今、「戦争画」を見る 東京国立近代美術館 藤田嗣治、小磯良平、宮本三郎ら巨匠の作品

東京国立近代美術館(東京・竹橋)の所蔵作品展「MOMATコレクション」では、「戦争の時代ー修復を終えた戦争記録画を中心に」というタイトルで、太平洋戦争中に描かれた戦争画を紹介しています。
所蔵品ギャラリー3階の会場で、藤田嗣治「哈爾哈河畔之戦闘」「大柿部隊の奮戦」「薫(かおる)空挺隊敵陣に強行着陸奮戦す」、小磯良平「カンパル攻略(倉田中尉の奮戦)」、宮本三郎「本間、ウエンライト会見図」という戦場に取材した作品を見ることができます。
1938(昭和13)年の国家総動員法により、国民すべてが戦争協力を迫られる中で、美術家も戦争記録画を描くようになりました。戦後、GHQが現存する戦争画の主要作品153点を接収し、1951年、いったん合衆国へ移送。その後、返還要求の声の高まりを受けて、1970(昭和45)年、アメリカ政府から日本政府に「無期限貸与」される形で、作品返還に合意しました。傷みに応じて修復措置が施されましたが、経年変化で修復跡の変化が目立つようになったことから、近年、新たに修復し直し、額を新調するなどしています。今回は修復を終えた作品を中心に展示しています。
洋画界を代表する巨匠たちの作品だけに、その絵画としての完成度には目を見張ります。一方、日本軍が優勢だった時期の作品と、必敗の状況となった末期のものでは雰囲気ががらりと変わり、作家側の心境や関心の変化も見てとることができ、興味深いです。
会場には戦時中に描かれた別のタイプの絵画なども展示されています。

戦中の横浜駅近くを描いた作品。華々しさを感じさせる作品もある「戦争記録画」とは異なるトーンに覆われています。

1943年、靉光、松本竣介、麻生三郎、井上長三郎ら若い画家たちは自由な創作の場を求めて「新人画会」というグループを結成。時局に抗する姿勢を示しました。靉光のこの自画像は召集を受ける直前に描いたもの。戦地に赴いた靉光は病に倒れ、祖国の地を踏まぬまま1946年、上海で還らぬ人となりました。
世界にとって戦争がリアルな問題である今、日本の戦時のアートを振り返ることができる貴重な機会です。この展示は10月2日(日)まで。詳しくは(https://www.momat.go.jp/am/exhibition/permanent20220517/)へ。
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東京都現代美術館で開催中の「Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022 受賞記念展」(6月19日まで)では、このGHQによる戦争画の取り扱いがテーマになっている展示があります。受賞者のひとりである藤井光さんの新作で、戦後の戦争画をめぐる議論をアメリカ占領軍が残した公文書から考察します。詳しくは(https://www.tokyocontemporaryartaward.jp/exhibition/exhibition_2020_2022.html)をご覧ください。
(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)