【レビュー】「漆 ―東洋の美を彩る素材」泉屋博古館(京都)で7月3日まで 住友コレクションで「漆の美」を探求する

左:《龍図堆黄円盆》 明・万暦17年(1589) 右:《打出木槌蒔絵大鼓胴》江戸時代・18~19世紀 いずれも泉屋博古館蔵

漆 ―東洋の美を彩る素材
会場:泉屋博古館(京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24)
会期:2022年5月28日(土)〜7月3日(日)
開館時間:午前10時 ~ 午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日
アクセス:地下鉄東西線「蹴上駅」より徒歩約20分
入館料:一般800円 高大生600円 中学生以下無料
詳しくは同館の展覧会ページ(https://sen-oku.or.jp/program/2022_urushi/)で

アジアの人々が発見した素材・漆。塗料や接着剤として活用されただけではなく、その特性を活かした技法が地域ごとに編み出されるようになりました。

7月3日まで泉屋博古館(京都・鹿ヶ谷)で開催されている「漆 ―東洋の美を彩る素材」では、同館が所蔵する住友コレクションの中から、中国や朝鮮、日本で育まれた漆工品を展示。漆の美を支える技法や、その美を守るための修復技術などを合わせて紹介し、鑑賞者を漆の美の世界へと誘います。

「彫漆」「螺鈿」「蒔絵」漆をめぐる技

緻密な文様や深い色合い、虹色の輝き――。見る者を惹きつける「漆の美」は、高い技法によって支えられています。まず第1章「うるしをめぐる技」では、漆を活用した技法の中でも「彫漆」「螺鈿」「蒔絵」の3種類を紹介します。

《八吉祥文堆朱如意》 清時代・17~18世紀 泉屋博古館蔵

中国で発展した「彫漆ちょうしつ」(堆朱ついしゅはその技法のひとつ)は、何層も塗り重ねた漆の層に文様を彫り込む技法です。漆を塗っては乾かす作業を繰り返すため、手間がかかるのだとか。想像しただけでも、気が遠くなります……。そのうえ漆を大量に必要とするため、「彫漆」を施した漆工品は贅沢品だったそうです。

貝殻の輝く部分(真珠層)を用いて文様を表現するのが「螺鈿らでん」。日本を含む東アジアでまんべんなく広がった技法ですが、その活かし方は地域によって異なります。

《仙人図螺鈿食籠》 元時代・14世紀 泉屋博古館蔵

例えば中国の螺鈿は、薄くて細かな貝片を配置したり貝片に亀裂を入れたりして、人物の表情までも表現しています。この、気が遠くなるほどの緻密さ。「彫漆」と共通する美意識を感じます。

《双鶴桃図螺鈿印材箱》 朝鮮時代・17~18世紀 泉屋博古館蔵

一方朝鮮の螺鈿は、大ぶりな貝片で文様などを表している点が特徴だそうです。確かに、李氏朝鮮時代の作品は、悠々とした雰囲気を醸し出していました。

日本で独自に発展した蒔絵

《吉野山蒔絵十種香箱》 江戸時代・18~19世紀 泉屋博古館蔵

そして「蒔絵まきえ」は、日本が独自に磨いてきた技法です。硯箱、香箱などに施された蒔絵は流麗。平面の蒔絵の中に、広がりや奥行きが感じられます。

このように、各地の文化や風土を活かして独自に発展した漆の技法や表現を堪能できます。漆工品がお好きな方は、第1章から心を鷲掴みにされること間違いなし!

住友家の宴席を彩った漆

漆工品は、芸術品として愛でられただけではなく、実用品として人々の生活を彩ってきました。「漆」のなかで、もっとも身近に感じられるのが食器類ではないでしょうか。第2章「うるしのあるくらし 宴」では、江戸時代から明治時代にかけて、住友家の宴席を彩った食器や酒器を展示します。

右:《唐草梨子地蒔絵提重箱》 明治時代・19世紀 泉屋博古館蔵

例えば《唐草梨子地蒔絵提重箱》は、行楽行事などに食事や酒を持参するための提重箱さげじゅうばこ(現代風に言えば「ピクニック用の弁当箱」)。華麗な蒔絵で装飾されている一方で、酒のさかなを詰め込む重箱、小盆、徳利などを効率的に収納できるよう設計されています。見て楽しむだけではなく、使って楽しむために工夫して作られたことがうかがい知れます。

15代当主・住友春翠のコレクションも

展示風景

宴席を彩る漆が並ぶ第2章に対して、茶の湯や能楽で活躍する漆を堪能するのが第4章「うるしのあるくらし 数寄」です。

茶箱、能楽器、中国の文房具……と様々な漆が並びます。これらは、第15代住友家当主の住友吉左衞門友純(号・春翠:1865〜1926年)が収集したもの。茶の湯に親しみ、能楽の稽古に励み、中国の文人に憧れた春翠ならではのコレクションに圧倒されます。

”影武者”としても活躍する漆

漆を用いた技術が発展し、数々の漆工品が残されたのは、そもそも「漆」自体が素材として優れていたからでしょう。実は漆は、接着力や耐水性だけではなく、酸やアルカリへの耐性も持ちます。そんな漆は、美術品を修理したり、守ったりするために活用されてきました。

その身近な例として挙げられるのが、「金継きんつぎ」です。漆を接着剤として活用することで、割れた陶磁器をつなぎ合わせることができます。

展示風景

他にも、演者の皮脂や汗を弾くために能面の裏に塗られたり、湿気対策で木彫り像の表面処理に用いられたりと、漆は様々な場面で信頼され、活用されてきました。

漆の美を守る

《龍図堆黄円盆》 明・万暦17年(1589)泉屋博古館蔵
《双龍図堆黄長方盆》 明・万暦20年(1592)泉屋博古館蔵

本展は、中国・明時代の《龍図堆黄円盆》および《双龍図堆黄長方盆》の修復記念も兼ねています。クライマックスの第6章「うるしをよみがえらせる技 堆黄盆の文化財修復」では、修復後のこの二つの「堆黄ついおう盆」をお披露目!

会場での解説パネル

修復により美しく蘇った堆黄盆ですが、解説パネルで修復前の状態を確認すると、大きな亀裂が走っていたり、積年の埃が細かな彫りに入り込んだり、漆塗膜が剥げていたりと、深刻な状態だったことがわかります。

会場の解説パネル

では、どのような修復作業が行われたのか?という点を解説パネルでたどることができます。

ヘラなどの修復道具も展示。実は修復道具は、技術者がひのき材などから切り出し、修理対象に合わせて仕立てているそうです。つまり、「修復は道具を作るところから始まる」と言っても過言ではありません。さらに面白いのは、修理を経るごとに道具が漆塗りのように輝きを増していくこと。修復道具からも、漆の世界の奥深さを味わうことができるのです。

漆の美を支える技法、漆の美が活きるくらしの場、漆の美を守る修復技術など、あらゆる角度から「漆の美」に迫る本展。ぜひお見逃しなく。漆を知れば知るほど、漆に向き合う愉しみが深まっていくことでしょう。(ライター・三間有紗)

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