【図録開封の儀】特別展「琉球」 約500ページの大ボリュームの図録は長~く読む

日本列島の南に、かつて琉球という名の王国がありました。1872年(明治5年)に琉球王国は琉球藩とされ、1879年(明治12年)の廃藩置県により現在の沖縄県になったことはご存知の通りです。太平洋戦争の末期、地上戦が展開された沖縄は、戦後も米国統治が継続されました。そして、1972年、今から50年前に復帰をはたしました。

沖縄復帰50年を記念する特別展「琉球」(以下、琉球展)が、6月26日まで東京国立博物館にて開催中です(7月16日〜9月4日、九州国立博物館に巡回)。

今回の図録開封の儀で取り上げるのは、今年最大のボリュームとなりそうな琉球展の図録。くしくも50年前に生を受けた者として、沖縄にまるで友人のような親近感を抱いている私が、本図録の魅力と読みきるためのコツを紹介します。(ライター・佐藤拓夫)

辞典と見紛うほどのボディに琉球の歴史と文化がぎっしり!

本図録の充実ぶりはデータに表れています。ページ数は約490ページ、厚さは約4センチ、重さも約1.3キロと辞典なみのボリューム。琉球の歴史と文化がぎっしり詰まっています。

ビッグサイズの本図録の中で「ビジュアル重視」の読者におすすめなのが、第2章「王権の誇り 外交と文化」。200ページにもなる、本図録のメインコンテンツです。

必見は2-①の「国宝 尚家宝物」の項。かつて琉球王国を治めた尚家伝来の国宝47点を紹介しています。冠や刀剣、調度品、美しく染め上げられた衣装の数々は、眺めているだけで眼福そのもの。

図録 112-113ページ
図録 122-123ページ

琉球王国の栄華を今に伝える国宝は、その多くが太平洋戦争の開戦前に沖縄から東京へ移されたために被害を免れたのだそうです。

この貴重な尚家宝物をメインに紹介する第2章こそが、琉球展のビジュアル王者であることは間違いありません。会場でも多くの観覧者が立ち止まり、心ゆくまで眺める姿がありました。(第2章は会場で撮影可ゾーン)

ただ、「情報の価値」で考えるなら、第1章「万国津梁 アジアの架け橋」は重要です。なぜなら第1章は、琉球(そして沖縄)の文化が「ちゃんぷるー」と呼ばれるようになった理由を示してくれるからです。

琉球は、日本や中国、朝鮮、東南アジアの国々との交易により、自国の伝統文化と舶来の文化を融合し、昇華させました。それが「ちゃんぷるー」を良しとする文化的な寛容を産んだことがわかります。

学芸員と専門家が総力をあげて執筆したコラム・論稿を見逃すな!

本図録は、解説文以外にもテキストが非常に読み応えがあります。各章の要所に絶妙のタイミングで登場する13本のミニコラムと、専門家が簡潔かつ濃密にまとめあげた4本の論稿は全力でおすすめしたいコンテンツです。

赤い枠線(筆者追加)がコラム・論稿

どれも重要で読み飛ばせないのですが、ぜひ読んでほしいと感じたのがコラム「鎌倉芳太郎が出会った人と沖縄」(図録 402-403ページ)と、論稿「琉球美術への招待」(図録 433-436ページ)の2本です。

「鎌倉芳太郎が出会った人と沖縄」は、沖縄文化の在野研究者として多大な功績をあげた鎌倉芳太郎を素描したコラム。鎌倉の研究は現代の「沖縄学」の基礎をなすもので、今回の琉球展が取り上げる時代と現代とをつないだ最重要人物と言えます。

民俗学や人類学の領域では、一人の巨人が生涯をかけて打ち込んだ研究が学界全体の財産となり、学問的発展を長く支えることがあります。沖縄文化研究の巨人たる鎌倉の業績を短くまとめた本コラムは、琉球文化に関心のある方ならばぜひ読んでおきたい一本です。

「自分の町、いや日本の地方でよく見る街並みとはどこかが違う。かといって、外国という感じでもないし。この不思議なゆるさはなんなのだろう」。沖縄へ降り立ち、街並みを眺めた時にそう感じた経験はありませんか?そんな不思議な感覚について考察したのが「琉球美術への招待」です。

日本と琉球の美意識の違いに着目した興味深い小論であり、建築やデザインに関心のある人なら、「そうそう、この感覚を言語化したかった!」と思わずひざを叩いてしまうことでしょう。

難しい古文書は図録の助けを借りて少しずつ読み解こう!

図録 68-69ページ

今回の琉球展では、多くの歴史モノの展覧会と同様に「古文書」などの歴史資料がたくさん出品されています。図録をチェックすると、全体でおよそ360点ある掲載点数のうち、古文書は50点以上。もちろん簡潔な解説がついていますが、全文書き下し文や現代語訳がついているわけではありません。

そのため、歴史の知識ゼロの状態だと「解説を読んだけれど、どうもリアリティを感じない……」となる可能性はあります。ただ、今回出展している歴史資料は、琉球と諸外国の交流を示す重要な証拠なので、スルーしてしまうことはおすすめしません。

色鮮やかな衣装や刀剣、絵画、工芸品など、目をひく展示品がたくさん並ぶ琉球展。歴史資料をじっくり見ていなかった方は多いはずですが、沖縄の歴史や文化を学ぶ絶好のチャンスでもあります。ときおり会場の思い出を振り返りながら、図録を手に取り、辞典をひもとくようにページを行き来していけば、歴史資料も必ず理解できると信じています。このように時間を贅沢に使う鑑賞は、会場ではなかなか難しいので、図録の本領発揮というところでしょう。

今回の琉球展と図録を通じて、歴史と文化に対する理解を深めれば、沖縄の存在がぐっと身近になること間違いなしです。そして願わくは、食・言葉・音楽・建築といった現代の沖縄に暮らす人々が共有する文化を直接知り、感じとるために現地へ足を運びたいものですね。沖縄がただの友人ではなく親友であることを確かめるためにも。

本図録(3000円)は、会場内特設ショップか、MARUYUDOまたは銀座蔦屋書店の通信販売で購入できます。

 

さとう・たくお=1972年生まれ、栃木県宇都宮市在住のライター。美術好きで図録コレクターだった亡父の影響で、“図録道”の沼にはまる。展覧会会場では必ず図録を購入し、これまでに2000冊以上を読破。購入した図録を眺めては悦に入る時間をこよなく愛する、自称「超図録おたく」。

図録開封の儀

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