「人間とロボットの現在地:変わりゆく人間の姿」キュレーター・嘉納礼奈

古代ギリシアや中国戦国時代などの紀元前の世にも、自動で動く人の形をした像があったという。人間は、人間ではないが人間みたいな存在を必要としてきた。人間と人間が作る社会とともに、ロボットも変化を遂げてきた。ロボットが人間と同じように心を持った場合は、どうなるのかなども、漫画やアニメ、映画や小説のテーマとなってきた。様々な状況で、人間の生活に寄り添うロボット。生活を助けてくれたり、人間の代わりに労働したり、寂しさを癒してくれたり、励ましてくれたり、楽しませてくれたりする。また、義足や義肢など人間の身体の一部となったり、また身体の延長として、身体機能の補助やスキルアップを更新し続けている。単なる人間の都合を考えた道具としてだけでなく、人間と一体化するなど、ロボットのあり方も多種で複雑になってきている。そんなロボットと人間の関係について考えるきっかけを与えてくれるのが、日本科学未来館で開催中の、特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」だ。同館で展示を担当した三池望さんは、「科学技術とどのような未来を作っていきたいかを来場者一人一人に想像してもらいたい」と語る。
日本の人型ロボットのレジェンド

展示は、日本で開発されたロボットのレジェンドの数々から始まる。
ロボット研究のパイオニアは、世界初の人型知能ロボット、WABOT-1(ワボット–ワン)。
自動音声合成システムと聴覚システムにより簡単な日本語の会話ができるという。さらに、視覚システムにより周囲の物体などを認識して、距離や方向を測定し二足歩行で移動することもできるロボットだ。日本のロボット研究の第一人者である加藤一郎教授を中心に開発され、1973年に発表された。身長2mで体重は130kgの巨体である。

パイオニア、WABOT-1(ワボット–ワン)から約30年後の2000年に発表された二足歩行ロボットがASIMO(アシモ)。身長130cmで体重48kgという小柄で、歩くだけでなく走ったり、ジャンプしたり手を使った作業もお手のもの。周囲の人の動きに応じて自ら行動するという判断能力を備えているという。2002年から2022年3月まで日本科学未来館の科学コミュニケーターを務めた。

2001年に発表されたPosy (ポージー)は、「結婚式で花嫁を先導する3歳のフラワーガール」として設計された。身長90cmで体重13kgと軽量で子供のような愛らしさとしなやかな動作で、従来のロボットと一線を画す。ソフィア・コッポラ監督のハリウッド映画『Lost in Translation』(2003)やルイ・ヴィトンのショーにも出演した。

2014年、世界初の「感情」をもったロボットとして登場したPepper。商業施設や飲食店、病院、学校、個人宅など様々な生活の場で導入され、今や誰もが知っている存在になっている。人間が外部の刺激を受け、ホルモンを分泌し感情を形成するように、内蔵センサーが相手の表情や声のトーンを読み取り擬似的なホルモンを出す。それを元にしてクラウドコンピューターで繋がったAI上の感情生成エンジンで喜んだり、悲しんだりを表現する。
最新人型ロボット

人間にできるだけ近い身体の運動の仕組みを実現するために、スポーツ科学研究者と共同で開発された高速に走るロボット、Wathlete(ワスリート)。骨盤の回転や足を伸ばしたり曲げたりという動きを再現する。

災害救助や介護現場などでの実用を目指して開発された、成人とほぼ同じ大きさの人型ロボット・Kaleido(カレイド)。災害現場や介護施設などで働くことを目的に開発されている人型ロボット。火災や放射能、瓦礫のある環境など危険な状況で、人間の代わりに人命を救助することを目標に開発されている。身長178cm、体重85kgのKaleido(カレイド)の体は頑丈で転んでも壊れないという。人間を抱え上げたり、重い荷物を運んだりできる頼もしい存在である。
体の一部になるロボット、人間の身体機能の拡張

ロボットを体の一部として取り付け、人間の身体の新たな機能を身につけることに挑戦する、arque(アーク)。人間に「しっぽ」があったら、体のバランスを崩した際も、体を安定させ、身を守ることができるのではないか。しっぽが人間の体のバランス能力を補足することを目的として開発された。

畠山海人(ALPHYZ)慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 Embodied Media Project
義手と楽器が一体化した「義手楽器」、Musiarm (ミュージアーム)。
一般的な義手の「欠損を補う」という機能を飛び越えて、身体機能に楽器演奏という大きな+αを加える。管楽器と弦楽器のバリエーションがあるという。

©2021 株式会社 人機一体 Man-Machine Synergy Effectors.Inc. 日本科学未来館提供
遠隔で操縦でき、思い通りに高所重作業を行える汎用人型重機。VRゴーグルでロボットの目線から周囲の状況を認識し、地上にあるコックピットから遠隔で操作する。ロボットの手は、持つものの重さや素材の触感などを操縦者に伝えることができるという。JR西日本、日本信号と共同で鉄道インフラメンテナンスで実際に活用されるよう、開発に取り組んでいる。
弱くて、優しく、柔らかい相棒ロボット

1999年に発表された四足歩行のロボットAIBOから、約20年を経て2018年に進化版aiboが発表された。まばたきや視線、軽やかな動きによって感情を表現する。周囲の状況やふれあう人々を認識するセンサーと、本体とクラウドが連携する独自のAI技術により人と触れ合うことで共に成長するパートナーになる。

世界初のやきもちを焼くロボット、LOVOT (らぼっと)。人の心に寄り添い愛情を注がれる存在を目指して開発された。一体ごとに目のデザイン、声、性格などが異なる。時間とともに人になつき、時間とともに関係性を育んでいくロボットだという。

弱いロボットのひとつ、ポケボー・ジュニア。ひとりではなにもできないけれど、ひそひそとみんなで内緒話をする。楽しそうなおしゃべりに、ついつい聞き耳を立ててしまう。
人間にそっくりなロボット

会場では、アンドロイドの開発者である石黒浩・大阪大学教授に姿形がそっくりな2体のアンドロイド、ジェミノイドHI-2とHI-4が議論を交わしている。石黒氏は、実際にジェミノイドを使って遠隔で講演を行うなどしている。話すときの視線や、顔の筋肉や口の動きも可能な限り「実在の人物」に近づけている。ずっと観察していると、人の気配がするようなしないような不思議な感覚に見舞われる。
亡者の再現

あらゆる権力者が富と知恵の総力を持ってしても今だ「不死身」の肉体の願いは叶えられていない。人間の肉体にはいのちの限りがある。しかし、今や亡くなった人のデータとAIやCG、アンドロイドなどのテクノロジーを使って擬似的に再現しようとする試みがある。偉人たちのアンドロイドは、彼らの死後も講演などで語り手として働いている。

デザインやデジタルコンテンツなどを企画するクリエイティブ・スタジオWhateverは「D.E.A.D (Digital Employment After Death=死後デジタル労働)」と名づけ、死後の肖像権管理の仕組みの必要性を考えるきっかけを与えてくれる。会場では、このデジタル上での死後の復活を、許可するかしないかを回答し、カードを選んで持ち帰ることができる。死後も、働く時代がもうそこまで来ているかもしれない。
今や問題は、「ロボットが心を持てばどうなるのか」から、「人間がロボットになり不死身の存在になればどうなるのか(ロボットとの同一化)」という新たな問いが生まれている。「人間らしさ」もどんどん、変わっていく。ロボットと人間の境界もだんだんと縮まっていくだろう。同展では、私たち人間がロボットに「人間らしさ」を教わり、私たち自身の「ロボットらしさ」に、はっとさせられるかもしれない。あるいは、人間がロボットと手を取り合って、人間の新たな可能性をともに模索している。(キュレーター・嘉納礼奈)
特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」 |
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会場: 日本科学未来館(東京都江東区青海2-3-6) |
会期:〜 |
休館日:火曜日 (ただし7月26日~8月30日は開館) |
開館時間:10:00~17:00 (入場は閉館の30分前まで) |
入場料:大人(19歳以上)2,100円、中人(小学生~18歳)1,400円、小人(3歳~小学生未満)900円 |
詳しくは展覧会公式サイト |

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