【開幕】考えるな、感じろーー国立新美術館で「ワニがまわる タムラサトル」展が開幕

青、緑、黄色、オレンジ……様々な色、様々な大きさのワニが、ゆっくりと回っている。ワニは体を支柱で支えられ、その支柱はモーターで回転するようになっている。表情があるのかないのか。カワイイのか不気味なのか。何とも言いようのないフォルム。ちょっと楽しげでちょっと不思議。15日、東京・六本木の国立新美術館で始まった「ワニがまわる タムラサトル」は、そんな空気が会場を覆う展覧会である。

1972年、栃木県で生まれたタムラサトル氏は、「電気で動く立体作品」を制作の中心に据えた現代美術家である。「まわるワニ」を最初に作ったのは大学時代。「電気を使った芸術装置」という課題が出て、プラン発表の前の日に「朝起きて最初に思い描いたものを作ろう」と決めて寝たタムラ氏が、次の日頭に浮かんだのがこれだったという。実際に作ってみて、「回っているワニ」を見て、「自分は作家になる」と意識したというのだから、運命的といえば運命的である。

展示風景

なぜワニなのか。なぜ回るのか。「それは聞かないでほしい」とタムラ氏はいう。タムラ氏自身、作り始めて数年は「なぜワニ」「なぜ回る」の意味を考えながら作っていたのだが、結局は「よく分からないが、なぜかワニが回っている」状況こそが「面白さの本質だ」と気付いたのだそうだ。振り返ればわれわれだって「なぜ人間なのか」「なぜ生きているのか」分からないまま、何十年間かこの世で暮らし、死んでいくのである。ここで回っているワニだって、われわれ人間だって、ずーっと引いて「神の目」で見てみれば、そんなに変わりがないのかもしれない。1000体の小さなワニがところせましと床を覆っててんでに回っている様子、その上で偉そうに(?)回っている大きなワニたちの姿を見ていると、そんな「カジュアルなニヒリズム」「明るい諦観」を感じてしまう。

大学時代、最初に制作したワニの前に立つタムラさん(14日のプレス内覧会で)

開幕前日、14日の午後は、タムラ氏自身も出席して、プレス内覧会が開かれた。吉田戦車氏のマンガが好きだというタムラ氏は「まあ、そうだろうな」と思わせる風貌で、独特の軽みとユーモラスな雰囲気を身にまとっている。ちなみに、上の画像でタムラ氏の背景にいる緑のワニが、大学時代に作ったワニなのだそうだ。リアルな造型に見えるが、「よく見てもらうと、マンガのワニみたいな感じで作っているんですよ」。つまり、この「ワニ」たちはリアルな動物の彫刻ではなく、「ワニ」という記号なのである。今回、国立新美術館の企画展示室1Eという広い空間でのインスタレーション制作に臨んで、体長約12メートルの巨大ワニも制作したという。そのワニの前で自作について語っているのが、下の画像。どことなくユーモラスな感じがここでも漂っている。

今回、新たに制作した「約12メートルのワニ」の前で、自作を語るタムラさん(14日のプレス内覧会で)

展覧会を前に、国立新美術館では2回にわたって「まわるワニをつくる」と題したワークショップも行なった。そこで制作されたワニたちも、下の画像のように会場で回っている。背中に子供を背負っていたり、メカ的だったり立ち上がっていたり、色とりどり様々な造型。カラフルで暢気な世界がそこには広がっている。何を考えているのか分からない、ただ単に回っている記号としてのワニ。それを見ていると、現代美術は「言葉」や「意味」に頼りすぎているのではないか、という思いも浮かんでくる。「考えるな、感じろ」。香港映画のスター、ブルース・リーの名言が頭をよぎる。ちょっと見でも楽しいけども、じっと見ているといろいろなことを「思って」しまう。そんな展覧会なのである。

(事業局専門委員 田中聡)

展示風景
ワニがまわる タムラサトル
会場:国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
会期:2022年6月15日(水)~7月18日(月、祝)
休館日:火曜日
アクセス:東京メトロ千代田線乃木坂駅青山霊園方面改札6出口が美術館に直結、東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分、都営地下鉄大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分
観覧料:無料
※最新情報は公式サイト(https://www.nact.jp/)で確認を。