【レビュー】巨匠たちの名品がズラリ――山種美術館で特別展「生誕110周年 奥田元宋と日展の巨匠 ―福田平八郎から東山魁夷へ―」 7月3日まで

奥田元宋 《奥入瀬(秋)》 1983(昭和58)年 紙本・彩色 山種美術館

特別展「生誕110周年 奥田元宋と日展の巨匠 ―福田平八郎から東山魁夷へ―」
会場:山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)
会期:2022年4月23日(土)~7月3日(日)
休館日:月曜日、ただし5月2日は開館
アクセス:JR恵比寿駅西口、東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口から徒歩約10分
入館料:一般1,300円、高校・大学生1,000円、中学生以下無料ほか。
※詳細情報はホームページ(https://www.yamatane-museum.jp)で確認を。

「元宋の赤」と言うそうである。言われるだけあって、確かに印象的だ。秋深い渓流、燃え立つような紅葉の《奥入瀬(秋)》。生命が匂い立つような「緑」の《奥入瀬(春)》。流れる水の音、木々の間で聞こえる鳥のさえずり。画面を通して、そんな音が聞こえてきそう。古稀を過ぎてから取り組んだこの一対の大作は、風景画家としての奥田元宋の真骨頂といえるものだろう。

奥田元宋 《奥入瀬(春)》 1987(昭和62)年頃 紙本・彩色 個人蔵

雄大な自然を描き続けた奥田元宋(19122003)は広島県出身。生まれ育った三次市には、人形作家である妻・奥田小由女(1936~)と元宋の作品を所蔵する「奥田元宋・小由女美術館」がある。1936年に日展(日本美術展覧会)の前身である文展(文部省美術展覧会)に初入選。以来、政府主催の美術展である官展への出品を重ねた元宋は、戦後も日展理事長を務めるなどして、日本画壇を牽引し続けた。その生誕110周年を記念して開かれているのが本展。元宋に加え、文展、帝展(帝国美術院展覧会)、日展と続く官展の歴史で名を残した画家たちの作品を展示する、格調高い、山種美術館らしい展覧会である。

展示風景

文展、帝展、日展という画壇の「幹」を支えた作家を中心に据えているだけに、さすがにひとつひとつの作品に重みがある。下に挙げたのは、元宋の師匠、児玉希望の《モンブラン》。墨絵なのだが、洋画の技法を取り入れている作品だ。セピア色の風景は、リアルでもあり幻想的でもあり、何だか仙人でも住んでいそう。山口蓬春の《芍薬》。身近な花をストレートに描いた一枚。不思議と心が明るくなる。

児玉希望 《モンブラン》 1957(昭和32)年 絹本・墨画 山種美術館
山口蓬春 《芍薬》 1957(昭和32)年 紙本・彩色 山種美術館 ⓒ公益財団法人 JR東海生涯学習財団

東山魁夷、杉山寧、髙山辰雄、山口華楊、川合玉堂、橋本明治・・・・・・。展示されている作品の作者の名前を見るだけで圧倒されてしまう。本格派の中の本格派、本流の中の本流。鬼面人を驚かす仕掛けもないし、けれん味にあふれた「技巧の博覧会」もない。研ぎ澄まされた感性、磨き尽くされた技術。それをまっすぐに生かした「本格派」の作品が並んでいるのだ。東山魁夷の《緑潤う》のみずみずしい豊潤さ、山口華楊の《生》のやさしいまなざし、多種多様な個性が会場を彩っている。

東山魁夷 《緑潤う》 1976(昭和51)年 紙本・彩色 山種美術館
山口華楊 《生》 1973(昭和48)年 紙本・彩色 山種美術館

「奇想の画家」ばかりがもてはやされがちな今、現代美術が「見せる」ことよりも「語る」ことに傾きがちな今、純粋に「見る」ことの楽しさを思い出させてくれる。そんな絵が並んだ展覧会である。

(事業局専門委員 田中聡)

展示風景