【レビュー】古都に響く 唯一無二の音と光のアート 「ブライアン・イーノ・アンビエント・キョウト」展 好評につき会期を9月3日まで延長

77 Millon Paintings Photo by Natsuko Hamada

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO ブライアン・イーノ・アンビエント・キョウト
会場:京都中央信用金庫 旧厚生センター(京都市下京区中居町七条通烏丸西入113)
会期:2022年6月3日(金)~8月21日(日)→9月3日(土)に延長
開館時間:11:00〜21:00(展示会入場は閉館の30分前まで)
アクセス:JR京都駅から徒歩5分
一般チケット
平日 :一般(大人) ¥2,000 / 大学生・専門学校生 ¥1,500 / 中高生 ¥1,000 / 小学生以下 無料
土日祝:一般(大人) ¥2,200 / 大学生・専門学校生 ¥1,700 / 中高生 ¥1,200 / 小学生以下 無料
詳しくは公式HPhttps://ambientkyoto.com/で確認を。

現代音楽とポップミュージックで偉大な足跡を残し、ビジュアル・アートでもパイオニア的存在であるブライアン・イーノ(1948~)。現代アートシーンの生ける伝説による注目の大規模個展です。当初の8月21日閉幕予定から、好評につき会期が9月3日(土)まで延長になりました。

ブライアン・イーノ 写真:セシリー・イーノ(Cecily Eno)

音と光の双方が絶えず変化し、同じ瞬間が二度と現れないインスタレーションが展開されます。イーノが創設した「アンビエント・ミュージック」は、興味深く聞いても、聞き流しても、無視してもいい、というリスナーが主体的に受容するアートのあり方の提案。今展の作品も、その空間でしか体験できない一回性に富んだ参加者主体の展示で、とてもエキサイティングです。

世界初公開『Face to Face』 現代社会への鋭いメッセージか

暗い部屋に入るとスクリーンに3人の人物の顔が写り、音楽が鳴っています。世界初公開の作品で、実在する21人の人物の顔を、それぞれ1枚の静止画に収容したものが元になっています。特殊なソフトウェアを使い、画像はひとつの本物の顔から別の顔へと、ピクセル単位でゆっくりと変化していきます。それぞれの本物の顔の間に、実際には存在しなかった人間、あるいは中間的な人間が出現することになり、「新しい人間」の長い連鎖を生み出します。毎秒30人ずつ、36000人以上の新しい顔を誕生させているそうです。

おおよそ1分ごとにシャッターを切った写真です。体感的にはどこが変わったか分からないうちに、しかしあっという間に別の人に変貌していく様が面白く、いつまでも見ていられる作品です。その時は「印象的な容貌だ」と思っても、徐々に変容するうちに、直前の人がどんな顔つきだったのかを思い出すことすら難しくなります。気がつくと、肌の色も、性別も、年齢も全く変わってしまっているのに驚きます。

イーノは人の「認識」というものが実は曖昧であることを指摘しているようにも思えます。そしてその曖昧とした「認識」に基づき、「人種」や「性別」「宗教」「性的指向」などで、ことさらに分断しようとする現代社会の病理を撃っているのかもしれません。気候変動問題など、アクティヴィストとしても活発に社会活動に取り組んできたイーノだけに、様々な問題意識を連想させます。

代表作も展示

『77  Million paintings』

77 Million Paintings photo by Juliana Consigli

音楽と光が途絶えることなくシンクロして生み出さされる空間芸術作品。「7700万」とは、システムが生み出すことができるヴィジュアルの組み合わせの数のこと。目くるめく光と音の饗宴に酔いしれます。2006年にラフォーレミュージアム原宿で世界で初めて出展しました。その後もアップデートを繰り返しながら世界を巡回すること47回で、ビジュアル・アート界を代表する作品に。その名作が16年ぶりに日本に戻ってきました。

『Light Boxes』

Light Boxes Photo by Juliana Consigli
Light Boxes Photo by Juliana Consigli

光りながら常に新しい色彩の組み合わせへと変わってゆく、LED技術を駆使した光の作品。こちらも見飽きることとのない光の世界です。

古都と現代アートの出会い

京都駅に近く、東本願寺に隣接する築90年の「京都中央信用金庫 旧厚生センター」という建物が会場。このレトロな雰囲気とイーノの作品がよく似合います。観光客や修学旅行生で賑わいを取り戻しつつある古都。古きを訪ねつつ、現代のアートにも触れることで、さらに印象深い体験になりそうです。

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)