【レビュー】明治から大正、昭和へ。進化する「図案」が生き生きと――「津田青楓 図案と、時代と、」 渋谷区立松濤美術館

展示風景

津田青楓 図案と、時代と、
会場:渋谷区立松濤美術館(東京都渋谷区松濤2-14-14)
会期:2022年6月18日(土)~8月14日(日)
休館日:月曜休館、ただし7月18日は開館し、翌19日が休館。8月12日も休館
アクセス:京王井の頭線神泉駅から徒歩約5分、JR・東急電鉄・東京メトロ渋谷駅から徒歩約15分
観覧料:一般800円、大学生640円、高校生・60歳以上400円、小中学生100円
※土、日、祝日と夏休み期間は小中学生無料。障害者と付き添いの方1名は無料
※土、日、祝日と8月9日以降の最終週はオンラインによる日時指定予約制
※前期(~7月18日)、後期(7月20日~)で一部展示替えあり
※最新・詳細情報は公式HP(https://shoto-museum.jp/)で確認を

1880(明治13)年、京都で生まれた津田青楓は、日本画、洋画、工芸、書など、幅広いジャンルで活躍した芸術家である。「二科会」の創立に参加し、夏目漱石に絵を教え、良寛和尚に傾倒したことで知られるが、創作活動のスタートは「図案」だった。その青楓の「図案」に焦点を当てたのが、この展覧会である。

津田青楓『うづら衣』(山田芸艸堂)より、明治36(1903)年、スコット・ジョンソン氏蔵 ©Rieko Takahashi

「図案」とは何か。辞書的に言えばそれは、〈美術品や工芸品や一般工作物の製作に際し、あらかじめ意匠や考案を図に表したもの〉(小学館「デジタル大辞泉」)である。この展覧会では、その中でも着物やタペストリーなどの装飾、漆器などの工芸品のデザイン、書籍の装丁などを主に扱っている。西洋美術の考え方から言えば、それは「応用美術」の世界に属するものであり、絵画や彫刻などの「純粋美術」とは一線を画したものとして扱われるのである。《明治時代、ヨーロッパの美術やデザインが日本でも広く知られるようになると、それまでの伝統的な図案から脱却し、独自の創意を持って考案しようという機運が高まりました》。今回の展覧会の図録の「ごあいさつ」では、こんなふうに書かれている。その典型例が青楓の「図案」であり、その青楓を中心にして「明治の図案」を再考しようというのが、この展覧会の狙いなのだろう。

津田青楓(装幀)、夏目漱石『明暗』(岩波書店)大正6(1917)年(6版、初版同年)、山田俊幸氏蔵
下村玉廣『しき錦』(本田雲錦堂)より、明治36(1903)年、鬼灯書房蔵

青楓が最初の「図案集」を発表したのは、1896年。神坂雪佳らの「図案集」が人気を呼んでいたその当時、「図案」は工芸品や服飾品に使われるだけでなく、その「デザイン画」そのものも人気があったのだという。折しも西洋は「アール・ヌーヴォー」の時代であり、「応用美術」にも改めて光が当たっていたころだった。パリに留学した青楓は、洋画の技術を学ぶ一方で、様々な新しい図案の感覚も吸収したのだろう。生活を彩る「小芸術」にもっと光を当てるべき、という機運が高まった時代、この展覧会では、そういう明治・大正期の「図案」が数多く紹介されている。琳派を意識しながらも、新しい感覚を取り入れようとしているそれらの作品は、今見てもどれも新鮮で見応えがある。

古谷紅麟『はな筏』(合名会社芸艸堂)より、明治39(1906)年、芸艸堂蔵

まあ、考えてみれば、明治時代以前、西洋美術の思想が入ってくる前の日本の美術は、「工芸」と「美術」の違いなどなかった。明治6年のウィーン万国博覧会に際して「美術」という言葉が作られて、このふたつが明確に分けられるようになった、と一昨年、東京国立博物館の表慶館で行われた「工芸2020」の図録には書かれている。確かに葛飾北斎などの画本を見ていると、「図案」も数多く含まれている。「純粋美術」と「応用美術」が明確に分けられ、前者の方が後者よりも「優位にある」と考えられるようになったのは、明治も中期以降だったという。

津田青楓『青もみぢ』1巻(本田雲錦堂)より、明治32(1899)年、山田俊幸氏蔵 ©Rieko Takahashi
浅井忠(図案)・杉林古香(制作)《鶏合蒔絵硯箱》明治36(1906)年、佐倉市立美術館蔵

こういう流れと、今回の展覧会で紹介されている動きを併せて考えると、とても面白い。西洋美術を「輸入」し、グローバルスタンダードに日本美術を「合流」させようとした時代。でも実はは日本人の心の奥には、「工芸」や「図案」を「下にはみない」伝統的な感覚も残っており、同じ時代にそれを重視しようという動きもあったということができるからだ。「工芸」を「純粋芸術」よりも「下には見ない」その感覚は、アニメのフィギュアが人気を集める21世紀の現代でも、日本人の中には確実に残っているように思える。日本ならではの「工芸」と「美術」の関係。西洋的美術論の輸入と伝統的な美意識のせめぎ合い。21世紀の今、こういう展覧会をきっかけに、それを改めて検証することが、今後の日本美術にとっても有意義なのではないだろうか。そんなことも思うのである。

(事業局専門委員 田中聡)

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