【プレビュー】パリで評価された銅版画家の全貌に迫る――「長谷川潔 1891-1980展―日常にひそむ神秘―」 町田市立国際版画美術館で7月16日から

長谷川潔 1891-1980展-日常にひそむ神秘―
会場:町田市立国際版画美術館(東京都町田市原町田4-28-1)
会期:2022年7月16日(土)~9月25日(日)
休館日:月曜休館、ただし7月18日、9月19日は開館し、7月19日、9月20日が休館
アクセス:小田急線町田駅東口から徒歩約15分、JR横浜線町田駅ターミナル口から徒歩約12分、北口から徒歩約15分
観覧料:一般800円、大学生・高校生400円、中学生以下無料
※最新情報は公式サイト(http://hanga-museum.jp/)で確認を。
長谷川潔(1891-1980)は、パリを拠点に活躍した銅版画家。サロン・ドートンヌやフランス画家・版画家協会に所属してパリ画壇で高く評価され、フランスでは文化勲章、日本では勲三等瑞宝章を授与された。町田市立国際版画美術館では2018年度にこの版画家の展覧会を開催しているが、今回はその展覧会をベースに、最初期の作品から1970年代の銅版画までを年代順に展示、関連作家の作品などとともに約165点の作品で構成する。
長谷川潔 《歩める男『仮面主催洋画展覧会出品目録』》 1913年 木版 町田市立国際版画美術館

展覧会は六章構成。プロローグとなる第一章では、1912年に版画の制作を始めた長谷川の日本での活動を紹介する。長谷川は、日本を去る1918年まで文芸同人雑誌『仮面』の版画家として活動した。第二章では、渡仏して第二次世界大戦が始まるまでの創作活動を取り上げる。長谷川は、南仏の風景や神話に登場するヴィーナスのような女性像、机上の静物などを描きながら、独自の表現を確立。メゾチント(マニエール・ノワール)という版画の古典技法を研究し、現代版画の技法としてよみがえらせた。

長谷川潔 《思想の生れる時》 1925年 ドライポイント・手彩色 町田市立国際版画美術館

その時代、特筆されるのが、34年に完成した挿絵本、仏訳『竹取物語』。第三章ではこれを特集する。パリの日本大使館に勤務していた本野盛一によるフランス語のテキストと、長谷川によるエングレーヴィングの挿絵が共鳴し、日本の伝統性と西洋文化が融合した近代挿絵本の傑作といえる。

長谷川潔 《仏訳『竹取物語』挿絵》 1934(1933)年 エングレーヴィング 町田市立国際版画美術館

長谷川の転機は、第二次世界大戦中だった。見慣れた一本の樹が不意に人間と同等に見えるようになり、「自分の絵は変わった」のだという。第四章では、それ以後の、日常にひそむ神秘を表現する静物画や風景画などを紹介する。エングレーヴィングで制作した銅版画が増加し、技術的な冴えも見られる。

長谷川潔 《コップに挿した枯れた野花》1950年 エングレーヴィング 町田市立国際版画美術館
長谷川潔 《アカリョムの前の草花(草花とアカリョム)》1969年 メゾチント 町田市立国際版画美術館

さらに長谷川は50年代末から60年代末まで、細粒な点刻で下地をつくり、漆黒のなかからモティーフを浮かび上がらせる「メゾチント」による静物画を多数制作した。オブジェや草花、小鳥などによって深遠な精神世界を探求した静物画で、長谷川の表現世界の到達点として位置づけられる。それらを集めたのが、第五章。第六章は最晩年の作品を展示。長谷川自身が、技法と表現の両面からそれまでの仕事を概観できるように構成した63年発行の版画集も紹介する。

長谷川潔《時 静物画》1969年 メゾチント 町田市立国際版画美術館

(読売新聞美術展ナビ編集班)

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