【開幕】書なのか絵なのか、アブストラクトな美しさーー智美術館で「篠田桃紅 夢の浮橋」展

展示風景

篠田桃紅 夢の浮橋
会場:菊池寛実記念 智美術館(東京都港区虎ノ門4-1-35 西久保ビル)
会期:2022年6月18日(土)~8月28日(日)
休館日:月曜休館、ただし7月18日は開館し、翌19日が休館
アクセス:東京メトロ日比谷線神谷町駅出口4bから徒歩6分、虎ノ門ヒルズ駅出口A1、A2から徒歩8分、南北線六本木一丁目駅から徒歩8分、南北線/銀座線溜池山王駅出口13から徒歩8分、銀座線虎ノ門駅出口3から徒歩10分
観覧料:一般1100円、大学生800円、小・中・高生500円
※前期(~7月24日)、後期(7月26日~)で一部展示替えあり
※最新・詳細情報は公式サイト(https://www.musee-tomo.or.jp/)で確認を。

大都会・東京の真ん中。港区虎ノ門にある智美術館はおしゃれな美術館である。六本木の喧噪から少しだけ離れた上品な佇まい。向かいはホテルオークラという敷地内には大正時代に建てられた西洋館や蔵が、日本庭園を囲むように建ち並んでいる。展示室内のレイアウトは、米国人デザイナー、リチャード・モリナロリに委嘱したという。静かで落ち着いた美術館なのである。

篠田桃紅《山上焚火》 2004 年 墨、朱、紙

年に数回、現代の陶芸家の個展を中心に展覧会を開催しているというこの美術館で、6月18日に始まったのが、「篠田桃紅 夢の浮橋」展だ。「書」と「絵画」の狭間にいる「墨の芸術家」の軌跡を紹介する展覧会。ちょっと前に、東京・初台の東京オペラシティアートギャラリーで篠田の展覧会が開かれていたのだが、智美術館は先ほど書いたように、独特の雰囲気を持つ空間である。その雰囲気と相まって、また違った味わいの展覧会になっている。

篠田桃紅《夜明け》 1967 年 墨、和紙に金箔 (撮影:尾見重治、大塚敏幸)

篠田桃紅(1913~2021)は、中国・大連で生まれ、東京で育った。ほぼ独学で書を学び、20代で書家としての活動を始めた。30代から40代にかけ、書の制約から離れ、より自由な創作を模索。「墨」を使った抽象表現で、国際的にも評価されるようになった。この展覧会では、そういう篠田の水墨肉筆の作品を中心に、リトグラフ、エッチングなどの版画作品、さらに着物にいたるまで、約50点が展示されている。

篠田桃紅《Harvest》 2010 年 朱、墨、和紙に銀箔

形が意味を生み、意味が形を司る。篠田の作品を見ていると、そんな言葉が頭に浮かぶ。篠田の作品は同じ前衛書でも、例えば「動的なエネルギー」を重視した宇野雪村らとはまったくタッチが違う。墨で描いていく太い、あるいは細い線、そこに付けられる色、濃淡。それらがひとつの形を作っていくことでひとつの世界を生み出している。それらの「形」が「画面」の中で緊張感を持って結びつくことによって、観覧者の深層心理の奥にある「何か」が呼び起こされていく。書が内包する抽象性を生かしながら、文字とは違う世界を表していく感性は、この人独特のものともいえるだろう。

展示風景

この美術館を創設した菊池智(1923~2016)は篠田と個人的にも深い交流があり、その付き合いは半世紀以上にわたったという。篠田が菊池のために製作した《染め分け着物 想・遊・語》などを見ていると、そういう近しい感じが伝わってくる。だからなのだろうか、上品で静謐な展示室の雰囲気が、篠田の作品と調和する。鬼面人を驚かすような仕掛けはないが、ひとつひとつの作品に鋭い感性が内包されている。そういう篠田の作品の魅力が、十分に味わえる空間になっていると思う。

(事業局専門委員 田中聡)

篠田桃紅《夢の浮橋》 1990 年 リトグラフ、手彩

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