名作椅子をモチーフ 又吉直樹が書き下ろしストーリー 豪華出演陣も魅力 「WOWOWオリジナルドラマ 椅子」5月27日から放送・配信スタート

第3話に登場する名作椅子「ラ シェーズ」と又吉さん

「物言わぬ椅子」がもうひとりの“主役”

芸術性の高い「名作椅子」をモチーフに、芥川賞作家・又吉直樹がオリジナルストーリーを書き下ろしたオムニバスドラマ「WOWOWオリジナルドラマ 椅子」(全8話/第1話無料放送)が、5月27日(金)午後11時30分よりWOWOWで放送・配信スタートになります。吉岡里帆、モトーラ世理奈、石橋菜津美、黒木華という豪華な主役陣に負けず劣らず、物言わぬ椅子が存在感を発揮する不思議なテイストのドラマに仕上がっており、私たちの暮らしの中で「椅子」が持つ重みを再認識させる内容。インテリアやアートに関心のある方にお勧めのドラマです。

「触って座れる」椅子の特徴

松原弘志さん

企画、監督を担当した松原弘志さん(TBSスパークル)は「芸術性の高いインテリアは様々ありますが、椅子には『触って座れる』という際立った特徴があります。アートとしての美しさに加えて、ある種の官能性もあり、椅子をテーマにした映像作品を作ってみたら面白いだろう、と以前から考えていました」と言います。松原さんはEテレで黒島結菜さんが主演した名作照明のドラマ「ハルカの光」も企画・監督として携わり、こうした作品の実績がありました。このアイデアを、椅子をテーマにした雑誌を作るほど椅子好きで知られる又吉直樹さんに提案したところ、又吉さんも大いに興味を持ったそうです。

椅子の新しい魅力を引き出す

萩原健太郎さん

そこで『ストーリーのある50の名作椅子案内』などの著作で知られ、「ハルカの光」でも名作照明を監修した萩原健太郎さんに協力を依頼。萩原さんの案内で又吉さんに様々な名作椅子を見てもらう中で、ストーリーが徐々に固まっていったそうです。萩原さんは「名作椅子にまつわる製作までの背景のストーリーや、その作品の歴史的、文化史的な意義など、とにかくありったけの情報を又吉さんにお伝えしました」。そのうえで、萩原さんは「私たち専門家が椅子を扱う場合は、どうしても『美しい場所に置いて、美しく見せるにはどうしたらいいか』という似通ったものになりがち。又吉さんはそうした固定観念にとらわれず、情報を取捨選択して振り切った見方をしています。椅子の新たな魅力を発掘しているようで、さすだと思いました」と言います。

「椅子の持つ背景や特性、物語と関連」 又吉さん

又吉直樹さんは、視聴者へのメッセージとして「もともと椅子がすごく好きではありますが、今回物語を描くにあたり改めて椅子について調べて知った部分もたくさんありました。椅子のもつ背景や特性を物語と関連させていたり、着想を得ていたりする部分もあるので、椅子が好きな方がはその辺りも注目して頂けたらと思います」とコメントしています。

各話のストーリーと登場する名作椅子を紹介します。ミステリー、ホラー、ファンタジー、コメディ、ラブストーリーなど様々なタッチからなるオムニバスドラマ。各話で名作椅子が重要な役割を果たします。又吉さんもミステリアスな椅子店店主役として出演しています。

第1話「電球を替えたい」(名作椅子「No.14」)主演:吉岡里帆

カップルのいさかいを目撃した進(岩崎う大)は、うなだれている女性(吉岡里帆)に声をかける。引っ越ししたてで電球をひとりで交換できないという彼女に、進は持っている椅子(No.14)を貸すことになる。

「No.14」は、工業製品として大量生産を実現した初めての椅子。2億脚以上が作られたという近代椅子の出発点的名作。インテリア業界では「普遍的な価値を持つ作品」というイメージだが、又吉さんが見出したものは意外にも・・。

第2話「最高の日々」(名作椅子「スツール60」)主演:吉岡里帆

母親(銀粉蝶)に電話で近況を報告している良美(吉岡里帆)は華やかな日常を送っている様子。その話の端々に登場する、名前の読み方が同じ同級生・佳美(吉岡の二役)から、良美はある日突然、呼び出される。

1933年、アルヴァ・アアルトによってデザインされた不朽の名作。にせものが多いことでも有名だが、全体のプロポーションやディテールの違いで専門家は見抜くという。その要素がストーリーにも反映されている。

第3話「海へ」(名作椅子「ラ  シェーズ」)主演:モトーラ世理奈

親友・晴香(石井杏奈)の葬儀に出席したのち、沙耶(モトーラ世理奈)は、杏奈(堀田真由)、絵里(河合優実)とともに思い出に浸っている。晴香が小さな部屋に入りきらない椅子(ラ  シエーズ)を大切にしていたことを思い出す。亡くなる前に海を見に行きたいと言っていた晴香のために、沙耶たちがしたこととは…。

1948年に、イームズ夫妻が発表したチェア。1990年に復刻作品として製品化され、人気作になった。「こうした名作椅子を屋外に運ぶ、という発想はインテリア業界からは出てこない。又吉さんならではの発想力」と萩原さん。

第4話「オモイデ」(名作椅子「Y-チェア」主演:モトーラ世理奈

美容院で見習いとして働きだした那月(モトーラ世理奈)は、学生時代からの彼氏・相太(吉村界人)とそれぞれの夢を追う日々。ある日、店長に、店に置いてあるおしゃれな椅子(Y-チェア)をプレゼントしてくれたダンディな俳優(山中聡)を紹介される。

アームと背もたれを一体にした、斬新なフォルムの名作として知られる。「Y字型」の背もたれの形状から、Y-チェアと呼ばれるようになる。

第5話「まぼろしの」(名作椅子「ルイ・ゴースト」)主演:石橋菜津美

町の工場で働く加奈(石橋菜津美)は、ずっとほしかった椅子(ルイ・ゴースト)を自宅に運んでもらう。そこへ突然、見知らぬ小学生・千絵(白鳥玉季)が借り物競争のためにおしゃれな椅子を貸してほしい、とやってくる。

フランスのルイ15世様式のデザインを再現しており、名称は「ルイ15世のお化け」という意味。ポリカーボネート一体成型で、クラシックなデザインをモダンにアレンジしたセンスが光る。

第6話「雨が降っている」(名作椅子「ネイビーチェア」)主演:石橋菜津美

小さなカフェを営んでいた夫婦、泉(石橋菜津美)と優太(中村蒼)。雨でも客足が途絶えないよう店にはアメリカ海軍の要請を受けて開発した耐水性のある椅子(ネイビーチェア)を並べている。いつの頃からか、店の経営がうまくいかなくなったことから、ふたりの関係がねじれていく。

用途に合わせて軽量で磁力がなく、さびにくくて耐久性にも優れた名作。

第7話「人間達の声がする」(名作椅子「A-チェア」)主演:黒木華

赤い服に身を包んだ謎の美女(黒木華)が、ひとり暇を持て余していた雇われ店長・達三(ムロツヨシ)のいるバー「人間達の声がする」にやってくる。女は突然、自分の作品なのか現代詩を朗読し始める。

スチールに亜鉛メッキを施し、軽やかなデザインでパリのカフェなどでよく見かけられるという。

第8話「椅子を取りに行く」(名作椅子「アリンコチェア」)主演:黒木華

人気YouTuberの妹・陽子(穂志もえか)と同居するフリーターの姉・梢(黒木華)。無断で自分の彼氏の徹(奥野瑛太)を連れ込んだりする陽子の態度に耐えかねて、梢は家を出ていってしまう。ふと我に返り、自分が買った椅子(アリンコチェア)だけは取り戻したいと留守宅に忍び込む梢だが・・。

1952年にアルネ・ヤコブセンによりデザインされた。繊細で芸術的な外観が印象的。座面と背もたれは9枚の薄い積層合板からできており、強度もじゅうぶん。

本物に出会うきっかけに

完成したドラマ8編について、松原さんは「こうしたアートを扱ったドラマは、型どおりに作品に関する知識をお伝えする形で終わることが多いですが、今回は全部後味が違い、平凡ではありません。余韻も含めて味わってほしいです」と完成度の高さに自信を見せます。一方、萩原さんは「椅子なんて座ればいい、と軽く受け止められがちですが、実際はとても深い世界で、本物と偽物は全く違いますし、芸術性も高いです。ドラマをきっかけに、椅子に関心を持つ人が増えてくれたらうれしいです」と話していました。

【作品情報】

「WOWOWオリジナルドラマ 椅子」
5月27日(金)放送・配信スタート 毎週金曜 午後11:30 (全8話/第1話無料放送)
第1話無料放送【WOWOWプライム】/ 無料トライアル実施中【WOWOWオンデマンド】
出演:吉岡里帆 モトーラ世理奈 石橋菜津美 黒木華 ほか
作:又吉直樹(『火花』芥川賞受賞作、『劇場』)
企画・プロデュース:射場好昭
企画:松原弘志 企画協力:荒木伸二
椅子監修:萩原健太郎
監督:松原弘志 長澤佳也
撮影:小林基己 加藤航平 照明:中村裕樹 渡辺昌 録音:豊田真一
デザイナー:高渕勇人
スタイリスト:BABYMIX ヘアメイク:中村了太
助監督:石井純
オープニングテーマ:清水靖晃 音楽:世武裕子
プロデューサー:小川直彦 長澤佳也 松原弘志
制作協力:TBSスパークル 製作著作:WOWOW
番組ホームページ(https://www.wowow.co.jp/drama/original/isu/

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)