【レビュー】さすが京都、豊かな土壌を実感――福田美術館で企画展「やっぱり京都が好き 〜栖鳳、松園ら京を愛した画家たち」

竹内栖鳳《金獅図》福田美術館(前期展示)

企画展「やっぱり京都が好き 〜栖鳳、松園ら京を愛した画家たち」
会場:福田美術館(京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16)
会期:2022年4月23日(土)~7月3日(日)
休館日:火曜日、ゴールデンウィークは休まず開館し、5月10、11日が休館
アクセス:JR山陰線嵯峨嵐山駅から徒歩12分、阪急嵐山線嵐山駅から徒歩11分、京福電鉄嵐山駅から徒歩4分
入館料:一般・大学生1300円、高校生700円、小・中学生400円、障害者と介添え人1人700円、幼児無料。
詳しくは※最新情報は、同館HP(https://fukuda-art-museum.jp/)で確認を。
竹内栖鳳 《雨景・雪景図屏風》 福田美術館(通期展示)

最初の展示室に入ってまず眼に入るのは、竹内栖鳳の作品である。柔らかな光に包まれた《春の海》、野性の勢いにあふれる《金獅図》・・・・・・、六曲一双の《雨景・雪景図屏風》は、まさに「幽玄の世界」。金地に墨で描かれた雪景色は、大胆に余白が取られており、時が止まったような静寂さが強く印象に残るのだ。ここの展示テーマは「京に行き、京に集う」。さらりと短時間で描いたような《小槌に宝珠図》の伊藤若冲をはじめ、円山応挙、西村五雲、上村松園――。京都に居を構え、そこで制作を続けた作家たちの作品が集められているのである。

竹内栖鳳《金獅図》福田美術館(前期展示)

さすがは京都、そう感じさせるラインアップである。緻密な描写の応挙、美人画の松園、風景画を得意とした小野竹喬。ふつうの展覧会ならば、どの作品を選んでも企画の目玉になりそうだ。「やっぱり京都が好き」と名付けられた今回の企画展。改めて、この古都の奥深さ、懐の深さを感じさせてくれるのである。さりげなく印象に残るのが、西村五雲の《小原女》。物売りの女性が運ぶ品々の隣にちょこんといる一羽のスズメが、とてもいい味だ。松園の美人画は、初期作品の《人形遣之図》と晩年の《しぐれ》が近接して展示されている。物語性の強い初期、内面の美を一点に凝縮したような晩年。「どちらも見応えのある作品だなあ」と思う。

西村五雲《小原女》福田美術館蔵(前期展示)
上村松園《しぐれ》福田美術館蔵(前期展示)

次の展示室のテーマは、「京を旅する」。観光地としてもメジャーな京都には、様々な見どころがある。豊かな山水の風景、歴史あふれる寺社仏閣。池田遙邨の《嵐山薫風》はこの美術館が立地する嵐山の景色を描いたもの。眼前に松の枝を置き、その枝越しに山を見て、歌川広重を思わせる構図である。原在中、岸連山の作品がさりげなく並んでいるのも楽しい。どこを切っても絵になる場所を、何を描いても一流の人たちが絵にする。そりゃあ、見応えのある作品もそろうよなあ。

池田遙邨《嵐山薫風》福田美術館蔵(前期展示)
下村観山《鳳凰堂》福田美術館蔵(後期展示)

最後の展示室は「京都に暮らせば」。神楽や壬生狂言など、京都ならではの芸能や風俗などが描かれている。そしてラスト、おしまいのおしまいに展示されているのが「とらや」や「くりや」など老舗の包装紙の意匠だ。「とらや」のそれは富岡鉄斎、「くりや」は山元春挙のデザイン。名匠の手による図案が数々の名店で受け継がれ、今も人々の目を楽しませる。京都という街の「豊かな土壌」をこれほど表しているものはない、と思うのである。

(事業局専門委員 田中聡)

今も使われている「とらや」の包装紙は、富岡鉄斎のデザインだ。