【レビュー】発想と技術で挑む印刷の極限「グラフィックトライアル2022 -CHANGE-」印刷博物館P&Pギャラリーで7月24日まで

「グラフィックトライアル2022 -CHANGE-」展が、4月23日から7月24日まで東京・文京区の印刷博物館P&Pギャラリーで開催されている。今年で第16回目を迎える本展は、第一線で活躍するクリエイターが凸版印刷とともにグラフィックと印刷表現の新たな可能性を探り、その実験成果をポスターとして発表する企画展だ。

5組のアーティストが印刷の新たな表現に挑む

 

情報を伝える媒体として最も古典的な形である印刷物。長い歴史の中でその表現技法は極限のところまで行き着いたかのような感じもするが、本展では新たな技術を交えて、まだまだ尽きることのない印刷の可能性に挑んでいる。

今回のテーマは「CHANGE」。技術の進歩やメディアの多様化に加えてコロナ禍によって激しい変化を迎えている今の時代に、5人のクリエイターが個々の解釈で感じた“CHANGE”をそれぞれ5枚のポスターで表現している。

特殊な印刷のプロセスも体感

デザインユニットのGOO CHOKI PARは「ワックスプラス」という特殊技術を用いて《MASQUERADER》(マスカレーダー)という作品を制作した。
窓付き封筒のために開発されたワックスプラスは、紙に特殊な液を流し込んで半透明にする技術だ。彼らはこれを使って、紙の表裏が曖昧になるような表現を試みた。

GOO CHOKI PAR《MASQUERADER》

本展ではポスター作品に至るまでの過程をプロセスごとにわかりやすく解説している。なかには触れる展示もある。本作では、まずオフセット印刷とインクジェット印刷でワックスプラス加工の変化の違いを試し、次に用紙ごとの変化の違いを検証。そしてワックスプラス加工後の紙の上にスクリーン印刷や箔押しなどの加飾を施して、作品に使う素材や方法を決定していった。

結果的に、片面に強い光沢があり包装紙に使われることが多いOKブリザードという用紙を採用。両面に2種類のスミ(黒)によるオフセット印刷の絵柄を入れ、さらにオモテ面にはワックスプラス加工とエンボス加工を施したポスターを完成させた。

できあがった作品は確かに表と裏の見分けがつかない。そして一枚の紙でありながら、その中にいくつものレイヤーが重なっているような不思議な印象を感じさせる。ちなみに本作はワックスプラスで加工を施した紙の中でも過去に例のない未知の大きさだったそうだ。

偽造防止技術を活用して生み出された超絶表現

アートディレクターの居山浩二が制作した《Not Dot》(ノット・ドット)は、印刷における無数の「網点」が「ドット(点)でなければどうなるだろう」という仮定のもと、斬新な表現に挑んでいる。

居山浩二《Not Dot》

印刷物に載っている写真やイラストは、大小の点の面積比率によって色の濃淡や色調を再現している。この点を網点という。網点のパターンが無数に組み合わさることによって一つの絵が構成されている。

この実験には偽造防止の観点から生まれた「スクリーンメーカー」という表現技術が使われている。これは通常は絵柄の濃度に応じて自動的にドットの大小に変換される網点を、デザインしたグラフィックを網点として使用し、濃淡の階調によって振り分けるという技術だ。階調ごとに自由な画像が指定できるので、想定外の絵柄が生まれることもある。

 

今回は濃度を24段階に分けた上で、段階ごとに網点の絵柄をデザイン。ひとつの網点を1cm角に設定し、CMYKの版を制作。すべて特色で印刷し5枚の人物写真の再現に挑んでいる。

実際に目の当たりにした作品は、遠くから見るとややドット絵調に変換された人物の写真でありながら、近くに寄って見ると1cm角の小さな範囲の中にひとつひとつ異なるパターンが描かれていることがわかる。まるで人間が分子の集合体であるということを視覚的に表しているかのようにも感じられた。

ホログラムをインクで再現

増永裕子は、凸版印刷で証券系の特殊印刷やIDカードのホログラムなどに携わっているセキュリティデザイナーである。今回の作品《BORDER》は、かつてヨーロッパを旅している途中に感じた時差という境目への違和感が表現されている。この作品で挑んだことのひとつが「印刷によるホログラムの再現」だ。

増永裕子《BORDER》

セキュリティ関連の印刷では、樹脂フィルムの表面に繊細な凹凸を付けて七色の光と立体感を表現する「エンボスホログラム」がよく使われる。今回はこれをオフセット印刷での再現に挑戦している。素材の紙を変えたり、透明マニキュア液や複数のニスを使ったり、まるで異なるアプローチからホログラムを作り出すという作業。その実験の過程を伝える展示からは増永の奮闘ぶりが伝わってくる。実験結果はポスター上に貼られたホログラムとオフセットホロを見比べながら確認してほしい。

ちなみに、コストで比べると従来のホログラム技術よりもオフセットホロの方が安価な技術になる可能性があるという。オフセットホロをはじめ、今回のような実験がすぐにビジネスに結びつくことはないというが、これを種として実用化される技術が生まれれば、印刷業界の新たなアセットに育っていくことだろう。

作家本人のインタビュー映像も見られる

専門用語も多い展示だが、日本を代表するアートディレクターである葛西薫による音声ガイドも用意されているので、こちらも利用して印刷技術における最新の試みを堪能しよう。(ライター・鈴木翔)

 

グラフィックトライアル2022 -CHANGE-
会場:印刷博物館P&Pギャラリー(東京都文京区水道1丁目3番3号トッパン小石川本社ビル)
会期:2022年4月23日(土)~7月24日(日)
休館日:月曜日(ただし7月18日は開館)、7月19日(火)
開館時間:10:00~18:00(最終入館17:30)
観覧料:無料(事前予約制)※印刷博物館展示室に入場の際は入場料が必要
詳しくは公式サイト

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