【開幕レビュー】遊び心いっぱい、親子連れにぴったりの楽しい異空間――「空箱職人 はるきる展」 そごう美術館

「空箱職人 はるきる展」
会場:そごう美術館(横浜市西区高島2-18-1、そごう横浜店6階)
会期:2022年5月27日(金)~7月3日(日)
アクセス:JR横浜駅から徒歩約5分
入館料:一般1200円、大学・高校生800円、中学生以下無料
※詳細情報は同館HP(https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/)で確認を。

お菓子の空箱やカップ麺の空き容器などを利用したアート作品を制作している“空箱職人”はるきる氏。SNSなどでも人気の、その作品を集めた展覧会である。時にユーモラスで時にファンタスティック。約60点の展示は、夏休みにはまだちょっと早いけど、親子で鑑賞するにはぴったりだ。

はるきる 《アルフォートの空飛ぶ船》 使用した箱:アルフォートミニチョコレート(ブルボン)

とにかく驚かされるのは、その技術の高さである。《アルフォートの空飛ぶ船》は「SNSに初めて挙げた作品」なのだそうだが、この時点ですでに独自の世界ができあがっているように見える。1997年、名古屋生まれのはるきる氏は、お祖父さんお祖母さんがスーパーマーケットを経営していたことから、子供のころから店にあったチラシや空き箱を使って、アニメや実写のヒーローの武器などを作って遊んでいたそうだ。少年時代から自分のイメージを実体化させてきた「工作」の延長線上にある、その作品の数々。まさに「好きこそものの上手なれ」だ。

はるきる 《ムーンライトの時計塔》 使用した箱:ムーンライト(森永)

5月26日に開かれた内覧会では、はるきる氏本人によるギャラリートークも行われたのだが、制作する際に心がけているのは「素材に使う箱のイメージを大切にすること」だそうだ。パッケージのデザイン、そこに書かれている文字を作品の中に生かす。《ムーンライトの時計塔》は空き箱に描かれたビスケットを月に見立てている。《ネスレの銀河鉄道》では、機関車の側面で「Nestle」のロゴを効果的に使っている。《ミルキーチョコレートのペコちゃん》では、ペコちゃんの顔をそのまま女の子の顔にして、キュートで楽しい雰囲気を醸し出している。

はるきる 《ネスレの銀河鉄道》 使用した箱:ネスレコーヒー 無糖(明治)
はるきる 《ミルキーチョコレートのペコちゃん》 使用した箱:ミルキーチョコレート(不二家)

結局、重要なのは、素材からどんなイマジネーションを働かすかなのだろう。「どんな作品を作るか、大体一週間考えて、実際に作るのは2、3日」なのだそうだ。個人的に好きなのは、《きのこの山・たけのこの里の終わらない戦い》。「きのこの山」と「たけのこの里」のどちらがオイシイか。スイーツ好きにとっては「ドラクエⅤでフローラとビアンカのどちらと結婚するか」論争に勝るとも劣らない永遠の課題なのであるが、まあ、そういう遊び心が作品から浮かびあがってくる。肩に力を入れすぎない、自然体の発想。はるきる氏の作品が見る人の共感を得るのは、そういう制作姿勢がそこここから滲み出ているからなのだろう。

はるきる 《きのこの山・たけのこの里の終わらない戦い》 使用した箱:きのこの山、たけのこの里(江崎グリコ)
はるきる 《シャルロッテの街》 使用した箱:シャルロッテ(シャルドネジュレショコラ、生チョコレート)、香ばしキャラメルショコラ、香ばしキャラメルショコラ(カフェラテ)(ロッテ)

本来の使用法を終えたモノを使ったサステナブルアート。考えてみれば、日本という国は、いにしえから物事をリサイクルするのが得意だった。着物の端切れを使って小物入れを作ってみたり、紙を何度も漉き直して最後は畑の肥料にしてみたり。日常にあるちょっとしたモノを有効活用して生活を豊かにする作業を、私たちはずっと続けてきた。古くて新しい、日本の生活感覚。はるきる氏の作品を見ていると、改めてそのすばらしさを実感するのである。

(事業局専門委員 田中聡)

会場に再現されたプライベートルームとはるきる氏