【レビュー】先人の女性作家に想い重ね 「その光に色を見る 流麻二果」 ポーラ ミュージアム アネックス

 

その光に色を見る 流 麻二果 Spectrum of Vivid Moment   Manika Nagare
会場:ポーラ ミュージアム アネックス(東京都中央区銀座1-7-7 POLA銀座ビル3階)
会期:2022年4月22日(金)~5月29日(日)
会期中無休 入場無料 11:00ー19:00(入場は18:30まで)
アクセス:東京メトロ有楽町線「銀座一丁目駅」7番出口すぐ、東京メトロ銀座線・丸の内線・日比谷線「銀座駅」A9番出口徒歩6分
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
詳しくは※同館HP(https://www.po-holdings.co.jp/m-annex/)で確認を。

「色彩の作家」と呼ばれる流麻二果さん。日本では4年ぶりとなる個展が東京・銀座のポーラ  ミュージアム  アネックスで開かれています。

絵具を幾層にも塗り重ねて色彩豊かな作品を制作する作家です。今回は新作を含めて約15点を展示しています。鮮やかで流れるような独特の質感が見事です。

流麻二果「雪はなぜ白い」2022年
流麻二果「言外の意味」2022年

近年は、伝統的な絵画における色彩を丁寧に追体験しながら、新たな解釈と再構成を行うシリーズ「色の跡」に取り組んでいます。その中でも今回は「女性作家の色の跡」シリーズが注目です。きっかけとなったのは、2020年に練馬区立美術館で開催された「Re Construction 再構築」展で、松岡映丘の妻、松岡静野が描いた「舞妓」という作品に寄せて、「色の跡」を制作したことでした。

松岡静野「舞妓」 練馬区立美術館蔵(練馬区立美術館で2020年に開催された「Re Consutruction 再構築」展で撮影)
流麻二果《色の跡:松岡静野「舞妓」》

松岡静野もかつては絵の道を目指していましたが、夫となった映丘を支えるべく筆を折ったとみられ、現存する作品はほとんどないそうです。流さんは、近代女性作家たちが家庭を優先するために制作を諦めたり、女性であることで活躍の機会が少なかったりした状況について、現代の女性にも通じるものがある、と考えました。流さんは「男性優位の日本の美術史の中で、取り上げられる機会の少なかった過去の女性作家が、現代や未来に生きていたら、作家としてどのような活動をしたのだろうかと想像します。現代に生きる私が追体験した作品を通して、鑑賞者の想像を過去の問いへとつなげ、誰にとっても選択肢の多い生き方ができる未来につなげていきたい」と述べています。

流麻二果《色の跡:井上照子「作品B」》2022年

今回は4人の女性作家の作品について「色の跡」を制作。井上照子(1911-1995)は画家の井上長三郎の妻。この世代の女性作家としては珍しく早くから抽象を手掛け、夫とサポートし合い、亡くなるまで制作を続けました。各「色の跡」の作品については、会場で配布されるハンドアウトで創作の元になった女性作家の作品が紹介されています。今回の鑑賞を通じて、女性アーティストの歩みに思いを寄せる機会にしたいものです。

会場のある「POLA銀座ビル」1階のショーウインドーにも、流さん制作のインスタレーションが設置されています。中央通りを行きかう人の眼を引いていました。こちらもぜひご覧ください。

流麻二果(ながれ・まにか):1975年生まれ。女子美術大学芸術学部絵画科洋画専攻卒。2002年文化庁新進芸術家在外研修員(アメリカ)、2004年ポーラ美術振興財団在外研修員(アメリカ・トルコ)。パブリックアート、ファッションブランドとのコラボレーションや、ダンスパフォーマンスの美術・衣裳、建築空間の色彩監修など幅広く活動。日本の伝統色をアップデートするプロジェクト「日本の色」、子どもたちにアートを届ける非営利団体「一時画伯」発起人。https://manikanagare.com/

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)