示す資料が展示されています。資料からは、海が見える部屋には海をテーマとした作品を飾るなど、部屋の用途や雰囲気と作品の主題を合致させていたことがわかります。

どの作品がどこに飾られていたかが分かる解説パネル

「邸宅美術館」さながらの須磨別邸は、関西の迎賓館としての役割を担うだけではなく、若き画家たちの学びの場にもなりました。春翠は、西洋絵画に接する機会に恵まれない洋画家たちが須磨別邸を訪れることを受け入れ、コレクションを開放したそうです。

春翠の収集活動の根底には、「住友家として日本の美術界を支える」という使命感があったのでしょう。その使命感が、コレクションに奥行きをもたらしたのかもしれません。
本展では、著名な画家だけではなく、あまり存在を知られてこなかった画家の作品も集います。個性あふれる住友洋画コレクションだからこそ出会える作品もあるはず。ぜひお見逃しなく。(ライター・三間有紗)

本展のチケットをプレゼント(締め切り6月30日)

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