「カースティ・レイ 静けさの地平」富山市ガラス美術館で、6月26日まで

《静なる存在Ⅳ》2019

カースティ・レイ 静けさの地平
会場:富山市ガラス美術館(富山市西町5-1)
会期:2022年3月12日(土)~6月26日(日)
休館日:第1・第3水曜日(5月4日(祝)、6月1日は開館)、5月11日(水)、6月8日(水)
開館時間:9時30分~18時(金・土曜日は20時まで、入場は閉場の30分前まで)
入場料:一般1200円、大学生1000円、高校生以下無料
詳しくは展覧会公式サイト

豪州のキャンベラを拠点にガラスを素材とした作品やインスタレーションを創作してきたカースティ・レイ(1955~)の過去最大で日本初の個展です。

レイは、故郷のキャンベラ周辺の丘陵や自然公園を歩くことを通じて、現代の暮らしのなかで希薄になりがちな「場所とつながる」という感覚を探求してきました。約40年に及ぶ創作と思索の跡を52点の作品で振り返っています。

《いつも泳いでいた―川、湖、池》2013

入り口で出迎えてくれるのは、《いつも泳いでいた―川、湖、池》。家族で水辺に出かけた思い出から創作したそうです。そよ風に揺れるレースのように軽やかに見えますが、硬い板ガラスを窯に入れて熱したり、重力を加えて形作る「折りガラス」という手法を使っています。

《知る》2016

同じモチーフの作品も多く、《知る》の椅子にかかったガラスは本当に柔らかい表情を見せています。レイは山歩きした時に着ていたジャケットを椅子の背もたれにかけたままにして、自然の余韻を家の中でも味わっていたと言います。

《また別の日》2012

《また別の日》では、使ったタオルが水の色に染まったイメージを表しているのでしょうか。未使用のタオルとのコントラストが印象的です。

《草の納屋》1998
《耕地をととのえる》2003
《雨を待つ》2017

農家だったことから、納屋や農機具をテーマにした作品も目を引きます。《雨を待つ》は農具と板ガラスを組み合わせています。農地を耕した後に、雨を待つ時間を表しているそうです。

《傾斜地の早朝》2004

《傾斜地の早朝》は2003年にキャンベラ近郊を焼いた大規模な森林火災からも題材を得ています。燃えて幹だけが残った黒い真っ直ぐな木々からインスピレーションを受け、再生への願いを込めました。

《結び》2001

レイは豪州国内はもとより米国でも個展が開かれ、英国やデンマークにも作品が収蔵されています。海外から戻ると、地元をモチーフにした作品を手がけました。《結び》の中央部分は緑と空のつながりを表し、ガラス表面の凹凸は光を受けると水面や水中の気泡のようにも見えます。キャンベラに戻ると、地元とのつながり、大自然への思いを強くしたのでしょう。

《リフレクト―開かれた誘い》2021

《リフレクト―開かれた誘い》は世界初公開のインスタレーションです。コロナ禍で厳しい行動制限が課されたなか、レイは地域の自然を撮影しました。

《リフレクト―開かれた誘い》から

しかし、そこはガラス作家。ただシャッターを押しただけではありません。レンズの前にガラスを置いて、そのガラスへの写りこみも重ねています。さらに展示作品の前にもガラスを配して、鑑賞者やほかの作品の映り込む多層で開かれた世界への思いを込めているように感じました。

今回の展示を担当した学芸員の棚田早紀さんは「前へ前へという世界の中、立ち止まって考える尊さや、静けさから広がる視野や世界を感じていただければ」と話しています。GWも少なくなりましたが、ゆったりとした気持ちで鑑賞すれば、日常とは違う世界が広がって見えるかもしれません。(読売新聞美術展ナビ編集班・若水浩)