【レビュー】「鹿島茂コレクション2『稀書探訪』の旅」  日比谷図書文化館で7月17日まで

「パリ、ボン・マルシェ・デパートのアジャンダ」アジャンダ(日記・家計簿)、1920年代~30年代頃、ボン・マルシェ・デパート Photo ©Nao KASHIMA(NOEMA Inc. JAPAN)

日比谷図書文化館にて、「鹿島茂コレクション2『稀書探訪』の旅」が開催中です。
仏文学者・鹿島茂氏が、ANAの機内誌『翼の王国』で連載していた「稀書探訪」。2007年4月号から12年間続いたこの連載は、1回につき1冊の稀覯本を取り上げ、それにまつわる逸話や、鹿島氏自身のエピソードを綴った人気のページでした。本展は「稀書探訪」に登場する、全144冊の希少な書籍や資料を総覧する展覧会です。

稀書探訪と鹿島茂コレクション展について

タイトルにもあるように、本会場で行われる鹿島茂コレクション展は、これが2回目となります。2019年に開催された「鹿島茂コレクション アール・デコの造本芸術 高級挿絵本の世界」では、ジョルジュ・バルビエら、フランスのアール・デコ四天王と称されるイラストレーターたちの作品や、高価な挿絵本が紹介されていました。

その他にも練馬区立美術館や東京都庭園美術館、群馬県立館林美術館などで、氏のコレクション展は開催されています。いずれも19世紀フランスのファッションや児童書などのテーマが決められ、それを古書や資料をもとに掘り下げていく内容です。

本展会場風景

ところが今回は一風変わって、「収集」という行為に焦点が絞られています。
今までの展覧会でも収集について語られてきたことはありましたが、今回はコレクションの成り立ちや、鹿島氏の美学、その本を購入するに至った経緯が語られているのです。
これが本当に面白い! 章解説やキャプションを読むたびに、口元がニンマリしてしまうようなエピソードが展開されています。そう、本展は紛れもなくすべての「つい集めてしまう人」にこそ見てほしい展覧会です。

19世紀のパリが舞台 多角的にきりこむコレクターのまなざし

『フロリアンの寓話(第2版)』ジャン・ピエール・クラリス・ド・フロリアン著/グランヴィル画、1842年、デュボシェ書店、ガルニエ書店

展覧会は19世紀フランスを代表する挿絵画家、グランヴィルと同時代のイラストレーターたちの仕事からはじまります。そして新聞記事やファッション・プレート、児童書に地図、さらには小説や博物学書までと、幅広いジャンルが章ごとに会しています。
これぞ稀覯本といった重厚な装幀の書物から、新聞に寄せられた風刺画まで、さまざまな資料によって生まれる多角的な視点は、当時のパリの空気を伝えてくれます。

「レ・ゾム・ドージュルデュイ」レオン・ヴァニエ他編/ピサロ、スーラ、シニャック他画、1878-99年 
印象派の画家として知られるカミーユ・ピサロらが寄せたカリカチュアも

この多角的な視点こそ鹿島茂コレクションの真骨頂なのですが、収集を始めたばかりの頃は、特に分類を考えずに購入されていたそうです。しかし次第に自身が、「類似性」と「差異性」という2つの原則のもとに収集を行っていることに気づき、大樹が枝を広げる如くカテゴリが分かれていったのだとか。そこから如何にして一大コレクションが形成されていったかが、本展で語られています。

収集という名のデーモンに使役され

『コメディーの登場人物』アルベール・フラマン著/ジョルジュ・バルビエ画、1922年、メニアル書店
鹿島茂氏と言えばジョルジュ・バルビエを連想しますが、当初は沼にはまるのを恐れ、敬遠されていたそう。こちらは限定150部以下、しかも美品の超稀少本

鹿島氏は自身の収集の姿勢を「収集という名のデーモンに心身を乗っ取られていた」と表現しています。
デーモンに操られるままに収集を行う自分と、その資金調達のためにあらゆる媒体に執筆する自分──この相反する行動を自分A、自分Bとする鹿島氏は、AとBは相互不干渉であったと語ります。しかしある時、予期せぬ展開が氏を襲います。
Bが執筆を行う過程で、Aが分類し、コレクションしてきたものが不十分であると気づくのです。そうなってくるとコレクションを完璧にするために、更なる収集が必要になります。収集の資金を得るために執筆をしてきたのに、執筆のために収集が必要になるという、なんとも本末転倒な事態が発生してしまったのです。
このくだりは、ぜひ会場で鹿島氏の解説を読んでいただきたいと思います。自身のコレクションに一家言ある方なら共感せずには、いいえ、噴き出さずにはいられないでしょう。

アルものを集めて、ナイものを創り出す

会場風景

そしてもうひとつ、鹿島氏は自分Bが「書いたもの」の間でも、類似性と差異性を軸にした分類が可能であることに気づきます。氏は、自身の収集と執筆において、こう表現しています。
「アルものを集めて、ナイものを創り出す」
すでに存在する古書や資料を集め、独自のコレクションを築くことによって、この世にはなかった「鹿島茂コレクション」が誕生する。そしてそれについて執筆を行い、かつ編集していくことで、新たな書物が生まれる。
収集家としてのAと表現者としてのBは、分裂し、相反するような行動をとりながらも、それぞれの行為において最終的には、「アルものを集めて、ナイものを創り出す」という同じ構造、同じ布置ふちに落ち着いていたのです。
その集大成が「稀書探訪」の連載であり、この展覧会と言えるでしょう。

冒険と愉悦に満ちた稀書探訪の旅へ

『怪盗紳士アルセーヌ・リュパン』モーリス・ルブラン著/レオ・フォンタン画(表紙)ピエール・ラフィット書店
アルセーヌ・リュパン(ルパン)と言えば、このレオ・フォンタンの絵があまりにも有名! 様々な場所で引用されています。

冒頭にも書きましたが、本展はすべての「つい集めてしまう人」にこそ見てほしい展覧会です。「なんとなく集めてしまう」人から、「自分のコレクションを形成したい」と信念を注いでいる人、そこまでいかなくても「一度だけ〇〇にはまったことがある」という人まで、きっとシンパシーを感じることができると思います。
あわや自己破産の危機に直面したり、同じものは買わないという確固たる自分ルールを持っていても、「これは特別だから……」と買ってしまったり、またはバルザックの小説に書かれた馬車に関する一節を理解するために馬車のカタログを購入したり──。収集のデーモンに乗っ取られることはかくも恐ろしく、冒険と愉悦に満ちたことかとわくわくしながらの鑑賞は、まさに「『稀書探訪』の旅」そのものです。

本展は300円の観覧料で楽しむことができます。会場はコンパクトながら、内容は非常に充実しているため、ぜひ時間に余裕をもって出かけてください。
また会場では、目録が記載された立派な冊子も貰えます。

展覧会で配布される冊子

展覧会を後にする頃には、機内誌に掲載されていた「稀書探訪」の本編が気になるはず。連載をまとめた書籍『稀書探訪』は、館内にある「ライブラリーショップ&カフェ日比谷」にて取り扱い中ですので、チェックしてみてください。ショップではポストカードなどのグッズも販売されています。

ライブラリーショップ&カフェ日比谷

展覧会とあわせて楽しみたいのが、図書館内の関連企画です。2階では鹿島氏にまつわる書籍の展示を、3階ではANAの機内誌等を特集しています。

2階で開催中の関連展示(~7月17日まで)
3階で開催中の関連展示「旅と本と機内誌と」(~7月17日まで)

楽しく魅惑的な稀書探訪の旅。鹿島氏の収集の軌跡を追体験しながら、ぜひ皆さん自身の収集の軌跡も振り返ってみてください。「アルものからナイものを創る」ことができるかもしれません。(ライター・虹)

鹿島茂コレクション2『稀書探訪』の旅
会場:日比谷図書文化館 1階特別展示室
会期:2022年5月20日(金曜日)~7月17日(日曜日)※前後期一部展示替えあり
前期5月20日(金曜日)~6月19日(日曜日)
後期6月21日(火曜日)~7月17日(日曜日)、休館日6月20日(月曜日)
時間:月曜日~木曜日:午前10時~午後7時、金曜日:午前10時~午後8時、土曜日:午前10時~午後7時、日曜日・祝日:午前10時~午後5時
※いずれも入室は閉室の30分前まで
観覧料:一般300円、大学・高校生200円 千代田区民・中学生以下、障害者手帳などをお持ちの方および付き添いの方1名は無料
詳しくは千代田区立日比谷図書文化館 公式サイトの展覧会のページ

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