【レビュー】奇妙でカワイイ、ふくよかな異世界――Bunkamura ザ・ミュージアムで「ボテロ展 ふくよかな魔法」

会場風景

「ボテロ展 ふくよかな魔法」
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂2-24-1 B1F)
会期:2022年4月29日(金・祝)~7月3日(日)
アクセス:JR渋谷駅から徒歩7分、東京メトロ銀座線、京王井の頭線渋谷駅から徒歩7分、東急東横線・田園都市線、東京メトロ半蔵門線・副都心線渋谷駅A2出口から徒歩5分
入館料:一般1800円、大学・高校生1100円、中学・小学生800円。
※詳細情報は公式サイト(www.ntv.co.jp/botero2022/)、公式ツイッター(@botero2022)で確認を。

たった一度、それも一か月弱の滞在でこんなことを言うのはおこがましいかもしれないが、南米はとても刺激的なところである。北半球、特に東アジアに住んでいるわれわれのそれとは、ちょっとずつ「違った世界」が広がっているからだ。小鳥のさえずりが違う、マーケットで売っている食べ物が違う。山に生えている草花、川に泳いでいる魚、自然の風物も何かが違う。

展示風景

そういう所で住んでいると、人間の感覚もちょっと変わってくるのだろう。南米の芸術は、美術だけでなく文学や音楽なども含めてだが、北米の作品とはひと味違う。何しろガルシア・マルケスの『百年の孤独』では、〈四年十一か月と二日〉雨が降り続いた後に、〈十年間の干魃〉が始まってしまうのだ。ホルヘ・ルイス・ボルヘス、ホセ・ドノソ、アレッホ・カルペンティエール……。不思議な小説を書く作家がそろっている。

フェルナンド・ボテロ《楽器》 1998年 油彩/カンヴァス

コロンビア出身のフェルナンド・ボテロ(1932~)の絵を見ていると、そんな南米の作家たち、「マジック・リアリズム」といわれる諸作品を思い出す。人物も動物も、楽器や日用品さえもが膨らんでいるボテロの世作品群、そこからは、官能、ユーモア、アイロニーなどのニュアンスが複雑に絡み合い、独特の世界を作り上げている。生誕90年の今年、日本国内では26年ぶりとなる今回の大規模絵画展は、油彩ならびに水彩・素描など70点の作品が紹介されており、ボテロの魅力が堪能できる。

フェルナンド・ボテロ 《コロンビアの聖母》 1992年 油彩/カンヴァス

とにかく大きい。たぶん、ボテロを観たことのない人からすると、想像の1.5倍ぐらいあらゆるものが膨らんでいる。作品自体のサイズも大きい。画面の色調は、あくまで明るい。「光が濃くなる季節こそ、影が濃くなる」といったのは、野外演劇を得意とした劇団維新派の演出家、松本雄吉(19462016)だっただろうか。あっけらかんとした画面の裏に、いろいろなモノが蠢いているような気がするのである。「丸い」「大きい」「明るい」といった要素が組み合わさって、奇妙な異化効果を呼んでいる。

フェルナンド・ボテロ《モナ・リザの横顔》 2020年 油彩/カンヴァス

その異化効果はユーモラスであると同時に、存在を客体化し、批評精神を呼び起こす源にもなる。モナ・リザ、マリー・アントワネット、キリスト教の聖人たち……、丸く大きくカラフルに造型するボテロの「魔法」で、過去のアイコンたちは「権威」や「伝統」といった外的な意匠をはぎとられ、存在そのものがむきだしになるような感覚が生まれてくるのである。強く自己主張をするわけではないが、その技巧によって自然に自分の世界に観覧者を引き込んでいく。作品を観れば観るほど、ボテロの魅力が心に染みてくる。

フェルナンド・ボテロ《象》 2007年 油彩/カンヴァス
フェルナンド・ボテロ《バルコニーから落ちる女》 1994年 パステル/紙

「ボリュームを通して、生命の高揚感が生み出されるが、デフォルメにより芸術には不均衡が生じる。それは再構築されなければならないが、一貫した様式によってのみ、デフォルメは自然となる」とボテロはいう。「芸術とは、同じ事であっても、異なる方法で表す可能性である」ともいう。カラフルな陰影の世界といえば「死者の日」で有名なメキシコを思い出すが、ボテロはメキシコの芸術からも大きな影響を受けているようだ。ウェットな情緒に包まれた日本画とは正反対の、その作品群。「世界はやっぱり広いな」と実感させてくれる展覧会である。

(事業局専門委員 田中聡)

フェルナンド・ボテロ 《踊る人たち》 2002年 パステル/紙

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