【11日(日)まで】「自然と人のダイアローグ」展 国立西洋美術館で 日独のコレクションが紡ぐ悠久な対話

およそ1年半の休館を経て、2022年4月9日にリニューアルオープンした国立西洋美術館。それを記念し、現在「自然と人のダイアローグ」展が開催されています。

リニューアルオープンした国立西洋美術館。前庭の目地や西門の位置など、創建当時(1959年)の姿に近づいた

本展はドイツ・エッセンのフォルクヴァング美術館との共同企画であり、自然との対話(ダイアローグ)から生まれた、近代の芸術の展開をたどるという内容です。
なぜフォルクヴァング美術館との共同企画なのでしょうか。実は両館の間には、いくつかの共通点があるのです。

日本とドイツ、2人の人物が生んだ稀有なコレクション

2022年にリニューアルオープンした国立西洋美術館と、開館100年を迎えるフォルクヴァング美術館。それぞれの美術館の屋台骨となっているのは、松方幸次郎(1866-1950)とカール・エルンスト・オストハウス(1874-1921)という、2人の人物によるコレクションです。
これらは奇しくも、概ね同時期に形成されたコレクションであり、その内容も似ています。

左: 株式会社川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)初代社長 松方幸次郎 写真提供:川崎重工業株式会社 右: カール・エルンスト・オストハウス (1921年以前の撮影)Albert Renger-Patzsch © Museum Folkwang, Essen

また、国立西洋美術館の本館の設計を担ったル・コルビュジエは、オストハウスと交流があり、オストハウスが行った事業や、関わった建築に強い関心を寄せ、影響を受けていました。そのひとつが、後に彼の提唱する「モデュロール(人間の身長を183cmとして、人体の黄金比に基づいた建物の基準寸法)」です。モデュロールは、国立西洋美術館の設計の基本となっています。

加えて松方、オストハウスの両者とも、ポスト印象主義など当時としては冒険的なジャンルの作品を積極的に収集した、それぞれの国で最初のコレクターであることが挙げられます。

会場風景 左: クロード・モネ 《舟遊び》1887年 油彩・カンヴァス 国立西洋美術館 松方コレクション 右: ゲルハルト・リヒター 《雲》1970年 油彩・カンヴァス フォルクヴァング美術館 © Gerhard Richter 2022 (13012022) © Museum Folkwang, Essen

オストハウスの没後、一度は散逸が懸念された彼のコレクションは守られましたが、残念ながら松方のコレクションは散逸や消失、接収などといった運命に翻弄されてしまいます。しかしこうして時を経て、ひとつの展覧会でそれぞれのコレクションが対面を果たしたということは、記念すべき幸せな出来事と言えるのではないでしょうか。

2館の収蔵品を対話させ、さらに自然と人の対話にも着目

会場風景 手前:ポール・セザンヌ 《ベルヴュの館と鳩小屋》1890-1892年頃 油彩・カンヴァス フォルクヴァング美術館 © Museum Folkwang, Essen、右奥:ポール・シニャック《サン=トロペの港》1901-1902年 油彩・カンヴァス 国立西洋美術館

日独を代表する二つの美術館による共同企画の展覧会は、まず2022年2月から5月にかけて、フォルクヴァング美術館で行われました。ドイツ展のテーマは、フォルクヴァング美術館と国立西洋美術館の「2館の収蔵品を対話させる」というもの。そして第2弾となる東京展は、2館の収蔵品を対話させつつ、さらに人と自然の対話から生まれた芸術を紐解くというテーマで展開されます。

ロマン主義から20世紀絵画、そして写真も含めて構成される本展は、全4章で編まれています。活動を戸外へ移した画家たちが、絵画の中に時の移ろいを描き込むことを目指した第1章「空を流れる時間」から始まり、心象や観念に結びつく、もうひとつの自然表現へと迫る第2章「〈彼方〉への旅」。
第3章では「光の建築」と称して、自然に匹敵する絵画空間の構成を目指したセザンヌやホドラー、ミロ、カンディンスキーたちの表現を追い、第4章「天と地のあいだ、循環する時間」にて、自然の循環の中にある人々の営みに目を向けます。

会場風景 エドゥアール・マネ《ブラン氏の肖像》1879年 油彩・カンヴァス 国立西洋美術館 松方幸次郎氏御遺族より寄贈 旧松方コレクション、右: ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 《ナポリの浜の思い出》1870-1872年 油彩・カンヴァス 国立西洋美術館

展覧会を通して見ると、「自然」と一言で言っても、描かれてきたイメージは様々であることに気づくでしょう。これこそが対話の証。画家が自然とどう向き合うかによって、現象、癒しの存在、あるいは霊感の源泉と、描かれる姿は大きく変わります。

誰もが知る巨匠から初めて出会う作家の作品まで

会場風景 手前:フィンセント・ファン・ゴッホ 《刈り入れ(刈り入れをする人のいる サン=ポール病院裏の麦畑)》 1889年 油彩・カンヴァス フォルクヴァング美術館 © Museum Folkwang, Essen、左奥:カミーユ・ピサロ《収穫》1882年 テンペラ・カンヴァス 国立西洋美術館 旧松方コレクション

今回ポスタービジュアルは2種用意されており、その1つを飾るのがフィンセント・ファン・ゴッホの《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》です。ゴッホが麦の育成から収穫を人生に例えていた話はよく知られていますが、刈り入れを死に準えつつも「そこに悲哀はない」と言っている通り、本作は目に眩しく明るい色彩で仕上げられています。

カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ 《夕日の前に立つ女性》 1818年頃 油彩・カンヴァス フォルクヴァング美術館 © Museum Folkwang, Essen

そしてもう1つの作品がこちら、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの《夕日の前に立つ女性》。本展ではモネ、マネ、セザンヌ、ゴッホ、ゴーガン、エルンストといった巨匠に加え、あまり馴染みのない画家の作品がバランス良く盛り込まれています。

とりわけ第2章では、空の淡いグラデーションが印象的なカール・フリードリヒ・シンケル、ヨハン・クリスティアン・クラウゼン・ダールの作品が並びます。

会場風景 左: ヨハン・クリスティアン・クラウゼン・ダール 《ピルニッツ城の眺め》 1823年 油彩・カンヴァス 右:カール・フリードリヒ・シンケル 《ピヘルスヴェルダー近郊の風景》 1814年 油彩・カンヴァス ともにフォルクヴァング美術館 © Museum Folkwang, Essen

また、国立西洋美術館の新規収蔵品である、北欧作家ガッレン=カッレラによる作品が本邦初公開となるのも見どころです。

アクセリ・ガッレン=カッレラ 《ケイテレ湖》 1906年 油彩・カンヴァス 国立西洋美術館

国立西洋美術館らしい正統派の安定感を備えつつ、日本ではなかなか目にすることのできない作家との出会いがあるのも、本展の醍醐味のひとつと言えるでしょう。

リニューアルオープンに相応しい、堂々たる内容

会場風景 左: クロード・モネ 《睡蓮、柳の反映》1916年 油彩・カンヴァス 国立西洋美術館  松方幸次郎氏御遺族より寄贈 旧松方コレクション、右:クロード・モネ 《睡蓮》1916年 油彩・カンヴァス 国立西洋美術館  松方コレクション

多くの人が望んでいた国立西洋美術館のリニューアルオープン。本展はそれに相応しく雄大であり、また個々の内側へ繊細に語りかける内容となっています。近年、気候変動が顕著となり、私たちは自然に対して今までとは異なる意識を持つようになりました。自然は強大であり、人の力が及ばない恐ろしい側面を持っています。しかし同時に途方もない美しさも持っており、その普遍的な美は長く我々人間を魅了してきました。
自然との共存をこれまで以上に考えることが必要である今、両館所蔵の名品を通じて、改めて対話を試みたいと思わせる展覧会です。(ライター・虹)

国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで
会期:2022年6月4日(土)~9月11日(日)
会場:国立西洋美術館(東京・上野)
開館時間:午前9時30分~午後5時30分(金・土曜日は午後8時まで)
休館日:月曜日、7月19日(火)(※ただし、7月18日(月・祝)、8月15日(月)は開館)
日時指定制
観覧料:一般2,000円/大学生1,200円/高校生800円
詳しくは展覧会公式サイト(https://nature2022.jp
問い合わせはハローダイヤル(050-5541-8600)へ