【レビュー】写真で見る「かたち」と「こころ」――アーティゾン美術館で「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策」 7月10日まで

展示風景

「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策」
会場:アーティゾン美術館(東京都中央区京橋1-7-2)
会期:2022年4月29日(金、祝)~7月10日(日)
休館日:月曜日
アクセス:JR東京駅(八重洲中央口)、東京メトロ銀座線・京橋駅(6番、7番出口)、東京メトロ・銀座線/東西線/都営浅草線・日本橋駅(B1出口)から徒歩5分
入館料:一般1500円、大学生・専門学校生・高校生無料(要予約)、中学生以下無料ほか。日時指定予約制
※料金などの詳細情報は、公式HP(https://www.artizon.museum/)で確認を。

アーティゾン美術館が年1回ペースで開いている「ジャム・セッション」シリーズの最新展覧会である。アーティストと学芸員が共同して、石橋財団コレクションの所蔵品にインスパイアされた作品を制作したり、コレクションとアーティストの作品を並べすることで新しい視点を模索したり。もともと「ジャム・セッション」とは、ミュージシャン同士がテーマを決めてアドリブ交換することで新たな音楽を生み出すこと。今回のアートのセッションでは、どんな「化学反応」が起きて、どんなグルーヴが生み出されるのか――。

柴田敏雄 《山形県尾花沢市》2018年 作家蔵

「写真と絵画―セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策」と題された今回の展覧会では、1949年生まれの柴田、1963年生まれの鈴木、2人のベテラン写真家が「主人公」である。19世紀に写真が「誕生」して以来、絵画は印象派をひとつの「起点」として伝統的な表現から変革し続けてきた。一方の写真も、記録目的ではない「表現」を21世紀の現在まで模索し続けている。写真と絵画、その表現を探る試みが、今回のジャム・セッション。セッションのもう一人の「主役」は、2人が活動初期から関心を寄せていたという画家・セザンヌである。

鈴木理策 《サンサシオン 09,C-58》2009年 作家蔵

展覧会は6つのセクションで構成されている。このうちの4セクションでは柴田、鈴木の作品が紹介され、コレクションとのセッションが繰り広げられる。他の2セクションは柴田、鈴木の作品とセザンヌ、雪舟との共演。全部で280点超の作品で構成される展示はボリュームたっぷりだ。

柴田敏雄 《山梨県南巨摩郡身延町》 2021年 作家蔵

柴田の写真で特徴的なのは、自然の中の人工的な建造物の中から「かたち」を見いだしていくことだ。直線や曲線、点の集合、フラクタル構造のような同じモチーフの繰り返し、様々な風景から切り出されていくのは、幾何学的である種無機質な「かたち」である。「自然のすべてのものは、球と円筒と円錐に基づいて肉付けされている」。展覧会の準備中、柴田はしばしばこのセザンヌの言葉を引用していたという。なるほど、その作品を続けて見ていくと、柴田が何を目指しているのかが見えてくるような気がする。

ピート・モンドリアン 《砂丘》 1909年 石橋財団アーティゾン美術館蔵
柴田敏雄 《栃木県日光市》 2013年 作家蔵

並べて展示されているのは、モンドリアンの《砂丘》など。モンドリアンも「かたち」にこだわり続けた画家だ。個人的にちょっと感じたのは、柴田の写真は「葛飾北斎の絵に似たところがある」ということ。《栃木県日光市》で写されている水の流れなど、北斎の《諸国瀧廻り》シリーズのようだ。そういえば北斎の風景画も、直線や曲線、円など、幾何学的なモチーフであふれている。

鈴木理策 《ジヴェルニー 16, G-41》 2016年 作家蔵

柴田の写真が「三人称」を想起させるのに対し、「一人称」を感じさせるのが鈴木の写真だ。モネの《睡蓮》と並べられている鈴木の写真は、風景のすべてを映し出してはいない。焦点が合っているところ、合っていないところがはっきりしているのである。「そこに何があるのか」ではなく、重要なのは「そこにある何を見ているのか」。現実そのものでなく現実を見る眼、「こころ」の存在を強く意識した写真だと思うのである。

ピエール・ボナール 《桃》 1920年 石橋財団アーティゾン美術館蔵
鈴木理策 《Still Life 21, ST-127》 2021年 作家蔵

アメリカのSF/ミステリー作家フレデリック・ブラウンの短編「叫べ、沈黙よ」の中にこんな一節がある。

〈森の奥で人知れず倒れた木は、音を立てなかったと言えるのか。聞く耳のないところに音はあるのか〉(創元推理文庫、越前敏弥訳『真っ白な嘘』より)

聞く人がいない「音」に意味があるのかないのか。「音」を「リアル」とか「世界」とかいう言葉に置き換えると、この問いかけは、鈴木が写真で表現しようとしていることと、とても近いことを言っているように思える。

柴田敏雄 《栃木県那須塩原市》 2020年 作家蔵
鈴木理策 《知覚の感光板 18, PS-434》 2018年 作家蔵

鈴木が自分の写真と並べたのは、モネ、クールベ、ボナールなど。「リアル」をどう捉え、どう表現するべきか、それを模索し続けた画家たち。写真がすでにある時代、どのような「こころ」で世界を見て、それをどのような「かたち」で描くのか。それを強く意識した画家の先駆け・象徴がセザンヌなのだろう。そのセザンヌを真ん中に置いて観る、柴田と鈴木という対照的な写真家の作品。並んで展示されている雪舟の絵を見ていると、時代を超えて「こころ」と「かたち」は「世界を描く」人たちにとっての共通テーマなのだとも思えてくる。今回の「ジャム・セッション」はいろいろな「音」が鳴っている。そして、いろいろな角度から楽しめるのである。

(事業局専門委員 田中聡)

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