【プレビュー】「語ること」や「記述すること」の困難さと向き合う――「MOTアニュアル2022  私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」 東京都現代美術館で7月16日開幕

高川和也《CONSENSUS》2014年

「MOTアニュアル2022  私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」
会場:東京都現代美術館(東京都江東区三好4-1-1)
会期:2022年7月16日(土)~10月16日(日)
休館日:月曜休館、ただし7月18日、9月19日、10月10日は開館し、7月19日、9月20日、10月11日が休館。
アクセス:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口から徒歩9分、東西線木場駅3番出口から徒歩15分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口から徒歩13分、新宿線菊川駅A4出口から徒歩15分)
観覧料:一般1300円、大学生・専門学校生・65歳以上900円、中高生500円、小学生以下無料。
※最新情報は公式サイト(https://www.mot-art-museum.jp/)で確認を。

現代の表現の一側面を切り取り、何らかの問いかけや議論のきっかけを引き出すグループ展「MOTアニュアル」。それは最新の美術動向を紹介するだけでなく、一つの傾向にくくることができない美術作品のあり様を示す場でもある。18回目を迎える今回の展覧会では、そのような観点から、これまで美術館などでの紹介の機会は少なかったが、優れた実力を持ったアーティストに光をあてる。取り上げられるのは、大久保あり、工藤春香、高川和也、良知暁という4人のアーティストだ。

工藤春香《静かな湖畔の底から》2020年 展示風景

コロナ禍が続き、国際的な紛争が起こっている今。異なる背景を持つ人間同士が、そこから生まれる誤解や矛盾を自分のこととして捉えるにはどうすればいいのか。わかり合えない他者を受け止め、許すことはできるのか。言葉は文化を共有するための手段であると同時に、対立の要因となることもある。今回、アーティストたちが取り組むのは、語ることや記述することの困難さに向き合い、別の語りを模索することだ。

高川和也《ASK THE SELF》2015年

参加アーティストはそれぞれ、本展のための作品を制作している。高川和也は、ラッパーのFUNIなどの協力で、自身がラップに挑戦する新作映像を制作中。人間が感情を言葉で表した時、何を得ているのか、あるいは失っているのか。アーティスト自身の体験を記録したセルフドキュメンタリーとなる。

工藤春香《生きていたら見た風景》2017年 展示風景

工藤春香は、これまでの作品で旧優生保護法や相模原殺傷事件などを扱ってきた。今回は、その経験を下敷きにしながら、障害者支援施設を出て自立生活をする人への取材を交えた新作インスタレーションを行う。そこには、子育てをしながらアーティスト活動を続ける自身を含む、女性たちの歴史についての考察も重なってくるだろう。

大久保あり《I’m the Creator of this World, You’re One of the Materials Existing in the Universe(私は世界を司る あなたは宇宙に存在する要素)》2018年 展示風景

大久保ありは過去の13作品をモチーフにしたインスタレーションで、複数の物語と時間軸が交差する新たな物語を編纂する。自身の過去の作品を再構成することで、時間の組み換えや、語りの主体・客体の入れ替わりにより、ひとつの記述には常に異なる物語の可能性があることを伝える。

良知 暁《15:50》(「シボレート / schibboleth」における展示)2020-21年 (撮影:川村麻純)

良知暁は、1960年代にアメリカ、ルイジアナ州で行われた投票権をめぐるリテラシーテストで使われた一節を軸とする作品を展示予定。2020年に10年ぶりとなる個展で発表したものだ。読み書き発音などが恣意的な判別の装置として、目に見えない形で行われる差別をめぐる思索である作品を、美術館という公共空間で再現する。

大久保あり《パンに石を入れた 17 の理由》2013年 展示風景(撮影:畔上咲子)

今回展示される作品には、社会の中で語ることが忌避されがちな問題も含んでいる。しかし、その扱い方は、ニュースや評論とは違う。アーティスト自身が対象との接点を深め、価値観を揺り動かされる中から見出した物事が作品として表現されるのだ。物語や記号による抽象化を行いながら、自他の境界を越え、実世界の問題に触れようとする態度は、創作の持つ可能性を示すと同時に、歴史の中で忘れ去られていくことへの抵抗でもあるといえるだろう。

良知 暁「シボレート / schibboleth」のためのエフェメラ 2020-21年(撮影:川村麻純)

(読売新聞美術展ナビ編集班)

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