【レビュー】「世界最大級の湿地帯」で息づく「生命」のすばらしさ――「岩合光昭写真展 PANTANAL パンタナール 清流がつむぐ動物たちの大湿原」 東京都写真美術館で7月10日まで

岩合光昭氏(3日のプレス内覧会で) ⓒMachi Iwago

「岩合光昭写真展 PANTANAL パンタナール 清流がつむぐ動物たちの大湿原」
会場:東京都写真美術館(東京都目黒区三田1-13-3)地下1階展示室
会期:2022年6月4日(土)~7月10日(日)
休館日:月曜休館、ただし月曜日が祝祭日の場合は開館し、翌平日が休館。
アクセス:JR恵比寿駅東口から徒歩約7分、地下鉄日比谷線恵比寿駅から徒歩約10分
観覧料:一般800円、学生640円、中高生・65歳以上400円
※オンラインによる日時予約を推奨
※最新・詳細情報は公式サイト(https://topmuseum.jp/)で確認を

NHKBSプレミアム「岩合光昭の世界ネコ歩き」などでおなじみ、動物写真家・岩合光昭氏の個展である。今回、岩合さんが撮影したのは、南米、ブラジルからボリビア、パラグアイにかけて広がる世界最大級の湿地帯「パンタナール」で生きる動物たち。約100点の作品が並ぶボリュームたっぷりの展覧会だ。

フサオマキザル ⓒMitsuaki Iwago
マザマジカ ⓒMitsuaki Iwago

岩合さんの代名詞でもある「ネコの写真」の特徴は、彼らがとても表情豊かなことだ。それは被写体が野生動物になっても変わらない。メインヴィジュアル、ジャガーを撮った一枚を見てみよう。まだ若い個体なのだろうか、おなかを上にして一人遊びをしているようだ。なのだが、こちらを見ている視線だけがやけに鋭い。「なに見てんだよ」とでも言っているのだろうか。「でっかいネコ」のかわいらしさと「野性」のたくましさ、それが一枚に凝縮されているのである。

その他の写真、フサオマキザルやマザマジカの写真を見ていても、何だか一生懸命な顔をしていたり、カメラに向かって不思議そうな目をしていたり、実にいろいろな感情が画面から流れ出す。よくもまあ、動物たちがこんなに自然な顔を見せてくれるものだ。それこそが、岩合さんの「人徳」であり、カメラマンとしての「腕」なのだろう。

ピラプタンガ ⓒMitsuaki Iwago

その「一瞬」を切り取るために、どれだけの時間が費やされているのだろうか。2匹のピラプタンガが「鯉の滝登り」のように飛び跳ねている写真を見ると、素直にそう思う。いくらピラプタンガが活動的な魚であったとしても、そうそう都合よくこんな姿をさらけ出してはくれないだろう。

スミレコンゴウインコが飛び立つところを捉えた一枚もそう。こんな絵になる状況が生まれるためには、何日待てばいいのだろうか。岩合さんは今回の撮影に際して、パンタナールに「5回通った」そうだ。最近は行く人も増えたようだが、それでも南米の奥地も奥地である。そこに何度も通うバイタリティーと根気。一枚の絵の裏側に、どれだけの努力が必要か。職業柄、それがある程度理解できるだけに、なおさら感心してしまうのだ。

スミレコンゴウインコ ⓒMitsuaki Iwago

「ジャガーが獲物を捕食するところを撮影したい」というのが、「パンタナール行き」のモチベーションになっていたそうだ。その瞬間がどのようにカメラに収められているか。それは見てのお楽しみだが、思わず「へぇ」という声が出てしまいそうな、ちょっと意外な光景である。カピバラやアルマジロはかわいいし、人間に嫌悪感や恐れを抱かず、堂々と近づいてきている。人智を超えた自然の営み。なるほど、「本州ぐらいの広さ」があるというパンタナールは「地上の楽園」なのかもしれない。

展示風景

岩合さんによると、パラグアイカイマンのような大型のワニもそんなに危険を感じずに近づけたそうだ。「食物となる魚が豊富なので、人間を狩りの対象として見ていないのでしょう」という。人間の接近を意識せず、一点を見つめているその姿。はるかいにしえの恐竜の面影を感じ、何やら哲学的な雰囲気まで感じてしまう。

パラグアイカイマン ⓒMitsuaki Iwago

雄大な自然を捉える「カメラマンの目」は畏敬の念にあふれている。その目は動物たちの姿を常にフェアに捉えようとしているようだ。「肉食獣は危険」「小動物はかわいいものだ」などの固定観念に縛られず、あるがままの姿を撮影しているからこそ、そこにいる動物たちの「本当の姿」が捉えられるのだろう。「ネコの岩合さん」しか知らない方に、ぜひ見ていただきたい展覧会である。

(事業局専門委員 田中聡)

カピバラの写真の前に立つ岩合さん(3日のプレス内覧会で) ⓒMachi Iwago

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