日本初!4分野の文化財の修復作業現場を通年公開する「なら歴史芸術文化村」がオープン

なら歴史芸術文化村で公開されている仏像を修復する現場

美術館や博物館で展示されている文化財を鑑賞した時に、「なぜ? 造られたのだろう?」「どうやって造られたのだろう?」「どこに注目して見たら良いのだろう?」など、疑問が生まれた瞬間はありませんか? ひとつの文化財(作品)の謎が解けたら、自ずとそのほかの展示作品の見方も変わってくるので、できればその場で疑問を解決したいもの。「なぜ?」が生まれたその瞬間に専門家(学芸員)に聞くことができたら……。
そんな希望が叶う場が2022年3月21日、文化財の宝庫である奈良県内にオープンしました。(ライター・いずみゆか)

「なぜ?」と「知る」を楽しむ複合施設

3月にオープンした「なら歴史芸術文化村」

「なら歴史芸術文化村」(奈良県天理市)は、道の駅として登録された4つの棟(文化財修復・展示棟、芸術文化体験棟、情報発信棟、交流にぎわい棟)とホテル(フェアフィールド・バイ・マリオット・奈良天理の山の辺の道)を併設した大規模複合施設。コンセプトは、「『なぜ?』が芽生える。『知る』を楽しむ」で、奈良県の歴史・芸術・文化を五感で感じ、対話や体験を通して気づきを広げ、新しいことを知る楽しさへとつなげてほしいと造られました。

4分野の文化財修復の作業現場を無料で通年公開

なかでも、「文化財修復・展示棟」(観覧無料)は、日本初の「仏像等彫刻」、「絵画・書跡等」、「歴史的建造物」、「考古遺物」の4分野で文化財の修復作業現場が通年公開されている点が注目です。学芸員が交代で修理を解説し、観覧者の「なぜ?」にその場で答える対話型鑑賞スタイルが取り入れられています。

「なら歴史芸術文化村」の文化財修復・展示棟

通常は1人ですが、取材のためにこの日は、同文化村の3人の学芸員に実際にそれぞれ案内してもらいました。

4つの分野の修復工房は、ガラス張りでそれぞれの部屋に分かれており、常時見学が可能(土日祝は修理技術者が不在。平日でも不在の場合あり)です。

「歴史的建造物」の修復の様子
「考古遺物」の修復の様子

もっと修復を間近で、そして疑問にも答えてもらいたいと思ったら、1日1回午後2時30分から約40分間おこなわれる修復工房見学ツアー(事前予約制/10人程度で先着順)に申し込みをしてみましょう。
その時だけ入ることができる専用解説ルームで、学芸員と対話しながら修復作業の手元まで見ることができます。
「基本的にひとつの文化財の1から10まで修復のすべてをここでおこなっていきます。修復には3年くらいかかかるので、訪れる度に異なる工程の修復作業を見ることができます」と中井夏帆学芸員。「ただ解説するだけでなく、双方向で質問のやり取りをするように案内します」と説明します。

文化財に関する用語は、大人でも難解な表現が使用されることがあります。今まで、予備知識なく訪れた博物館や資料館で展示キャプションを読みながら、「?」と思った経験がある方にとっては、実際のモノや現場を見ながら、専門用語をかみ砕いて説明してもらうと「あぁ、そうか!なるほど」と理解が深まるはず。
奈良県内の文化財に焦点を当てているため、「修復されていた埴輪が出土した古墳を実際に見に行ってみよう」「修復されていた仏像が安置されているお寺を訪ねてみよう」という気持ちも湧いてくるかもしれません。

長期間の修復の工程を「見て知る」

修復工程を説明するパネル展示(解説ルーム内)
修復工房見学ツアーに参加するとここまで近くで見られる。絵画修復前の事前調査の様子

続いて絵画が専門の萩谷みどり学芸員と仏像が専門の竹下繭子学芸員にもそれぞれ案内してもらいました。

絵画修復に欠かせない「補彩」について説明する萩谷学芸員

――絵画修復の工程なかで一番の見どころは?

萩谷学芸員「現在の絵画修理では、失われた部分を描き足すことを行いません。ただ補彩ほさいといって欠損した部分に新たに補った絹に自然な色を補うことで、残っている絵がより前に出てきて見やすくなります。絵画の修理ではそこが特に注目していただきたいポイントのひとつです。もちろん剥落した箇所を糊で抑えたりなどその他の工程もたくさんあるのですが、補彩をすることによって残っている絵画が生きてくる点が魅力だと思います」

絵画修復の詳細が分かる映像展示

作業風景とともに映像で修復の全工程が分かるようになっており、その映像を観ると確かに補彩で元の絵が浮き上がって見え、より絵画がクリアになったように見えます。

――修復のすべての工程とはどこからどこまで?

竹下学芸員「文化財をお預かりするところから、文字通りすべてを指します。奈良県内に修復工房と文化財収蔵庫が新たに増えたことになります」

――今見ている仏像はどのような修復作業がされているのか?

解説ルームから見た仏像修復の様子

竹下学芸員「修理着工前の調査のため、現状の記録を取っているところです。修復の工程は長く、何年もかかるので、修復作業をピンポイントで見ても分かりにくいと思います。今後は、工程ごとに撮影して、その映像も流す予定です。文化財を後世へ伝えていくのは大変なんだということも知ってほしいです」

施設内に展示スペース(展示会場)を設けているため、修理が終わった文化財を修理工程と一緒にお披露目できるのも興味深い点です。修理前、修理中、修理後のすべてを知ることができるのが、この施設の最大の特徴。

年に数回も展示内容が替わり、展示作品への疑問に学芸員がその場で答えてくれます。さらにレプリカ展示を撮影したり、古墳内のVR体験ができたりとまさに「文化財を体感する施設」です。

開村記念特別展「やまのべの文化財」(4月17日まで)で展示されていた長岳寺(奈良県天理市)の大地獄絵図(伝狩野山楽筆)。毎年、10月23日から11月30日まで長岳寺本堂にてこの図が掛けられ住職による絵解きがおこなわれる

(ライター・いずみゆか)

4月29日から6月19日まで、第1回企画展「観音のいます地 三輪と初瀬」が開かれる。観覧無料。なら歴史芸術文化村の公式サイトはこちら