「自分の身体を通ってきたもの、を発信する」 山城知佳子さんインタビュー 「Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022 受賞記念展」② 東京都現代美術館

山城知佳子 ⒸRyudai Takano

「Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022 受賞記念展」の受賞者インタビュー、藤井光さん(→藤井さんの記事)に続いてもうひとりの受賞者である山城知佳子さんです。映像作家、美術家として近年、目覚ましい活躍の山城さん。その作品には、出身地である沖縄で培った様々な経験や記憶、あるいは先人から継承してきたものをベースに、外部へと向かう力強いエネルギーに満ちています。そのお話からは「自分の身体を通ってきたものを発信する」ということへの強い信念を感じます。藤井さん同様、戦争への思いも創作の上で大きな動機になっています。(聞き手・読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

Q 今回の記念展に先立ち、2021年度芸術選奨の美術部門で文部科学大臣新人賞を受賞したことが発表されました。

A 地元メディアを含めた沖縄の人たちがとても喜んでくれて、むしろ私がびっくりしました。作品を通じて取り組んでいることが、本土の人にもしっかり届いているんだね、と受け止めてくれました。

東京都現代美術館の展示会場

戦争を意識した展示に

Q 今回の展示は《チンビン・ウェスタン 家族の表象》という2019年に制作された映像作品からスタートします。辺野古で建設中の米軍基地へ土砂を運ぶ山地周辺の集落を舞台に、二つの家族が登場します。家族を支えるために基地建設に関わる仕事に従事する複雑な心境や、開発による環境破壊で、急激に変化する風景に直面する状況などが表現されています。今回の戦争は展示に影響がありましたか。

《チンビン・ウェスタン 家族の表象》シングルチャンネル・ヴィデオ、32分、2019年

A 可動壁に穴をあけたのは、モニター内の映像に映る窓と響き合うようにしました。モニターに流れているのは、瓦礫が散乱した廃屋のような建物でその中に息を呑んで潜んでいる人の目線のような映像です。その映像からは空爆音が鳴り響いています。鑑賞者は展示空間の中でモニターを通して窓の映像を見ているうちに、展示室に施された窓に気づいたとき、自分のいる場所も映像内の部屋とつながっているように感じられるようにしました。

戦争を経験した世代が新しい地平に、というイメージ

Q 続く《彼方(Anata)》という新作は、波打ち際に佇む老若男女の姿が印象的です。静謐で、神秘的なものすら感じました。お年寄りの登場人物の表情が目を引きました。

《彼方(Anata)》8面マルチチャンネル・インスタレーション、ループ、2022年

A 私の父親が認知症の初期症状が見られるようになって、年相応ではありますが物忘れが多くなってきました。また、徘徊とまでは言いませんが、本人は家に閉じこもっているよりは、とよくバスに乗って遠出するようになり、家族は毎日、父が無事に帰ってくるのか心配しています。これまでは政治活動にも参加してきた人で、沖縄のことを語る時には米軍基地の問題や、「あそこは米軍の核兵器があった場所なんだよ」というように、まず政治や軍事の文脈で島を見てきました。

Q 沖縄の方としては普通のことですね。

A ところがそんな父が、今は沖縄のことを純粋に風景として語るのです。私が「お父さん、昔はここで基地の話をしてたよね」と水を向けても、「そうだったかなあ」で終わってしまう。家の近所にも新しい道がどんどんできて風景が変わってしまって、それが美しいとはあまり思えないのですが、父は「綺麗だね」と風景を楽しんでいるのです。今、新しい見方で世界を感じているのか、と思うと、感動的なものがありました。父に限定するのではなくて、そういうものの見え方がする人がきっと沖縄の高齢者にはいるだろうなあ、と。

地上戦という壮絶な経験をした世代で、いまだに誰にも打ち明けられない悲惨な経験もしている方も多い。そういう人たちが、新しい地平に向けて歩いていくイメージ。そんなことが《彼方(Anata)》という作品の制作の背景にあります。

戦争の記憶の継承、にこだわり

Q 続いて《肉屋の女》という大掛かりな映像作品です。米軍基地敷地内で、地主が農地として使用することが黙認されている「黙認耕作地」が舞台。そこにある闇市の肉屋に労働者が肉を求めてやってきます。様々な解釈が可能な難解な作品ですが、映像に力があってぐいぐい惹きつけられます。

《肉屋の女》3面マルチチャンネル・インスタレーション、21分15秒、2012年

A 10年前発表した時は、沖縄戦の継承をテーマにした作品、とはっきり言わなかったのですが、今回はそういう流れが読める構成にしました。なぜ《肉》かといえば、他者の記憶を飲み込んだあと、体内に滞留する死者たちの声が充満してきて、記憶の声に肉がついてきて、体の内側から死者の肉が迫ってくる、というようなイメージがあったのです。私にとって戦争の記憶を継承する試みは、証言を繰り返し聞いているうちに、脳裏に浮かぶ光景や証言から触発されたイメージを映像化して物語ることでした。

Q 山城さんの作品といえば、生まれ育った沖縄の風土の中でご自身が身をもって感じたことや、リアリティへのこだわりが強い印象があります。

A 《肉屋の女》の撮影方法は、構成をガチガチに決めて撮るのではなく、場面設定だけをしてその場であったアクシデントも含めて撮る、というような作り方でした。そうすると、作者本人がコントロールしない分、現場に映る風景が自ら語り出しますし、現場に反応した私の身体がカメラを持つ手に伝わり、映像に映ってきます。あらかじめ用意したプロットではなく、内面の揺れと現実の風景が呼応して導かれるようなドキュメンタリーでもあります。

《彼方(Anata)》シングルチャンネル・ヴィデオ、ループ、2022年

偶然の出会いに自分の身体を拓く

Q 山城さんは今、後進の指導にも熱心に携わっていますね。

A 東京藝大の先端芸術表現科で主に映像制作の演習を受け持っています。留学生を含めて各地から優秀な学生さんが集まっていて、視野は広いし、知識も豊富です。とはいえ、まだ明確なテーマを持っていない時期。自分の20代のころを思い出して、「自分の足元を見よう」とよく言います。時々、私が自分の作品を学生へ紹介すると、「自分は生まれ育った土地に対する郷愁の念や地元意識がない」と学生から言われることがあります。私はたまたま沖縄に生まれ育ち、歴史や政治的な状況からダイレクトに島と自分、人々の暮らしや人権について考えることが多いですが、忽然と個人があって合理的な都市生活と情報社会の波に呑まれそうになったり、確固たる自分を探そうともがき、孤独や不安を感じたりする学生も多くいるように感じます。

Q 難しい問題ですね。

A 私は「自分のために作品を作る」ところから始めるので良いと思っています。私という身体が感知している事柄には、必ず社会が反映されていて、この身体が鏡のように映し出す表現や作品に、自分自身が対話を重ねてゆけば、窓が開いて次に向かう先に世界が開けてくるはず。その窓に気づくために、歴史を辿ったり、遠くに取材に出かけたり、多くの人の声に耳を傾けたりと出会いを大切にします。そして、その出会いに自分の心身がどう反応するかをじっくり味わうことが大切じゃないかと思うのです。私がそうして作品を作ってきました。頭で考えること同時に、それを脱ぎ捨てて身体全身で感じるというか、身体全体で考えることを信じるようにしてきました。多くの一般論に流されずに、身体の声を聴いて拾ったことを一つ一つ言葉にしづらいことを表現に昇華していく感じです。すごく抽象的に言っていますが。

逆に「社会の要請に合わせて作ります」っていうのは怖い。そうしたことを重点的に伝えるようにはしています。リアリティーを、身体性を獲得しなければ。だからとにかく「体を動かして」とよく言います。

Q 具体的に体を動かすって、どんなことをするのでしょうか。

A 知識だけに偏らないよう、場所をリサーチしているなら滞在時間を長くとって、そこに流れる時間に自分の身体を慣らし、通り過ぎないようにする。そのためにちょっとした空間を見つけたら寝転がってみてもいいし、目についた小石を拾って積むでもいい。カメラを覗くなど道具を使ってもいい。当たり前のようなことしか言っていませんが、今は皆、忙しいですから。さっと見ただけで立ち去ることが多いと思うのですよ。まず身体からその空間と人を感じてみる。私が去年発表した作品では、取材中の集落からふと出てきたおじいさんの跡をついていったら、禿山の鉱山地域に残された小さな森の中にウタキ(聖域)を見つけました。浜辺では折れた珊瑚を拾っては自宅で移植して珊瑚を再生させる男性にも出会った。そうして出会った方々が次の物語の役になって語り始めました。その方々の暮らしや人柄を追いかけていくと、その土地の抱える課題などが作品の中で自然と語り始めてくるんですよ。偶然の出会いから見えてくるものに自分の身体を拓いていくんです。その辺りが表現の上で大切なことだと思います。

山城知佳子(やましろ・ちかこ)

映像作家、美術家。1976年那覇市生まれ。1999年沖縄県立芸術大学美術工芸学部美術学科絵画専攻(油画)卒業。2002年沖縄県立芸術大学大学院造形芸術研究科環境造形専攻修了。2019年より東京藝術大学美術学部先端芸術表現科准教授。2021年度芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術)。近年の主な展覧会に「山城知佳子 リフレーミング」(2021年/東京都写真美術館)、「話しているのは誰?現代美術に潜む文学」(2019年/国立新美術館)、「済州4・3事件70周年祈念 ポストトラウマ」(2018年/済州道立美術館、韓国)、「第8回アジア・パシフィック・トリエンナーレ」(2015年/クイーンズランド州立美術館、オーストラリア)などがある。

「Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022 受賞記念展」は東京都現代美術館で6月19日(日)まで。詳しくは「Tokyo Contemporary Art Award」のホームページ↓をご覧ください。(https://www.tokyocontemporaryartaward.jp/exhibition/exhibition_2020_2022.html

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